日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS03] 太陽系小天体:太陽系進化における最新成果と今後の展望

2022年6月2日(木) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (4) (Ch.04)

コンビーナ:岡田 達明(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、コンビーナ:黒田 大介(京都大学)、樋口 有理可(産業医科大学)、座長:黒田 大介(京都大学)、樋口 有理可(産業医科大学)、岡田 達明(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)

11:00 〜 13:00

[PPS03-P16] ステレオ計測によるリュウグウ粒子の密度推定

*愛敬 雄太1矢部 佑奈1湯本 航生1長 勇一郎1森 晶輝1小倉 暁乃丞1古市 圭佑1、宮﨑 明子2矢田 達2、畠田 健太郎2、与賀田 佳澄2安部 正真2岡田 達明1,2、西村 征洋2臼井 寛裕1,2諸田 智克1杉田 精司1 (1.東京大学、2.JAXA/宇宙科学研究所)

キーワード:リュウグウ、はやぶさ2、密度、空隙率

研究背景:はやぶさ2探査機による重力と形状の測定から求められたC型小惑星リュウグウの平均密度(1.19±0.02 g/cm3)と、地上で見つかっている中で最も軽い炭素質コンドライトであるOrgueil隕石の密度(2.42±0.06 g/cm3)の比較から、リュウグウは50%以上もの高空隙率を持つと推定されている[1]。リュウグウの空隙には構成粒子間に存在するマクロな空隙と構成粒子内に存在するミクロな空隙があり[2]、マクロな空隙とミクロな空隙のどちらが主であるかにより、そこから考えられるリュウグウの進化史は大きく異なる。マクロな空隙が主体の場合、リュウグウの母天体が別の天体と衝突して破壊され、その後ラブルパイル天体として再集積した歴史が高空隙率に反映されていると考えられる。ミクロな空隙が主体の場合は、ラブルパイル形成より前に、揮発性物質の散逸や角礫岩化などのプロセスで粒子内に多数の空隙が作られたことが示唆される。
研究目的:はやぶさ2探査機が地球に持ち帰ったリュウグウ試料の個別粒子1つ1つの密度を測れば、リュウグウの空隙が主にマクロな空隙なのかミクロな空隙なのか判別できる可能性がある。そこで本研究では、リュウグウ試料粒子のステレオ計測によって三次元形状モデルを作成し、そこから体積を推定した。先行研究[3]で得られている質量計測と本研究の体積推定値から密度を得ることを目標とした。
研究手法:JAXA宇宙科学研究所のキュレーション施設内にあるクリーンルームにおいて、鉛直軸の周りを回転するカメラを用いて、周囲からLEDライトで照らしたリュウグウ試料の粒子を多数の方向から見込み角45度で斜めに撮影(ステレオ撮影)した。1回のカメラ回転のみでは粒子周囲の全方向からステレオ撮影することはできないため、手動での粒子回転も行い粒子周囲の全方向からステレオ撮影した。Agisoft社のソフトMetashapeを用いて、ステレオ撮影された画像から三次元形状モデル作成を行った。作成された三次元形状モデルに対して、粒子と同じ条件で撮影されたグリッドの画像を用いてスケーリングを行い、また三次元形状モデル内に含まれる粒子以外の部分を除去する処理を施した上で粒子の体積を推定した。
装置改良の評価:リュウグウ粒子を測定するにあたって、計測精度向上のために既存の装置に対してカメラの見込み角を0~30度から45度へと大きくするなどの改良を施した。この評価を行うため、リュウグウ粒子の模擬としてグラファイト粒子を用いた形状測定・密度推定を実施した。改良を行う前の装置で同じグラファイト粒子をステレオ撮影した画像から作成された三次元形状モデルと比較して、粒子下側の形状が見えるようになり、また三次元形状モデルのノイズが小さくなるなど定性的には粒子形状の計測精度が向上していることが確認された。
リュウグウ粒子の密度測定:改良された装置を用いて、リュウグウ粒子をステレオ計測した。リュウグウ試料の粒子は壊れやすく、また測定に使える時間には限りがあるため粒子を裏返して撮影を行うことは難しい。そのため、斜め上方向からの撮影のみで底面近くの面まで捕捉して形状測定の精度を向上させる必要があった。ステレオ撮影された画像を解析した結果、2021年11月に測定を実施した5個の粒子のうち1個のみであったが密度推定を成立させることができた(1.06±0.17 g/cm3)。その推定値は、先行研究[3]における楕円体近似による測定体積から求められる粒子密度(1.12±0.08 g/cm3)と整合する値であることも確認された。もしこの粒子がリュウグウ全体を代表しているならば、リュウグウの空隙はミクロな空隙が主であることが示唆される。本研究で実施した、ステレオ計測によって三次元形状モデルを作成して体積を推定する方法は、先行研究[3]が用いた光学顕微鏡画像と光学顕微鏡のピント合わせから得られる粒子高さを用いた楕円体近似による体積測定よりも原理的には正確な体積が推定可能である。今後は、この計測手法を用いて多数の粒子の密度を推定していきたい。
文献:[1]Watanabe et al., 2019, Science, 364(6437). [2] Grott et al., 2020, J. Geophys. Res.: Planets, 125(12). [3] Yada et al., 2021, Nat. Astron., https://doi.org/10.1038/s41550-021-01550-6