日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS07] 惑星科学

2022年6月1日(水) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (2) (Ch.02)

コンビーナ:菊地 紘(宇宙航空研究開発機構)、コンビーナ:金丸 仁明(宇宙航空研究開発機構)、座長:菊地 紘(宇宙航空研究開発機構)、金丸 仁明(宇宙航空研究開発機構)

11:00 〜 13:00

[PPS07-P13] 惑星コア形成を目指したDISPH法の改良

*菖蒲迫 健介1吉田 茂生2川田 佳史3中島 涼輔4 (1.九州大学 大学院理学府 地球惑星科学専攻、2.九州大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門、3.海洋研究開発機構・海洋機能利用部門・海底資源センター、4.九州大学 大学院理学研究院)


キーワード:惑星コア形成、金属・シリケイト分離、SPH法、DISPH法、レイリーテーラー不安定

導入: 惑星形成過程において集積過程と分化過程の両者を同時に解くような流体シミュレーション手法は確立されていない.特に分化プロセス(もしくは惑星コア形成過程)を数値流体計算によってグローバルに解いた例は少ない.
 集積プロセスのシミュレーションには,一般にSPH(Smoothed Particle Hydrodynamics method)という手法が広く用いられる[e.g., Benz et al., 1986; Nakajima et al., 2021].そこで,集積問題で一定のコンセンサスを得ている手法を惑星コア形成問題に応用できないだろうか,と考えた.しかし,従来のSPH法(the Standard SPH method, SSPH)では物質境界を上手く扱えないという大きな問題があった[Agertz et al., 2007].この問題に対して,Saitoh and Makino (2013)やHosono et al. (2013)で初めて提案された,密度に依存しないSPH法(the Density-Independent SPH method, DISPH)は非常に有効な手法である.一方で,この新しい手法を用いた流体数値計算例は少なく[Hosono et al., 2016; Takeyama et al., 2017; Hosono et al., 2019],境界設定や熱力学量の定式化は,コアマントル分離を扱う目的では使いやすい形に書かれていない.
 本研究では惑星進化(特に惑星コア形成過程)を扱うためにDISPH法の改良を試みる.本研究の目的は,先行研究[e.g., Saitoh and Makino, 2013; Hosono et al., 2013]で明らかにされていない問題点に触れ,その改良方法を提案するものである.

方法: SPH法の基本的な概念は「場の物理量を,近傍粒子を用いなめらかな関数を使って平滑化する」というものである.しかし,従来のSPH法(SSPH)では密度を平滑化することが理由で,物質境界付近で非物理的な現象が生じる.この解決法としてSaitoh and Makino (2013)が開発した,DISPHは非常に有効である.一方で,オリジナルのDISPH法をコアマントル分離の問題に応用するには工夫が必要である.例えば, (1)熱力学量の時間発展式を使いやすい形に変形すること (2)境界条件の取り扱い方を工夫すること などである.特に後者は重要である.その理由は,SSPH法では境界の取り扱い方が計算精度に大きく影響を与えることが知られていて[e.g. Bonet and Kulasegaram, 2002; Shao et al., 2012],DISPH法でも同様であると期待されるからである.そこで,これらの改良を試みた.具体的には,(1)惑星内部を記述するのに適切なDISPH法の基礎方程式を構築し, (2)SSPH法で用いられる境界処理法の一つをDISPH法に応用した[Marrone et al., 2011; Asai et al., 2013].さらに,DISPH法における自由表面の新しい取り扱い方を提案する.
 これらの改良点を加えたDISPH法を用いて,二次元レイリーテーラー不安定の問題を解いた.つまり,上側に重い液体金属を,下側に軽い液体シリケイト(マグマオーシャン)を配置し,物質境界に適切な摂動を加え,その様子を観察した.

結果と今後の研究: 水平方向に1波長分の不安定なモードが成長するような摂動を加えた場合の結果は添付の図のようになった.図のカラーバーは密度を表している.重い液体金属が液体シリケイトと混和することなく沈降する様子が分かる.
 惑星コア形成問題をグローバルに解くための流体計算の第一歩として,DISPH法の改良を行った.この手法を用いたシミュレーション例として,物性の似ている液体間の二次元レイリーテーラー不安定の問題を解いた.今後は,固体シリケイトを含めた三相二次元問題を考え,その後三相三次元問題に拡張してゆきたい.さらには元素分配も同時に扱えるような粒子法の開発も進めていきたいと考えている.