日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS07] 惑星科学

2022年6月1日(水) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (2) (Ch.02)

コンビーナ:菊地 紘(宇宙航空研究開発機構)、コンビーナ:金丸 仁明(宇宙航空研究開発機構)、座長:菊地 紘(宇宙航空研究開発機構)、金丸 仁明(宇宙航空研究開発機構)

11:00 〜 13:00

[PPS07-P04] ピリカ望遠による2018年海王星ストームの移動速度と規模の推定

*佐藤 佑樹1高橋 幸弘1佐藤 光輝1高木 聖子1今井 正尭2大野 辰遼1 (1.北海道大学大学院理学院、2.京都産業大学)

キーワード:海王星、地上望遠鏡

海王星では直径が4,000 kmを超える巨大なストームが時折発生している。先行研究では、ボイジャー2号が 1989年5月24日に海王星を観測し、大暗斑と呼ばれる直径13,000 kmのストームを発見した。大暗斑は木星の大赤斑と同様南半球に位置していたが、その後ハッブル宇宙望遠鏡が1994年に観測したところ、大暗斑は消滅していた(Hammel et al., 1995)。大暗斑のようなストームは海王星で常に発生しているのか。突発的なものなのか不明である。また、直径9,000 kmのストームが2017年6月26日, 7月2日にケック天文台10 m光学近赤外望遠鏡で観測された (Edward et al., 2019)。通常、海王星のストームは上昇気流が発生している南北の中緯度で発生すると考えられている。しかし、このストームは赤道付近で発生していた。海王星の自転軸傾斜角は29.6度であり、季節変化によって赤道付近でストームが発生した可能性も考えられる。ケック天文台やハッブル宇宙望遠鏡によって海王星は観測されているが、それらの望遠鏡を常に海王星観測に使用することは容易ではない。そのため、短い時間スケールで長期的な海王星ストームの観測は行われていない。本研究では海王星全体のスペクトルを観測することによって、ストームの移動速度や規模を推定する手法の開発を行った。それにより、シーイングが悪い時でも観測可能になり、短い時間間隔で長期的な海王星ストームの観測データを取得することができるようになった。この手法で、ストームの詳細な変動を追うことで、海王星大気の対流構造の理解を深めることに繋げる。本研究では、北海道大学が所有する口径1.6 mピリカ望遠鏡を用いて海王星のスペクトルを観測した。観測時期は2018年10月22日から11月26日、2020年7月30日から10月22日まで観測を行った。観測波長は890, 855 nmである。本研究では、メタンが890 nmを強く吸収するという性質を用いる。海王星大気にはメタンが存在し、890 nmで観測すると周りの領域よりも高度の高いストームはより明るく見え、ストームがある面を観測すると890 nmフラックスは大きくなる。また、海王星の自転によって、観測点から見たストームの大きさは変化するため、890 nmのフラックスも変化する。地球大気の影響を補正するために、890 nmフラックスと855nmのフラックスの比をとり、相対強度を求めた。その相対強度の理論値を求め、その理論値と観測値を最小二乗法でフィッティングをすることで、ストームの移動速度や規模を見積もった。理論値は、ストームの緯度で変化するためHST観測画像から緯度を求め、その緯度を固定値として用いた。ストームの面積を仮定しストーム内部の890 nm反射率を求め、ストームの規模は面積と反射率の積とした。2018年のストーム緯度は、HST画像から北緯39°と求め、移動速度、890nm反射率は25.2°/ day、0.377と推定した。2018年に、Simon et al. (2019)によって北緯23°に位置し、2.46°/hr (59.04°/day)で移動するストーム (NDS-2018)が観測された。しかし、NDS-2018は我々の観測日では裏面に位置し見ることはできず、違うストームを観測したと考えられる。2020年のストーム緯度は、HST画像から南緯69°と求め、移動速度、890nm反射率の推定を試みた。しかし、南半球のある一定の緯度を超えると常にストームが見える計算になり、フィッティングを正確に行うことが出来なかった。今後は吸収を考慮した理論値を算出し、より詳細なフィッティングを行い、観測を継続し他の研究者やアマチュア観測と比較し、議論を進める。