日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS07] 惑星科学

2022年6月1日(水) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (2) (Ch.02)

コンビーナ:菊地 紘(宇宙航空研究開発機構)、コンビーナ:金丸 仁明(宇宙航空研究開発機構)、座長:菊地 紘(宇宙航空研究開発機構)、金丸 仁明(宇宙航空研究開発機構)

11:00 〜 13:00

[PPS07-P01] 太陽光線と硫酸による玄武岩の変質

*小森 信男1 (1.東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科)

キーワード:過去の火星、太陽光線、硫酸、玄武岩、変質

1 背景と目的
筆者は、火星表層に酸化鉄が多い原因の一つを紫外線と考え、紫外線が岩石に及ぼす影響を中学校の科学部指導において調べてきた。これまで得られた結果では、玄武岩を浸した硫酸水溶液中に紫外線を照射すると、3価鉄イオン濃度が増加し3価鉄硫酸塩が、照射しない場合よりも多く生じることがわかっている。この実験の目的は、太陽光線を硫酸中の玄武岩に浴びせ、水溶液と玄武岩表面の変化を調べることである。
2 方法 
a pH2の硫酸水溶液を入れた試験管を2つ用意する。そしてそれぞれの試験管に、整形した同じ大きさの玄武岩を入れる。玄武岩は兵庫県玄武洞産のものを用いた。
b これらの試験管を、ベランダに設置し、太陽光線を浴びせる。一方の試験管はアルミホイルで包み、玄武岩には太陽光線は全く届かない。そして2つの硫酸水溶液は、どちらの試験管ともほぼ同じになるように(±2℃以内)、調整した。
c 設置後、1週間~2週間毎に、硫酸水溶液中の全鉄濃度、3価鉄イオン濃度を測定した。また玄武岩試料を肉眼観察し、写真撮影した。
d 実験後、試料表面に生じた褐色の粉末の分析をXRDで分析した。また試料のSEM観察及びEDS分析を行った。
3 結果
太陽光線を照射した場合は、照射しない場合に比べて、硫酸水溶液中の3価鉄イオンが増加した。そして玄武岩表面に、粉末状の褐色の物質が多く生じた。XRDによって、この表面に生じた粉末は、主にメタホーマナイトまたは非晶質の硫酸第二鉄であることがわかった。照射しない場合では表面全体に僅かに褐色の粉末が生じたが、少量のためXRD分析はできなかった。
4 考察
太陽光線を照射した場合は、照射しない場合に比べて玄武岩を浸した硫酸水溶液中の3価鉄イオン濃度が増加した。この理由は、太陽光線による光酸化と推定する(braterman(1983 )、小森(2020))。過去の火星表面では、30億年前から40億年前に、温暖で酸性の水があった時期があったと推定されている。この時期に、太陽光の主に紫外線BとAによって、酸性水溶液中で3価鉄イオンが増加した。そして火星表面の酸性水溶液が蒸発したため、火星表層に3価鉄硫酸塩が生じたと推定した。つまりこの実験によって、火星表層に3価鉄硫酸塩の生じた一因は、太陽光による光酸化であると考える。
                        引用文献
Braterman, P., Smith, G., Sloper,A.(1983): Photo-oxidation of hydrated Fe2+ —significance for banded   iron formations. Nature 303, 163–164.
小森信男 (2020): 中学校科学部における火星に関連する岩石鉱物の風化実験, 学校教育学研究論集 (42), 63-75.