日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS03] 太陽系小天体:太陽系進化における最新成果と今後の展望

2022年5月26日(木) 09:00 〜 10:30 展示場特設会場 (1) (幕張メッセ国際展示場)

コンビーナ:岡田 達明(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、コンビーナ:黒田 大介(京都大学)、樋口 有理可(産業医科大学)、座長:上椙 真之(公益財団法人高輝度光科学研究センター)、岡田 達明(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)

09:45 〜 10:00

[PPS03-09] 地球帰還試料の多バンド分光計測によるリュウグウ物質のスペクトル空間分布解析

*古市 圭佑1湯本 航生1矢部 佑奈1長 勇一郎1森 晶輝1小倉 暁乃丞1愛敬 雄太1、宮崎 明子2矢田 達2、畠田 健太郎2、与賀田 佳澄2安部 正真2岡田 達明1,2、西村 征洋2臼井 寛裕1,2杉田 精司1 (1.東京大学、2.JAXA/宇宙科学研究所)

キーワード:リュウグウ、C型小惑星

小惑星リュウグウは地球近傍のC型小惑星で、2014年に打ち上げられた探査機「はやぶさ2」の目的の小惑星としてリモートセンシングやサンプルリターンが行われた。C型小惑星は生命の材料となる水や有機物を含む炭素質コンドライトの起源とされており、太陽系初期にこれらの物質が地球にもたらされた可能性がある。

リモートセンシングの結果、リュウグウの形状や構造、表面の色の分布などが分かっており1,2,3、層序年代が若くクレーター密度の低い地域ほど青みがかったスペクトルを持つことが観測から明らかにされている2,3。しかしながら、どのようなプロセスが強く効いてリュウグウの構成物質の色が変化しているかはまだ解明されていない。また、帰還粒子全体の平均スペクトルは報告されているが4、個々の粒子の間に見られる反射率とスペクトルの際の程度やその原因は、まだ解明されていない。

本研究ではリュウグウ帰還試料の初期記載の1つとして、JAXAキュレーション施設内に新開発の可視マルチバンド分光測定装置5を持ち込んで、試料の反射率と色の空間分布を測定した。本装置は、はやぶさ2に搭載された光学航法カメラ(ONC-T)と等価な、6つの可視波長帯(ul:0.39 µm, b:0.48 µm, v:0.55 µm, Na:0.59 µm, w:0.70 µm, x:0.85 µm)の光を30°の入射角でリュウグウ試料に照射し、直上から1.2 µm/pixの解像度の画像を撮影した。標準散乱体(Spectralon/Labsphere社)を用いて画像の校正を行い、6つの波長帯での反射率マップを取得し、スペクトルの傾きを計算した。今回は、直径>1 mmの5つの粒子と、多数の細かな粒子が試料皿に載せられたバルク試料の4つを測定した。

特に、直径<120 µmの微細な粒子が集まっているサンプル(試料番号:C0205)について、反射率とスペクトル傾斜(bx slope)について比較を行った結果、反射率が高いほどスペクトルの傾きが小さい(青い)という傾向があると分かった。これは、リュウグウのリモートセンシングの結果2と一致する傾向である。この傾向は、リュウグウの岩石が、宇宙風化や太陽熱、ダストに覆われるなどといったプロセスによって赤く暗い物質に変化したと考えられ2,3、リュウグウの表面進化を理解するうえで重要な鍵を握っている。一方、1σ区間で反射率の分布は0.53 ~ 4.0%、スペクトルの傾きの分布は-1.2 ~ +2.0 (µm-1)とリモートセンシングの結果(反射率:1.7 ~ 2.1%,スペクトルの傾き:0.02 ~ 0.16 (µm-1)) 2よりも非常に幅広い。リュウグウは、メートルスケールでの地域差の不均質以上に幅広い反射率とスペクトルの傾きを持つ物質がよく混ざって構成されているということが示唆された。

一方、このリュウグウ試料の幅広い色の分布は、粒子ごとに平均化すると大幅に狭くなり、低解像度(例:2 m/pix)で撮像されたリュウグウのグローバルな色分布2と同程度の分布幅となった。計測した試料の粒子の粒径は最大でも数mmであるので、この結果はリモートセンシングの結果と3桁ほど異なるスケールで色の分布幅が一致していることを意味する。このスケール間でのスペクトルの不均一度合いが変わらない場合、数mmの粒子でリュウグウのメートルスケールの不均一性を説明できるほか、mmよりも細かなスケールで物質の分別や粒子の生成が起こり、不均一性が増すようなプロセスを経験した可能性が示唆される。

References
1. S. Watanabe et al., 2019. Science. 364, 268-272
2. S. Sugita et al., 2019. Science. 364, eeaw0422.
3. T. Morota et al., 2020. Science. 368, 654-659
4. T. Yada et al., 2021. Nature Astronomy. https://doi.org/10.1038/s41550-021-01550-6
5. Y. Cho et al., Submitted to PSS.