日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-CG 宇宙惑星科学複合領域・一般

[P-CG19] 惑星大気圏・電磁圏

2022年5月29日(日) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (4) (Ch.04)

コンビーナ:前澤 裕之(大阪府立大学大学院理学系研究科物理科学科)、コンビーナ:寺田 直樹(東北大学大学院理学研究科)、関 華奈子(東京大学大学院理学系研究科)、コンビーナ:今村 剛(東京大学大学院 新領域創成科学研究科)、座長:青木 翔平(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所)、関 華奈子(東京大学大学院理学系研究科)、今村 剛(東京大学大学院 新領域創成科学研究科)

11:00 〜 13:00

[PCG19-P04] テラヘルツ分光装置を用いた火星の大気重力波の観測手法の検討

山内 良斗1濵口 優輝1黒田 剛史2佐川 英夫3、*前澤 裕之1 (1.大阪府立大学大学院理学系研究科物理科学科、2.東北大学理学研究科、3.京都産業大学理学部)

キーワード:テラヘルツヘテロダイン分光、火星大気、放射輸送モデル、大気重力波、GCM

我々はMars Ice Mapperなど次世代の火星探査機のサブペイロード搭載などを見据えて、テラヘルツヘテロダイン分光装置(THSS)の設計検討を進めている。THSS は、太陽のような背景光源を必要とせず、緯度・経度、高度、local-time を広範囲に渡ってLimb-sounding/Nadir観測できる強みをもつ。また、ダストやエアロゾルの吸収・散乱の影響を受けにくい特色も有す。このため、火星がダストストームで覆われる時期でも、火星の気象や物質輸送を担う境界層近傍まで見通すことが出来る。また大気の風速場の観測も可能である。現在のTHSSでは広帯域・高分散の分光計を実装することを想定しており、表層近傍や境界層から高度100kmを超える高高度にかけて水蒸気や一酸化炭素、そのほか大気の酸化反応プロセスに関わる微量分子の観測をターゲットとしている。これにより、星大気の水を含めた物質循環や大気ダイナミクス、表層、気象・気候環境に迫る狙いである。
本研究ではこのTHSSを用いて、火星における大気重力波の現象をどのように捉えることができるか、その手法についても検討したので報告する。大気重力波は、地球では近年、突発的な気象や、雲の形成やエアロゾルなどによる放射強制力や気候への寄与も議論されている。火星でも最近ではTrace Gas Orbiterの中間赤外の観測により、高度100-130 kmで大気重力波が砕波の様子も捉えられており(Starichenko et al. JGR Planets,128, 2021)、上層へのエネルギーや物質の輸送への寄与についての理解が重要視されている。本研究では火星での大気重力波も含めた大気データは、大気大循環モデルGCMのシミュレーションの温度や圧力、一酸化炭素の時間依存の3次元データを採用した。GCMの時間分解能、空間分解能はそれぞれ10s、1.1度(67km)である。緯度・高度の温度分布図を見ると、高度40kmから90 km以上にかけて大気重力波起因の温度の細かい変動が見えている。これを衛星からのNadir方向に空間分解能5km(アンテナ口径45cm)で疑似観測する形で放射輸送計算を実施し、一酸化炭素の460GHz帯の回転遷移のスペクトルを推定した。季節は、南半球が夏の時期とし、衛星は太陽系最大のオリポス山の上空をLST15:00に沿って高度300kmで通過していくものとした。この解析の結果、スペクトル中央の強度について、平均的な大気の変動を想定した移動平均との差分をとって、衛星の座標に対してプロットすることで重力波起因である10K程度の強度の振幅を捉えることができた。このことはTHSSを用いて火星の大気重力波に伴う全球的な温度の時間変動を2次元あるいは3次元的に捉えることができる可能性を示唆する。今後は他の経度や季節についても検証を行う計画である。