日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS07] 惑星科学

2022年5月25日(水) 09:00 〜 10:30 展示場特設会場 (1) (幕張メッセ国際展示場)

コンビーナ:菊地 紘(宇宙航空研究開発機構)、コンビーナ:金丸 仁明(宇宙航空研究開発機構)、座長:長足 友哉(神戸大学)、黒崎 健二(名古屋大学大学院 理学研究科 素粒子宇宙物理学専攻)

09:15 〜 09:30

[PPS07-20] 多孔質氷上の高速度衝突クレーターおよび温かいエジェクタの熱赤外観測

*笹井 遥1荒川 政彦1保井 みなみ1白井 慶1長谷川 直2石田 紗那1 (1.神戸大学、2.宇宙科学研究所)

キーワード:彗星、氷天体、空隙率、衝突、衝突残留熱

背景
近年の探査や観測により,彗星核などの氷微惑星は多孔質な氷天体であることが明らかになってきた.多孔質な天体に小天体が高速で衝突すると,衝撃圧力の急速な減衰に伴う衝撃エネルギーの散逸により,クレーター周辺に大量の熱が蓄積される.この熱は衝突残留熱と呼ばれる.この熱により局所的な揮発性物質の脱ガスなどが促進されると考えられる.さらに衝突残留熱によってクレーター下に溶融池が形成され,その中で水質変成が促進される可能性がある.よって,衝突残留熱は彗星の重要な熱源の一つと考えられる.しかし,彗星上のクレーター周囲の衝突残留熱に関する実験的研究はこれまでに行われておらず,そのため,多孔質氷標的の内部の衝突残留熱量はよくわかっていなかった.そこで私たちはこの熱量を知るため,高速度衝突を受けた多孔質氷標的内部の温度のその場測定を行い,標的内部の温度分布を調べてきた.しかし,これまでの研究ではクレーター壁面にある薄い溶融領域の温度は計測できなかった.そこで,この溶融領域の温度を計測するため,本研究では新たに赤外線高速カメラを用いて標的表面の衝突残留温度の計測を行った.これによりクレーター壁面の溶融領域の温度やクレーターからの放出物の温度を調べた.

手法
多孔質氷標的に対する高速度衝突実験を行い,その際の標的表面を標的の正面から赤外線高速カメラにより観測した.実験は,二段式軽ガス銃(JAXA)を用いて行った.衝突角度は約45ºとし,弾丸には直径2mmのアルミ球を用いた.標的は空隙率Φ = 0.4, 0.5, 0.6の多孔質な氷粒子集合体である.標的は-20ºCの冷凍庫で保存し,実験直前に常温下の真空チャンバー内に設置した.そして,約600 Paの真空下で衝突実験を行った.また各空隙率の標的に対して衝突速度vi = 4.3 km/sとし,Φ = 0.5の標的はvi = 3.2, 6.1 km/sでも実験を行った.赤外線高速カメラの撮影条件は露光時間20ms, 撮影速度3000fpsとした.

結果
水蒸気プリューム: 図は衝突直後の赤外線高速カメラのスナップショットである.Φ = 0.5, vi = 3.2 km/sのとき,円形の黒い標的表面上に高温のガスが見られる.このガスの温度は100ºCを超えているため,ガスは衝突点から噴出した水蒸気であることがわかった.これによりクレーター形成によって含水標的から水蒸気が噴出することを初めて実験的に確認できた.

クレーター壁面温度: 図中の標的表面上にある,温度の高い青色の円形領域は,クレーター壁面またはその一部に対応している. vi = 4.3 km/sで速度一定の場合,クレーター壁面の温度は空隙率によらず10ºC程度まで上昇している.さらに,その温度分布は壁面の広い範囲で一様であった.一方でΦ = 0.5で空隙率一定の場合,クレーター壁面の温度はvi = 3.2 km/sで656 msのとき約4ºC, vi =6.1 km/s で589 ms のとき約15ºCまで上昇することがわかった.これらより,クレーター壁面は溶融しており,少なくとも数10ºC程度になることがわかった.また,この温度はこれまでの研究の標的内部の温度測定から推測された壁面温度と大きく離れていなかった.