日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM12] 太陽地球系結合過程の研究基盤形成

2022年5月26日(木) 09:00 〜 10:30 302 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:山本 衛(京都大学生存圏研究所)、コンビーナ:小川 泰信(国立極地研究所)、野澤 悟徳(名古屋大学宇宙地球環境研究所)、コンビーナ:吉川 顕正(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、座長:山本 衛(京都大学生存圏研究所)、野澤 悟徳(名古屋大学宇宙地球環境研究所)

10:00 〜 10:15

[PEM12-05] レーダー干渉計インバージョンによる3次元風速場推定手法の開発

*田村 亮祐1、西村 耕司1橋口 浩之1 (1.京都大学生存圏研究所)

キーワード:大気レーダー、干渉計観測における逆問題

大気レーダーは、大気の屈折率変化により生じる電波散乱を利用して風速に代表される物理量の推定を行う。その推定精度は、観測モデルに大きく依存する。しかし、大気散乱の物理的、統計的性質とレーダーの送受信システムを考慮した観測モデルは提案されてこなかった。そのため、従来の観測モデルでは、さらなる推定精度の向上や空間高分解能観測、さらには、2次以上の統計量推定を行うには限界があった。 近年、大気乱流の物理的性質、統計的性質を考慮した散乱モデルとレーダーシステムの送受信モデルに基づいた理論(スペクトル観測理論)から大気レーダーの観測方程式(スペクトル観測方程式)が提唱された。これに基づき、従来観測モデルでは厳密な検討が困難だった信号のパワースペクトル形状に寄与する2大要素、レーダービームの広がりが原因のスペクトル幅を押し広げる効果(ビームブロードニング)と速度分散による効果を、観測方程式のインバージョン(逆問題)により、正確に推定できるようになった。この理論は、複数の受信チャンネルを持つレーダー干渉計システムにも容易に拡張できる。干渉計観測では、受信信号のパワースペクトル(自己相関関数)の他にクロススペクトル(相互相関関数)も取得できる。クロススペクトルは、レーダー上空を移流されていく散乱体の速度ベクトルとアンテナの空間的配置によって決定されるため、風速推定が可能となる。 本研究は、スペクトル観測理論をレーダー干渉計に拡張したスペクトル観測方程式のインバージョンによる3次元風速推定手法の開発をその目的とする。特に、 提案手法をビーム走査可能な大気レーダーに適用すると、大気の3次元風速場推定が可能となる点が従来法との相違で特筆すべき事項である。観測方程式の順問題の数値的計算負荷は非常に大きいため、推定量である水平風と鉛直風を分離して推定可能にするなどの工夫を行い実用的な時間内でインバージョンが可能な推定法 (RI) を開発した。RIの検証を目的として、背景風により移流される散乱体を、ある平均速度と速度分散を与えた3次元風速の確率分布にしたがい移動する点散乱ターゲットに見立てた散乱シミュレーションを開発し、シミュレーション信号からRIによって3次元風速と速度分散を推定した。この場合、推定値はシミュレーションの設定値(真値)と比較が可能で、従来手法と比較してもRIは高精度な推定手法であると分かった。 この検証を経たのちに、RIをMUレーダーの観測信号に適用し3次元風速推定を行った。 ノイズや大気の非等方構造により、推定困難となる事例も見られ、従来法との比較では、推定値のばらつきが大きくなる傾向にあったが、風速推定が可能となった。今後は、実観測へ適用するための信号処理手法の工夫が課題である。 RIは、MUレーダーのみならず、赤道大気レーダー、PANSYレーダーや下部対流圏レーダーなど様々な大気レーダーで活用が可能であり、今後はこれらのレーダーへ適用を行なっていく予定である