日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS07] 惑星科学

2022年5月24日(火) 10:45 〜 12:15 展示場特設会場 (1) (幕張メッセ国際展示場)

コンビーナ:菊地 紘(宇宙航空研究開発機構)、コンビーナ:金丸 仁明(宇宙航空研究開発機構)、座長:菊地 紘(宇宙航空研究開発機構)、逸見 良道(東京大学)

11:15 〜 11:30

[PPS07-03] 超小型衛星搭載の膜面型ダストセンサによる宇宙塵観測:ASTERISCプロジェクト

*石丸 亮1、小林 正規1、奥平 修1、前田 恵介1坂本 祐二2、藤田 伸哉3、木村 宏1、松井 孝典1 (1.千葉工業大学 惑星探査研究センター、2.北海道大学、3.東北大学)

キーワード:宇宙塵、ダストセンサ、超小型衛星、キューブサット

千葉工業大学惑星探査研究センター(PERC)は、独自の惑星科学探査を高頻度で継続的に行うことを目指し,超小型衛星プロジェクトを2012年に立ち上げた.PERCの超小型衛星2号機ASTERISCは,独自に開発する膜面型の粒子観測システムを搭載し,宇宙塵を観測することを目的とする3Uキューブサット(大きさ30cm×10cm×10cm,質量3.8kg)である.宇宙塵の観測の難しさの要因の一つとして,数密度が非常に小さいことが挙げられる.例えば,宇宙塵の数密度は太陽からの距離のほぼ逆数で減少していくが,地球軌道であってもミクロンサイズの塵が数十メートル立方あたり1個程度しか存在しない.そのため,統計的に有意な数を検出するには大きな検出面積を持つ粒子観測装置が必要であった.
 PERCが独自に開発した膜面型ダストセンサシステムは,(i)ダスト粒子がポリイミド膜に衝突することによって発生する弾性波を膜面上に配置接着された圧電素子群により電気信号に変換し、(ii)圧電素子からの信号を高速サンプリング・オンボード処理することによりダストの衝突として検出する.膜面自体をダストセンサとする技術であるため,膜の面積を大きくするだけで大面積センサを容易に実現できるメリットがある.さらに,膜上の複数の離れた圧電素子により信号を同時計測することで,各圧電素子によって取得された信号の到達時刻,振幅,FFTスペクトルなどで真の信号とノイズを明確に区別することが可能な技術である.ASTERISCは,地球周回軌道上で宇宙塵を観測するのに十分に大きい膜面型ダストセンサ(31cm×24cm)を折り畳んだ状態で搭載し,打ち上げ・軌道投入後に地上からのコマンドでセンサを展開して使用する.
 宇宙塵には、太陽を周回する塵以外に,太陽光の輻射圧によって太陽系の内側から外側へ吹き飛ばされそのまま太陽系外の星間空間へと到達する塵(βメテオロイドと呼ばれる)が存在する.粒径の小さい粒子ほど太陽輻射圧が効率的に働くため,粒径の小さい宇宙塵の大部分はβメテオロイドと考えられている.βメテオロイドは太陽系の内から外へ定常的に物質を輸送する主要なプロセスの一つであると考えられているが,観測の難しさからその理解は十分ではなかった.想定されるβメテオロイドのサイズは小さく(数μm以下)センサの感度的に検出が難しいことに加え,βメテオロイドが太陽方向から飛来するため、太陽方向を向けて観測することが課題となる.宇宙機搭載ダストセンサ(粒子計測器)の主流は衝突電離式であるが,原理的に太陽方向を向けた観測ができない(衝突電離式は、宇宙塵がセンサに衝突することで電離するイオンを計測する方法であるが,太陽光が当たることで生じる光電効果がノイズ源となる).PERCが開発した膜型ダストシステムは光の影響を受けずβメテオロイドの観測において必要となる太陽方向の粒子観測を可能とするため,ASTERISCはβメテオロイドを主要な観測ターゲットの一つとして考えている.
 ASTERISCは2021年11月9日にイプシロンロケット5号機により高度560kmの太陽同期軌道に軌道投入され,千葉工大局から運用されている.現在行っている初期運用において,既に地上からのコマンドにより膜面型ダストセンサを展開し,軌道上粒子の観測に成功している.ASTERISCは,磁気トルカによって衛星をスピンさせ,慣性空間に対して衛星姿勢を固定するスピン安定姿勢制御を実施することで,特定方向から飛来するダストに対してセンサを正対させ観測することが可能な設計である.これまでの初期運用の段階で指向精度20deg程度のスピン安定姿勢制御の確立に成功しており,定常観測運用に移行できる準備が整いつつある.