日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS07] 惑星科学

2022年6月1日(水) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (2) (Ch.02)

コンビーナ:菊地 紘(宇宙航空研究開発機構)、コンビーナ:金丸 仁明(宇宙航空研究開発機構)、座長:菊地 紘(宇宙航空研究開発機構)、金丸 仁明(宇宙航空研究開発機構)

11:00 〜 13:00

[PPS07-P15] 巨大惑星のつくる衝撃波による原始惑星系円盤の加熱:エントロピー変化の解析

*岡村 龍樹1、小野 智弘1奥住 聡1 (1.東京工業大学)

キーワード:原始惑星系円盤、惑星形成

原始惑星系円盤の温度構造を理解することは、惑星系の組成分布の起源を明らかにする上で必須の課題である.磁気流体力学に基づく最近の円盤温度計算によると,円盤の内部は従来考えられていたよりも低温であり、現在の地球軌道付近でも固体が多量の水氷を保持しうることが示されている.もしこのような低温の円盤が現実的であるならば、地球をはじめとする太陽系岩石惑星の形成に対する我々の理解は大きな修正を迫られる可能性がある.一方で、従来の円盤温度モデルが重要な円盤加熱機構を見落としていた可能性もある.
 本研究ではそのような加熱機構の1つとして、巨大惑星のつくる衝撃波による円盤加熱に注目する.原始太陽系星雲で木星が早期に誕生していた可能性は、隕石の同位体二分性の有力な解釈の1つとして近年注目されている.円盤中にこのような巨大惑星が存在すると、スパイラルと呼ばれる螺旋状の円盤密度波が惑星重力によって励起され、惑星遠方まで伝播する.このスパイラルが伝播とともに衝撃波化すると、円盤ガスの不可逆な加熱(衝撃波加熱)を生じる.近年の流体シミュレーションによって,中心星から数 au 以内の領域では,衝撃波加熱が円盤の温度上昇に寄与しうることが明らかになっている.しかし,この先行研究はシミュレーションの最終出力である円盤温度に注目しており,衝撃波加熱自体を取り出して調べたものではない.円盤温度は他の加熱過程や放射冷却に関する仮定にも依存しているため,この結果からより一般の状況における衝撃波加熱の効果をモデル化することはできない.
 そこで本研究では、任意の円盤に対する惑星衝撃波加熱の影響を明らかにすることを目指し、衝撃波加熱量自体を流体シミュレーションから抽出し定量化するという新しい試みに取り組んだ.具体的には,巨大惑星のつくるスパイラルの分布を2次元流体計算によって求め、スパイラルが衝撃波化した際に生じる発熱量、つまりエントロピーの増加量を測定した.ここで温度や密度の変化でなくエントロピーの増加に注目したのは、密度波の断熱膨張・圧縮に起因する短期的・周期的な温度変化を除外し、長期的な温度増加に寄与する不可逆な加熱のみを取り出すことを意図している.
 その結果、円盤の各軌道での衝撃波加熱量が、惑星軌道からの距離と惑星質量の簡単な冪乗則に従うことを発見した.さらに、円盤に複数本励起されるスパイラルのそれぞれが、惑星からどの程度離れると衝撃波化するかについても今回のエントロピー解析で明らかになった.エントロピー増加の測定値から直接求めた衝撃波加熱量と、同地点での面密度ジャンプからランキン・ユゴニオ関係を用いて間接的に求めた衝撃波加熱量を比べたところ、前者の方が流体シミュレーションの解像度に対する依存性が低い傾向にあることがわかった.これは,エントロピー解析に基づく衝撃波加熱量の算出がより数値的な影響を受けづらいこと示唆する.
 本研究で導いた惑星密度波による衝撃波加熱量の経験式は、衝撃波加熱が円盤温度分布に与える影響を、多次元流体計算を行わずに調べることを可能にするものである.特に、円盤の放射冷却効率を支配するダストの円盤内進化シミュレーションに本研究の経験式を適用することで、木星をもつ原始太陽系星雲において固体と円盤温度がどのように同時進化するかが明らかになるだろう.