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[PEM11-P03] Arase衛星を用いた高緯度・プラズマポーズ近傍におけるホイッスラーモードコーラスのダクト伝搬の事例解析
キーワード:ホイッスラーモードコーラス、ダクト伝搬、Arase衛星、プラズマポーズ
ホイッスラーモードコーラス(以下、コーラス)は、波動粒子相互作用により磁気赤道面付近で発生するプラズマ波動の一種である。コーラスによりピッチ角散乱を受けた高エネルギー電子は極域に降下し、Diffuse Auroraを発生させる。
特に、高緯度に伝搬したコーラスは電子との共鳴エネルギーが高くなり、相対論的電子を大気に降下させうるため、マイクロバーストの発生、放射線帯電子の消失、中層大気への影響といった観点で注目されている。コーラスを高緯度まで減衰することなく伝搬させるメカニズムとして、磁力線に沿って電子密度が増加/減少した「ダクト構造」に沿った伝搬が有力とされてきた。
しかし、ダクト構造内を伝搬するコーラスの観測例は数例にとどまる(Chan et al. 2021, Moullard et al. 2002, Haque et al. 2011)。そこで本研究では、磁気緯度20度以上の領域でArase衛星がとらえた、ダクト構造内を伝搬するとみられるコーラスの観測例を示す。
2018年6月から7月の二ヶ月間のArase衛星観測データから、コーラスのダクト伝搬とみられるイベントをプラズマポーズ付近にて22例確認し、そのうちコーラスがダクト内を伝搬する特徴が明瞭な一例について詳細に解析を行った。
Arase衛星搭載機器Plasma Wave Experiment (PWE)のHigh Frequency Analyzer (HFA)とOnboard Frequency Analyzer (OFA)は、2018年6月2日 10:04–10:14 UTに、磁気緯度-23度、L値4.0のプラズマポーズ近傍にて、電子密度の増加によるダクト構造とダクト内を伝搬するとみられるコーラスを観測した。
まず、Magnetic Field Experiment (MGF)が観測した背景磁場強度とOFAが観測した磁場のスペクトルマトリクスを用いて波動の伝搬角を計算した。ダクト内と判定された領域でのコーラスの伝搬角は30 deg程度となり、ダクト外と判定された領域での伝搬角80 deg程度に比べて小さいことを確認した。伝搬角とホイッスラモードの分散関係からダクト内の磁力線平行方向の波数を計算した。同じ周波数では、ダクト内を伝搬中の磁力線方向の波数 k∥ が一定になること、つまりスネルの法則に当てはまることを確認した。一方で、磁力線垂直方向の波数 k⊥は、ダクト内の電子密度に従って変化し、コーラスは k⊥=0となる臨界密度より電子密度が高い領域内でダクト伝搬する。分散関係から、臨界密度は周波数の上昇に従って高くなる事が予測されるので、コーラスがダクト伝搬できる領域は周波数の上昇に従って狭くなる(Chen et al. 2021)。この特徴を観測結果と比較したところ、本イベントは時間方向のデータ数が限られることから、観測と予測の完全な一致は確認できなかったが、ダクト伝搬の幅という観点で整合性があることを確認した。
さらに、本イベントで観測したコーラスの下限・上限周波数の決定要因を調べた。コーラスの下限周波数はローカルlower hybrid resonance (LHR)周波数より高い値で、発生箇所での下限周波数か、伝搬経路中のLHR周波数により制約されたと考えられる。上限周波数について、磁場モデル(TS04、T89、及びIGRF)を用いて計算した同磁力線上の磁気赤道面における電子サイクロトロン周波数の1/2倍の値と本イベントで観測したコーラスの上限周波数の比較から、観測されたコーラスはLower Band Chorus(LBC)であることが確認された。上限周波数はLBCの発生時の上限周波数を反映していると考えられる。
本結果から、本イベントで観測したダクト内を伝搬するコーラスは、発生域からプラズマポーズ近傍のダクト構造に沿ってダクト伝搬してきたコーラスと解釈して矛盾がないことが確認された。
発表に際しては、現在進めている他の観測例の解析結果、特に、電子密度の増加によるダクト伝搬と電子密度の減少によるダクト伝搬が交互に出現しているイベント、およびダクト内でホイッスラモード波動の伝搬と高エネルギー電子の散乱が同時に発生しているイベントについても報告したい。
特に、高緯度に伝搬したコーラスは電子との共鳴エネルギーが高くなり、相対論的電子を大気に降下させうるため、マイクロバーストの発生、放射線帯電子の消失、中層大気への影響といった観点で注目されている。コーラスを高緯度まで減衰することなく伝搬させるメカニズムとして、磁力線に沿って電子密度が増加/減少した「ダクト構造」に沿った伝搬が有力とされてきた。
しかし、ダクト構造内を伝搬するコーラスの観測例は数例にとどまる(Chan et al. 2021, Moullard et al. 2002, Haque et al. 2011)。そこで本研究では、磁気緯度20度以上の領域でArase衛星がとらえた、ダクト構造内を伝搬するとみられるコーラスの観測例を示す。
2018年6月から7月の二ヶ月間のArase衛星観測データから、コーラスのダクト伝搬とみられるイベントをプラズマポーズ付近にて22例確認し、そのうちコーラスがダクト内を伝搬する特徴が明瞭な一例について詳細に解析を行った。
Arase衛星搭載機器Plasma Wave Experiment (PWE)のHigh Frequency Analyzer (HFA)とOnboard Frequency Analyzer (OFA)は、2018年6月2日 10:04–10:14 UTに、磁気緯度-23度、L値4.0のプラズマポーズ近傍にて、電子密度の増加によるダクト構造とダクト内を伝搬するとみられるコーラスを観測した。
まず、Magnetic Field Experiment (MGF)が観測した背景磁場強度とOFAが観測した磁場のスペクトルマトリクスを用いて波動の伝搬角を計算した。ダクト内と判定された領域でのコーラスの伝搬角は30 deg程度となり、ダクト外と判定された領域での伝搬角80 deg程度に比べて小さいことを確認した。伝搬角とホイッスラモードの分散関係からダクト内の磁力線平行方向の波数を計算した。同じ周波数では、ダクト内を伝搬中の磁力線方向の波数 k∥ が一定になること、つまりスネルの法則に当てはまることを確認した。一方で、磁力線垂直方向の波数 k⊥は、ダクト内の電子密度に従って変化し、コーラスは k⊥=0となる臨界密度より電子密度が高い領域内でダクト伝搬する。分散関係から、臨界密度は周波数の上昇に従って高くなる事が予測されるので、コーラスがダクト伝搬できる領域は周波数の上昇に従って狭くなる(Chen et al. 2021)。この特徴を観測結果と比較したところ、本イベントは時間方向のデータ数が限られることから、観測と予測の完全な一致は確認できなかったが、ダクト伝搬の幅という観点で整合性があることを確認した。
さらに、本イベントで観測したコーラスの下限・上限周波数の決定要因を調べた。コーラスの下限周波数はローカルlower hybrid resonance (LHR)周波数より高い値で、発生箇所での下限周波数か、伝搬経路中のLHR周波数により制約されたと考えられる。上限周波数について、磁場モデル(TS04、T89、及びIGRF)を用いて計算した同磁力線上の磁気赤道面における電子サイクロトロン周波数の1/2倍の値と本イベントで観測したコーラスの上限周波数の比較から、観測されたコーラスはLower Band Chorus(LBC)であることが確認された。上限周波数はLBCの発生時の上限周波数を反映していると考えられる。
本結果から、本イベントで観測したダクト内を伝搬するコーラスは、発生域からプラズマポーズ近傍のダクト構造に沿ってダクト伝搬してきたコーラスと解釈して矛盾がないことが確認された。
発表に際しては、現在進めている他の観測例の解析結果、特に、電子密度の増加によるダクト伝搬と電子密度の減少によるダクト伝搬が交互に出現しているイベント、およびダクト内でホイッスラモード波動の伝搬と高エネルギー電子の散乱が同時に発生しているイベントについても報告したい。