日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-CG 宇宙惑星科学複合領域・一般

[P-CG20] 宇宙における物質の形成と進化

2022年5月27日(金) 13:45 〜 15:15 302 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:大坪 貴文(自然科学研究機構 国立天文台)、コンビーナ:野村 英子(国立天文台 科学研究部)、瀧川 晶(東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻)、コンビーナ:荒川 創太(国立天文台)、座長:本間 和明(東京工業大学)、大坪 貴文(自然科学研究機構 国立天文台)


14:00 〜 14:15

[PCG20-02] 分子ガス同位体比の新しい測定手法を用いたTW Hyaまわりの原始惑星系円盤における不均一な12CO/13CO比の発見

*吉田 有宏1,2野村 英子2,1古家 健次2塚越 崇2、Lee Seokho3 (1.総合研究大学院大学物理科学研究科天文科学専攻、2.国立天文台、3.韓国天文研究院)


キーワード:原始惑星系円盤、同位体比、アストロケミストリー、惑星形成、アルマ望遠鏡

星間空間から惑星系へ至る物質進化を探るうえで、同位体組成は有力なトレーサーである。例えば、分子雲や彗星物質でみられる高い重水素存在度は、その物質が低温環境で形成されたことを示唆する。また、太陽系天体の物質でみられる質量に依存しない酸素同位体不均一は、宇宙空間における光化学的な分別メカニズムと関連付けられる。したがって、惑星形成の現場である原始惑星系円盤における同位体組成を観測的に調べることには大きな意義がある。しかし、天文観測による同位体組成の測定は容易ではない。これは、原始惑星系円盤の分子ガス輝線においては、豊富な同位体種はしばしば光学的に厚く、希少な同位体種は検出が難しいためである。

本研究では、電波干渉計を用いて円盤における同位体組成をモデル非依存に測定する新たな手法を開発した。輝線は熱運動により拡がりを持つため、光学的に厚い線中心ではなく、光学的に薄い「すそ」の部分を用いることで同位体柱密度比を導出できる。我々は、この考えを定式化し、現実的なモデルを用いて正しい値が得られることを確認した。

さらに、本手法をALMA望遠鏡によるTW Hyaまわりの円盤における12CO 3-2, 13CO 3-2輝線の観測アーカイブデータに適用し、12CO/13CO比を測定した。その結果、中心星から100 au以内の領域では、12CO/13CO比は星間空間の平均値の~0.4倍に減少していることがわかった。このメカニズムとしては、ダストとガスの相互作用の結果、気相の炭素-酸素比(C/O)が1よりも大きくなることで、炭素イオンとCOの間で同位体交換反応が進んだことが考えられる。また、100 au以遠の領域では、~1.6倍かそれ以上に増大していることが示唆された。これは、COガスの大域的な凍結と、氷からの脱離エネルギーが12COと13COで微小に違うことにより説明できる。太陽系天体では、炭素同位体比12C/13Cは場所によらず一定であるとされており、単一の円盤で4倍以上に及ぶ同位体組成の変化が見られたことは、そこで形成されうる天体の組成を考える上でも興味深い。