日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-CG 宇宙惑星科学複合領域・一般

[P-CG18] 宇宙・惑星探査の将来計画および関連する機器開発の展望

2022年5月31日(火) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (4) (Ch.04)

コンビーナ:坂谷 尚哉(立教大学 理学部 物理学科)、コンビーナ:小川 和律(宇宙航空研究開発機構)、吉岡 和夫(東京大学大学院新領域創成科学研究科)、コンビーナ:横田 勝一郎(大阪大学・理学研究科)、座長:坂谷 尚哉(立教大学 理学部 物理学科)、小川 和律(宇宙航空研究開発機構)、吉岡 和夫(東京大学大学院新領域創成科学研究科)、横田 勝一郎(大阪大学・理学研究科)

11:00 〜 13:00

[PCG18-P08] 小惑星着陸探査に向けた、レーザー誘起プラズマ分光法(LIBS)による隕石の元素分析

*富岡 蒼生1小倉 暁乃丞1長 勇一郎1湯本 航生1吉川 一朗2吉岡 和夫2亀田 真吾3杉田 精司1 (1.東京大学理学系研究科地球惑星科学専攻、2.東京大学新領域創生科学研究科、3.立教大学理学部)

着陸探査において、その場での元素分析を行う手法があれば、サンプルリターン無しに天体表面の元素組成を測定することができる。また、目的に沿ったサンプルを選択することで、サンプルリターンにも貢献ができる。これまでに、はやぶさ2のMASCOT着陸機がリュウグウ表面に着陸して観測を行った[1]。また、MMXでは、火星衛星フォボスにローバーを着陸させ、母船によるサンプルリターンを行う予定である。近い将来に小惑星に着陸機を下ろしての物質分析を行うことも想定され、小惑星表面上で元素分析を行う装置の開発は重要である。
Laser-induced breakdown spectroscopy(LIBS)は、レーザーを照射して試料の一部をプラズマ化させ、それが脱励起する際の元素固有の光を分光計測し、試料中の元素組成を推定する。遠隔で短時間での測定ができるという特徴を持ち、NASAの火星探査ローバーに搭載された実績がある [2, 3]。一方、小惑星のような超高真空では生じたプラズマが早く散逸して発光強度が下がるために、火星での分析精度よりも悪化することが予想される。しかし、小惑星由来の隕石試料に対して超高真空条件下でLIBS分析を行う研究は行われておらず、達成できる分析精度は不明である。
そこで本研究では、小惑星探査を想定した隕石試料として、普通コンドライトChelyabinsk隕石、炭素質コンドライトAllende隕石、Murchison隕石、Eucriteの一種であるMillbillillie隕石に対してLIBSによる元素定量分析を行った。先行研究を基にした隕石の元素濃度と定量値とを比較することで、小惑星でのその場分析を想定した元素濃度定量性能を評価した。各岩石試料は高真空(3x10-2 Pa)の真空容器に入れ、パルスエネルギー30 mJのレーザーを1 mの距離から3箇所、一箇所につき100回照射した。また、このレーザー装置が真空中でも使用できることを真空試験によって確かめた。次に市販の小型分光器をレーザーと同期させ、露光時間をプラズマの寿命より長い10 μsとして、350-885 nmの可視スペクトルを取得した。波長分解能は半値幅0.4 nmであった。標準試料として、産総研および米国地質調査所の配布する地質標準試料を10個使用した。標準試料に対して発光スペクトルを取得して、部分最小二乗回帰(PLS-R)[4]と呼ばれる多変量スペクトル解析手法で元素定量モデルを構築した。このモデルに隕石試料の発光スペクトルを読み込ませることで各元素濃度を推定した。
元素定量結果として、例えば、Millbillillieの先行研究に基づく主要元素濃度の文献値は、SiO2: 51.3, TiO2: 0.78, Al2O3: 12.9, MgO: 6.4, CaO: 10.2, Na2O: 0.42, K2O: 0.06, Fe2O3: 21.0 wt% [5]だが、定量値と文献値の差は平均して、SiO2: -0.768, TiO2: -0.401, Al2O3: +0.476, MgO: +3.77, CaO: +3.21, Na2O: +0.275, K2O: +2.05, Fe2O3: -12.6 wt%であった。定量モデルの誤差を考えると、Si, Ti, Al, Na, Kは、誤差の範囲で文献値と整合的な結果が得られた。一方で、Feは定量値が過小評価、Mg、Caは過大評価された。また、炭素質コンドライトMurchisonの定量値は、TiO2, K2Oで整合的、MgO, Fe2O3で、4.64 wt%, 23.9 wt%の過小評価、SiO2, Al2O3, CaO, Na2Oで、9-24 wt%の過大評価であった。
本研究の結果として、標準試料の濃度範囲と測定する未知試料の元素濃度が大きく外れていない範囲では、誤差の範囲で文献値と整合的な定量結果を得られた。一方で、全ての隕石で、Caは過大評価、Feは過小評価された。Chelyabinsk, Allende, Murchisonでは、Si, Alが過大評価、Mgが過小評価された。AllendeとMurchisonでNaが過大評価、MillbillillieでMgが過大評価された。今回用いた標準試料は、地球上の火成岩から構成されており、玄武岩質の隕石であるMillbillillieは、比較的正確な元素定量ができた。一方で、特に炭素質コンドライトは、SiO2の濃度が30-35 wt%と低く、地球上の岩石を用いた標準試料からは濃度の再現が難しいため、SiO2の定量値が過大評価される結果となった。このことから、地質標準試料と化学試薬を混合し、隕石試料の元素濃度を模擬した較正用試料を作成する必要があることが示唆される。具体的には、SiO2: 25-45 wt%, Al2O3: 1-5 wt%, MgO: 20-30 wt%, Na2O: 0.1-0.4 wt%, Fe2O3: 15-40 wt%の濃度範囲の標準試料が必要であることが分かった。また、炭素質コンドライトのMurchisonでは、本研究でスペクトル上にHの輝線を検出することができた。炭素質コンドライトを模擬した較正用試料を作成することで、スペクトルからHの定量を行える可能性もある。

References
[1] Jaumann et al., 2019, Science 365, 817-820
[2] Wiens et al., 2012, SSR 170, 167-227
[3] Wiens et al., 2021, SSR 217: 4
[4] Clegg et al., 2009, Spectrochim. Acta. B 64, 79-88
[5] Kitts et al., 1998, MaPS 33, A197-A213