日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS03] 太陽系小天体:太陽系進化における最新成果と今後の展望

2022年5月25日(水) 15:30 〜 17:00 展示場特設会場 (1) (幕張メッセ国際展示場)

コンビーナ:岡田 達明(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、コンビーナ:黒田 大介(京都大学)、樋口 有理可(産業医科大学)、座長:岡田 達明(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、樋口 有理可(産業医科大学)

15:30 〜 16:00

[PPS03-01] はやぶさ2ミッションの総括:リュウグウ近傍観測と帰還サンプルが語るリュウグウの歴史

★招待講演

*渡邊 誠一郎1、山田 理央奈1杉田 精司2北里 宏平3岡田 達明4並木 則行5橘 省吾2,4荒川 政彦6安部 正真4田中 智4、はやぶさ2 サイエンスチーム (1.名古屋大学、2.東京大学、3.会津大学、4.宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所、5.国立天文台、6.神戸大学)

キーワード:小惑星、惑星探査、クレーター、炭素質コンドライト、太陽系形成

はやぶさ2の定常運用は2022年3月に終了する.小惑星リュウグウの近傍観測と持ち帰られた表面試料分析から太陽系形成とその後のリュウグウの歴史について議論する.
 初期分析の結果から,リュウグウ試料は,鉱物構成・鉱物組成と同位対比などから,CIコンドライトに類似することが確認された[1,2,3].水素,炭素,および窒素の安定同位体比の大きな異常を持つ粒子の存在が確認され,分子雲の低温環境で生成された粒子の一部が,同位体平衡を受けずに保持されていることが示唆される[4].全炭素量はCIコンドライトと同等だが,炭酸塩がかなり多く含まれており,その分,有機炭素量はやや少ない.硫化鉄結晶中の流体包有物にCO2が含まれていること[3],アンモニウム塩もしくは有機窒素化合物のNHの吸収が見られること[5],コンドリュールやCAIの含有量が非常に少ないこと[3]などから,リュウグウ母天体はCO2やNH3のスノーラインの外側(木星軌道の外側)で生まれた可能性が高い.母天体中での水質変成は,100kmサイズの氷天体の内部で,CAI形成後500-600万年程度経過した時期に,26Alの崩壊熱で生じた310 K程度の温度の流体中で進行したと推定される[6].水質変成度が少ない粒子も見つかることは,天体の表層近くと内部の温度の違いで説明できる[3].水質変成度の低い粒子には空隙率が特に高いものがあり[3],フラッフィーな氷・石粒子からの微惑星形成が示唆される.注目すべきは100μT程度の残留磁化を保持する磁鉄鉱フランボイドが見つかったこと[7]で,母天体のダイナモもしくは木星など巨大惑星の磁場の影響が推定される.
 これらのリュウグウ粒子から得られた結果は,炭素質コンドライト母天体が外部太陽系で形成された100 km程度の直径をもつ氷微惑星であって,巨大惑星による散乱で内側太陽系にもたらされたとするシナリオに整合する.しかし,リュウグウの反射スペクトルおよび天体力学的な解析から,その母天体は内側小惑星帯にある衝突族と考えられる[8].このため,巨大惑星の散乱でこのような内側小惑星帯まで影響が及ぶのか検証する必要がある.いずれにせよ,CIコンドライトの母天体(の少なくとも1つ)が内側小惑星帯の衝突族であったというのは大きな発見である.
 リュウグウ形成後の歴史についても多くのことがわかってきた.リュウグウ形状モデルを使ったYORP効果の解析から,リュウグウはゆっくりとスピンダウンしており,過去(~1000万年前)に高速自転をしていたと推定される[9].リュウグウの表面の傾斜分布の解析からも自転周期が3.5から3.75時間のときに表面地滑りでコマ型形状が形成されたことが示唆される[10].リュウグウのクレーターリムの東西非対称性が高速自転時のコリオリ力で生じたとの先行研究[11]を受け,精密な地形補正を行った解析から,リュウグウの3つの大型クレーターが西が高く赤道側が高いリムをもつことを明らかになった[12].これらのクレーターは他のクレーターに比べ,高速自転時にコリオリ力の影響を受けやすく,周辺地形の平均傾斜角が大きいことを確認した.以上のことから,リュウグウは約1000万年前の高速自転時にコマ型形状が造られ,その後,スピンダウンする中でクレーター形成が進んだものと考えられる.今後は,こうしたリュウグウの歴史を帰還試料の分析から読み解くことが求められる.

[1] Yurimoto et al. 2022, LPSC abstract #1377; [2] Yokoyama et al. 2022, LPAC abstract #1273; [3] Nakamura et al. 2022, LPSC abstract #1753; [4] Yabuta et al. 2022 LPSC abstract #2241; [5] Pilorget et al. 2021, Nat. Astron. doi:10.1038/s41550-021-01549-z; [6] Nagashima et al. 2022, LPSC abstract #1689;
[7] Kimura 2022, LPSC abstract #1101; [8] Sugita et al. 2019, Science 364, aaw0422; [9] Kanamaru et al. 2021; JGRE 126, 12; [10] Watanabe et al. 2019, Science 364, 268; [11] Hirata et al. 2021, Icarus 354, 114073; [12] Yamada 2022, Master Thesis, Nagoya Univ.