11:30 〜 11:45
[PPS07-04] 「はやぶさ2」リターンサンプルの弾性波速度測定技術の開発
キーワード:はやぶさ2、リュウグウ、弾性波速度
太陽系を構成する物質の物理的性質(物性)は化学、鉱物的性質とならんで天体の起源や進化を解明する中で重要である。特に惑星形成時の衝突プロセスや形成後の熱的な進化に対して強い制約を与えることが期待される。
物性の中で機械物性値は、硬度、ヤング率、弾性波速度、曲げ強度、熱膨張率、凝集力などがあり、特にRyugu全体の形状[1]や衝突装置(SCI:Small Carry-on Impactor)実験で得られたクレータ生成メカニズム[2]や微小重力天体での地震波伝搬メカニズム[3] 、Resurfacing effectなどによる表面進化[4]を解明する基礎データとしても重要と考えられる。
本研究では、リターンサンプルの弾性波速度測定を目標とした装置開発および解析手法の開発を行った。はやぶさ2サンプルでの測定が成功すれば、サンプルリターンされた地球外物質としてはアポロミッションで月の岩石サンプルの測定以来の快挙である。
回収されたサンプルの大きさ、形状、物性などすべて不明であったが、数百ミクロン程度の大きさの平板形状のサンプルに加工できることを前提に設計検討を行った。超音波パルス法(透過法)を採用した。種々のサンプルの厚さに対応するために5 MHzから100 MHz までの圧電素子を準備した。透過法の場合にはサンプルが2つの圧電素子で圧縮されるため、圧縮力をモニタしながら、かつ圧電素子が極力並行になるようにしてサンプルの一部に応力が集中しない装置を設計した。
サンプル回収後の分析チームとの議論で直径3 mm、厚さ1 mm程度のサンプルが物性計測として提供される可能性が高くなったため、この大きさにターゲットを絞った測定技術の構築を行った。このために、Ryuguサンプルと類似物質と考えられていたMurchison隕石を同等の大きさに加工して予備試験を実施した。
なお、通常ではサンプルと圧電素子間に接触媒質(グリース)を塗布するが、Ryuguサンプルに対して接触媒質による汚染を無くすため、かつ、本研究では厚さ1 mmという通常より薄いサンプルを用いることによる厚さの誤差要因を増やさないため、接触媒質の塗布は行わない事とした。
予備試験の結果、圧電素子の周波数が20 MHz、そしてサンプル測定に最低限必要な圧力が1.7-4.5 MPa程度であることが分かった。Ryuguサンプルの物性測定は初期段階でナノインデンテーション試験により、硬度測定およびヤング率が推定されるので、これらのデータに基づいて弾性波速度の実施可否が判断可能である。また、測定時の圧力データと受信強度の関係より、弾性波の減衰率(Q値)の情報を推定できる可能性も得ることができた。
取得したデータから弾性波速度を推定する方法については、ブランク信号(圧電素子間にサンプルを挟まない状態)とサンプル透過信号(圧電素子間にサンプルを挟んだ状態)の遅延時間を相互相関関数の最大となる位置で計算し、サンプルの厚さと遅延時間で弾性波速度を推定した。これらの予備試験をふまえ、Ryuguサンプルの測定に成功し本講演ではその結果についても報告する。
参考文献:
[1] Watanabe et al. (2019), Hayabus2 arrives at the carbonaceous asteroid 162173 Ryugu – a spinning top-shaped rubble pile, Science, 364, 268-272.
[2] Arakawa et al. (2020), An artificial impact on the asteroid (162173) Ryugu formed a crater in the gravity-dominated regime, Science, 368, 67-71.
[3] Nishiyama et al. (2020), Simulation of seismic wave propagation on asteroid Ryugu induced by the impact experiment of the Hayabusa2 mission: Limited mass transport by low yield strength of porous regolith, JGR Planets, 126, 2, e2020JE006594.
[4] Yamada et al. (2016), Timescale of asteroid resurfacing by regolith convection resulting from the impact-induced global seismic shaking, Icarus, 272, 165-177.
物性の中で機械物性値は、硬度、ヤング率、弾性波速度、曲げ強度、熱膨張率、凝集力などがあり、特にRyugu全体の形状[1]や衝突装置(SCI:Small Carry-on Impactor)実験で得られたクレータ生成メカニズム[2]や微小重力天体での地震波伝搬メカニズム[3] 、Resurfacing effectなどによる表面進化[4]を解明する基礎データとしても重要と考えられる。
本研究では、リターンサンプルの弾性波速度測定を目標とした装置開発および解析手法の開発を行った。はやぶさ2サンプルでの測定が成功すれば、サンプルリターンされた地球外物質としてはアポロミッションで月の岩石サンプルの測定以来の快挙である。
回収されたサンプルの大きさ、形状、物性などすべて不明であったが、数百ミクロン程度の大きさの平板形状のサンプルに加工できることを前提に設計検討を行った。超音波パルス法(透過法)を採用した。種々のサンプルの厚さに対応するために5 MHzから100 MHz までの圧電素子を準備した。透過法の場合にはサンプルが2つの圧電素子で圧縮されるため、圧縮力をモニタしながら、かつ圧電素子が極力並行になるようにしてサンプルの一部に応力が集中しない装置を設計した。
サンプル回収後の分析チームとの議論で直径3 mm、厚さ1 mm程度のサンプルが物性計測として提供される可能性が高くなったため、この大きさにターゲットを絞った測定技術の構築を行った。このために、Ryuguサンプルと類似物質と考えられていたMurchison隕石を同等の大きさに加工して予備試験を実施した。
なお、通常ではサンプルと圧電素子間に接触媒質(グリース)を塗布するが、Ryuguサンプルに対して接触媒質による汚染を無くすため、かつ、本研究では厚さ1 mmという通常より薄いサンプルを用いることによる厚さの誤差要因を増やさないため、接触媒質の塗布は行わない事とした。
予備試験の結果、圧電素子の周波数が20 MHz、そしてサンプル測定に最低限必要な圧力が1.7-4.5 MPa程度であることが分かった。Ryuguサンプルの物性測定は初期段階でナノインデンテーション試験により、硬度測定およびヤング率が推定されるので、これらのデータに基づいて弾性波速度の実施可否が判断可能である。また、測定時の圧力データと受信強度の関係より、弾性波の減衰率(Q値)の情報を推定できる可能性も得ることができた。
取得したデータから弾性波速度を推定する方法については、ブランク信号(圧電素子間にサンプルを挟まない状態)とサンプル透過信号(圧電素子間にサンプルを挟んだ状態)の遅延時間を相互相関関数の最大となる位置で計算し、サンプルの厚さと遅延時間で弾性波速度を推定した。これらの予備試験をふまえ、Ryuguサンプルの測定に成功し本講演ではその結果についても報告する。
参考文献:
[1] Watanabe et al. (2019), Hayabus2 arrives at the carbonaceous asteroid 162173 Ryugu – a spinning top-shaped rubble pile, Science, 364, 268-272.
[2] Arakawa et al. (2020), An artificial impact on the asteroid (162173) Ryugu formed a crater in the gravity-dominated regime, Science, 368, 67-71.
[3] Nishiyama et al. (2020), Simulation of seismic wave propagation on asteroid Ryugu induced by the impact experiment of the Hayabusa2 mission: Limited mass transport by low yield strength of porous regolith, JGR Planets, 126, 2, e2020JE006594.
[4] Yamada et al. (2016), Timescale of asteroid resurfacing by regolith convection resulting from the impact-induced global seismic shaking, Icarus, 272, 165-177.