日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS07] 惑星科学

2022年5月24日(火) 10:45 〜 12:15 展示場特設会場 (1) (幕張メッセ国際展示場)

コンビーナ:菊地 紘(宇宙航空研究開発機構)、コンビーナ:金丸 仁明(宇宙航空研究開発機構)、座長:菊地 紘(宇宙航空研究開発機構)、逸見 良道(東京大学)

11:45 〜 12:00

[PPS07-05] ガリレオ衛星大気における発光輝線の探索:地上望遠鏡による可視観測

*高木 聖子1松尾 太郎2木村 淳3吉岡 和夫4鶴海 達大3 (1.北海道大学大学院理学研究院、2.名古屋大学、3.大阪大学、4.東京大学)

キーワード:ガリレオ衛星、地上観測、大気

大気中の原子は太陽光共鳴や電子衝突により励起され、特定波長の輝線を発することから、発光輝線の観測により大気成分の推定が可能である。エウロパにおいては、ナトリウム原子とカリウム原子による発光輝線(波長590, 767 nm)が検出されたことから、それらの存在が明らかになった[Brown and Chaffee, 1974; Brown, 2001]。このような大気成分は、天体表面(氷地殻)に存在する物質との関連が示唆されている。エウロパ上には、マグネシウムやナトリウムの硫酸塩や炭酸塩などの水和物といった塩類の存在が木星探査機ガリレオの近赤外分光観測から推測されている[McCord et al., 1999]。また、表面の褐色化の原因とされてきた塩化ナトリウムの存在もハッブル宇宙望遠鏡の可視分光観測から明らかになった[Trumbo et al., 2019]。表面に存在が示唆されるそれらの物質は、地下海からの物質表出を伴うと思われる地形に集中して存在することから、岩石質のマントルと接する海底には岩石と液体水との相互作用が行われる環境が存在し、液体水に溶出した塩分が氷地殻に取り込まれ対流運動などに伴って表出、あるいはプルームとして地下海から直接に噴出する内的要因が考えられている。また、イオの火山活動に起因する木星ナトリウム雲と呼ばれる巨大構造やイオ周辺大気、彗星などからエウロパ表面へともたらされる外的要因も考えられている。輝線が発生する機構は、塩類の存在が示唆される表面に木星磁気圏の高エネルギー粒子が衝突し、地殻から原子が叩き出される(スパッタリング)過程や、太陽光加熱により表面物質が昇華する過程が提案されている。マグネシウム原子による発光も予想されたがこれまで検出には至っておらず、現在検出されているのはナトリウム原子とカリウム原子の発光輝線のみである。このような衛星大気中の発光輝線の検出は、形成時の材料物質やその後の衛星の進化過程、衛星間の物質輸送過程を知る手段である。しかしながら、過去の探査機によるスナップショット的な観測や時間が限られた宇宙望遠鏡による観測で捉えた輝線は僅かであり、衛星における物質調査は不十分と言わざるを得ず、物質の起源や衛星の進化過程について理解は停滞している。
北海道大学大学院理学研究院附属天文台(北緯44.4°、東経142.5°)は北海道名寄市にあり、地上望遠鏡(ピリカ望遠鏡)を所有している。ピリカ望遠鏡とその搭載観測装置は、系内惑星を優先的に観測することを目的として2011年に本格運用を開始した。主鏡口径は1.6 mであり、その大きさは惑星観測用の望遠鏡としては世界最大級である。ピリカ望遠鏡のカセグレン焦点には、本研究院宇宙惑星グループによって開発されたスペクトル撮像装置MSI (350-1050 nm)が搭載されている[Watanabe et al., 2012]。本研究では、衛星の誕生環境や進化過程を明らかにすることを目的とし、2018年から2021年にかけてエウロパほかガリレオ衛星の大気における発光輝線の探索を行った。本講演ではその報告を行う。