日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS05] Science of Venus: knowing more about the earth's sister planet

2022年5月23日(月) 09:00 〜 10:30 303 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:佐藤 毅彦(宇宙航空研究開発機構・宇宙科学研究本部)、コンビーナ:堀之内 武(北海道大学地球環境科学研究院)、Gilmore Martha S(Wesleyan University)、コンビーナ:Marcq Emmanuel(Laboratoire Atmospheres, Exploration Spatiale, Institut Pierre-Simon Laplace, Universite de Versailles Saint-Quentin)、Chairperson:Martha S Gilmore(Wesleyan University)、佐藤 毅彦(宇宙航空研究開発機構・宇宙科学研究本部)、堀之内 武(北海道大学地球環境科学研究院)

09:15 〜 09:30

[PPS05-07] 金星大気雲層下部における二酸化硫黄濃度の高度分布の導出

*尾沼 日奈子1野口 克行1安藤 紘基2今村 剛3佐川 英夫2 (1.奈良女子大学、2.京都産業大学、3.東京大学)


キーワード:金星、雲、二酸化硫黄

金星の高度45–70 kmには硫酸からなる雲が存在し、惑星全体を覆っている。この雲は、太陽光入射の約78 %を宇宙空間に反射する一方で、地表面や下層大気からの赤外線を吸収・放射することで温室効果を引き起こす。そのため、金星の雲に関する知見は大気の熱収支や大気循環を知る手掛かりとなる。金星の雲の主材料である硫酸蒸気の生成にはSO2が不可欠であると考えられており、故にSO2の分布に関する情報は、金星の雲物理を理解する上で重要である。
SO2混合比を測定した観測として、欧州宇宙機関(ESA)が実施したVenus Expressミッションの太陽掩蔽観測(SOIR)や赤外分光観測(SPICAV)がある。これらは高度65 kmより上のSO2混合比の高度分布を示し、高度と共に混合比が増大する様子を捉えた。一方、高度65 km以下の観測では、過去に旧ソ連が実施したVEGAのプローブ観測とVenus Expressの電波掩蔽観測が挙げられる。前者は、地表面から高度60 kmまでのSO2混合比の高度分布を示したが、その観測数は極めて少ない。後者は、北極域を中心に全球で観測を行い高度51-54 kmにおけるSO2混合比の平均値を導出した。
本研究では、あかつき電波掩蔽観測の電波受信強度の時系列データを用いて、低緯度域における高度50-55 kmでのSO2混合比の高度分布を導出した。電波掩蔽観測とは、探査機が惑星の背後に隠れる時または背後から出てくる時に地上局に向けて電波を送信し、惑星大気を通過してきた電波の受信強度や周波数の時系列データを解析することで、その惑星大気に関する情報を得る手法である。金星の場合は、電波強度の時系列データを解析することで、大気に含まれる硫酸蒸気混合比の高度分布を得ることができる。
我々は、硫酸蒸気は過飽和しないと仮定することで硫酸蒸気の飽和蒸気圧を上回る部分が全てSO2に起因するとみなし、SO2混合比の高度分布を推定した。2016年から2020年までに取得されたデータを解析対象として、低緯度(40˚S–40˚N)の雲層下部(50-55km)における32本のSO2高度分布を用いて高度ごとに平均した。その結果、高度50 kmにおけるSO2混合比は200 ppm程度であり、高度が上がるにつれて混合比が減少し、高度55 kmでは50 ppm程度であった。このような高度方向の変化や混合比の値は、VEGAプローブ観測やVenus Express電波掩蔽観測の結果とおおよそ整合する。本発表では、SO2高度分布のローカルタイム依存性や長期変動、光化学モデルとの比較についても議論する。