日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-CG 宇宙惑星科学複合領域・一般

[P-CG20] 宇宙における物質の形成と進化

2022年5月29日(日) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (5) (Ch.05)

コンビーナ:大坪 貴文(自然科学研究機構 国立天文台)、コンビーナ:野村 英子(国立天文台 科学研究部)、瀧川 晶(東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻)、コンビーナ:荒川 創太(国立天文台)、座長:荒川 創太(国立天文台)


11:00 〜 13:00

[PCG20-P04] 星間雲氷表面に吸着した分子の光イオン化ダイナミクス:ダイレクト・アブイニシオMD法によるアプローチ

*福澄 孝博1、田地川 浩人1 (1.国立大学法人北海道大学大学院工学研究院)

キーワード:星間雲氷表面、吸着分子、光イオン化ダイナミクス、ダイレクト・アブイニシオMD法

【序】宇宙における化学進化の機構解明は、宇宙物理のみならず、生命の起源と関連して重要なテーマである。3次元の宇宙空間における氷表面は、宇宙における化学進化の2次元反応場を提供する。
 本研究では、氷表面に吸着した水ダイマーおよびアンモニアダイマーの光イオン化後のダイナミクスを理論的に研究した。研究方法として、ONIOM法と組み合わせたダイレクト・アブイニシオ分子動力学法を使用し、光イオン化後のプロトン移動反応を実時間で追尾した。その結果、氷表面がプロトン移動速度を加速すること明らかにした。
【方法・理論】ONIOM法と組み合わせたダイレクト・アブイニシオ分子動力学(AIMD)法[1,2]により、光イオン化後のプロトン移動反応を実時間で追尾した。アモルファス氷表面は、水分子48個からなるクラスターを作成し、その表面にダイマー(アンモニアダイマー、または水ダイマー)を乗せ構造最適化した。ダイマー領域を、MP2/6-311++G(d,p)レベルで、氷領域をPM3レベルのONIOMとした[計算レベル: (MP2/6-311++G(d,p):PM3)]。まず、これらの系の中性状態について構造最適化を行った。その後、ゼロ点振動を考慮したAIMD計算により[3]、1ps間、中性状態でトラジェクトリーを走らせた。この計算結果より、30-40ポイントの座標および運動量ベクトルをサンプリングし、垂直イオン化後の反応を実時間で追尾した。また、氷表面が反応速度、および反応メカニズムへ及ぼす効果を明らかにするため、気相でのダイマーの反応ダイナミクスを、MP2/6-311++G(d,p) レベルで計算し、氷表面のダイナミクスと比較した[4-7]。 Fig. 1. Snapshots of ammonia dimer radical cation on ice surface (NH3)2+(H2O)48 after vertical ionization from neutral state calculated as a function of time. The calculation was carried out at the (MP2/6-311++G(d,p): PM3) level.
【結果・考察】(MP2/6-311++G(d,p):PM3)レベルでの構造最適化の結果、アンモニアダイマーの分子間距離RNN= 3.174 Å、および、水素結合の距離r1=1.790 Åが得られた。アンモニアダイマーは、プロトンドナータイプのアンモニア分子(NH3)dとプロトンアクセプタータイプのアンモニア分子(NH3)aの2種類から構成される。イオン化後のスナップショットを図1に示す【序】宇宙における化学進化の機構解明は、宇宙物理のみならず、生命の起源と関連して重要なテーマである。3次元の宇宙空間における氷表面は、宇宙における化学進化の2次元反応場を提供する。
 本研究では、氷表面に吸着した水ダイマーおよびアンモニアダイマーの光イオン化後のダイナミクスを理論的に研究した。研究方法として、ONIOM法と組み合わせたダイレクト・アブイニシオ分子動力学法を使用し、光イオン化後のプロトン移動反応を実時間で追尾した。その結果、氷表面がプロトン移動速度を加速すること明らかにした。
イオン化後 (time=0 fs)、ホールは(NH3)dに局在化した。その後、(NH3+)dから(NH3)aへ、プロトンが移動した。このプロトン移動のタイムスケールは、38 fsと得られた。プロトン移動後、(NH2—NH4+)錯合体が生成するが、プロトンを受け取ったNH4+が、氷表面の水分子に溶媒和され、NH2とNH4+に分解し反応が完結した。錯合体の寿命は、100-150 fsであった。NH2ラジカルは、水分子から水素原子を引き抜き、NH3となって氷表面から離脱した。
同様な計算を気相中のアンモニアダイマーについて行ったところ、プロトン移動の速度として、50 fsが得られた。この結果は、氷表面がプロトン移動速度を加速していることを強く示唆している。また気相中は、(NH2—NH4+)錯合体は解離せず、寿命が無限大となった。同様な計算を、水ダイマー系へ行ったところ、氷表面がプロトン移動速度を加速する結果が得られた。講演では電子状態を含め、氷表面が吸着分子へ与える影響を報告する。