11:00 〜 13:00
[PPS07-P19] 蛇紋岩と氷標的を用いた火星からフォボスに飛来する衝突エジェクタの実験的研究
キーワード:高速度エジェクタ、蛇紋岩、フォボス
はじめに : 火星衛星フォボスからのサンプルリターンを行う MMX ミッションでは,フォボスの表面物質の調査から火星についての情報も得ることが期待されている. 火星衛星表面には, 火星での衝突によって放出された火星物質が存在すると考えられている(e.g.[1]). 火星への衝突によって放出されるエジェクタのサイズと速度の関係は, 火星での衝突クレーター形成にともなって火星から脱出し, 衛星に到達するエジェクタ量の推定に制約を与えるために重要である. 室内実験において 1 km/s 以上のエジェクタのサイズ-速度の情報は限定的であり, 火星からフォボスに到達するのに必要なエジェクタ速度の 4 km/s を上回る高速なエジェクタのサイズに関する情報を高速度カメラ画像から導出することは困難である. そこで, 一次標的に弾丸を衝突させて二次標的面へのエジェクタ衝突を高速度カメラで撮影する方法で衝突実験を行った先行研究と同様の手法で[2], 一次標的を先行研究(玄武岩)と異なる蛇紋岩および氷に変えて実験を行った.火星の表面のさまざまな物質に対応出来るような知見を得ることが狙いである.
実験方法 : 宇宙科学研究所の二段式軽ガス銃を用いて蛇紋岩および氷標的への衝突実験を行った. 弾丸には直径 3 mmのアルミニウム球を用い, 衝突速度約 7 km/s で標的に対し垂直衝突させた.エジェクタが通過する位置(一次標的から, 蛇紋岩は300 mm, 氷は100 mm)に二次標的としてポリカ板やガラス板(縦70 mm横150 mm)を配置した. 放出角 θ を, 弾丸軌道と二次標的の面の法線のなす角と定義する. 一次標的が蛇紋岩の場合, 二次標的全体の θ の範囲は約15° から40° であった. 二次標的は, 氷標的の場合にガラス板を用い, 蛇紋岩標的の場合にポリカ板を用いた. ガラス板はポリカ板よりもクレーターが大きくなるので, 二次標的上にたくさんのクレーターができる蛇紋岩標的の場合はポリカ板を用いてクレーターの重複を防いだ. 弾丸の一次標的への衝突とエジェクタの二次標的への衝突の様子は高速度カメラで撮影を行い, 撮影速度は 105 fps以上とした. エジェクタの二次標的への飛行時間と飛行距離からエジェクタの速度, エジェクタによって二次標的に形成されたクレーターの直径からπスケーリング則を用いてエジェクタを球としてサイズを算出した. クレーターの輪郭の中央をなぞって計測したクレーター面積から, クレーターを等価円と仮定して, クレーター直径を算出した.
結果 : 一次標的が蛇紋岩の場合も, 先行研究[2]と同様に 4 km/s を超える速度のエジェクタが見つかった. エジェクタ速度と破片サイズについて調べた結果, 高速なものほど破片は小さくなる傾向が先行研究[2]同様に見られた. また, 一次標的が蛇紋岩のときは, 同じエジェクタ速度で, 玄武岩[2]の最大サイズと同程度のサイズのものが見つかった. 一次標的が氷の場合は, 二次標的で観察されたエジェクタの速度範囲は, 200 m/s ~ 4 km/s であり, 二次標的上にはミクロンサイズのクレーターが数個見つかったのみであった. クレーターは高速度カメラ画像上で同定できていないが,このクレーターが衝突速度 200 m/s ~ 4 km/s で形成したと仮定すると,蛇紋岩と同じエジェクタ速度でのエジェクタサイズは, どのエジェクタ速度でも蛇紋岩のおよそ1/100になると推定された.
クレーター形状について, 一次標的が蛇紋岩のときの二次標的上のクレーターは, 円形と細長いものの二種類が観察された. 放出角 θ (弾丸軌道と二次標的の面の法線のなす角)が小さいとき(約20°), クレーター形状は円形で直径数10 - 数100 µmだった. θ が大きいとき(約35°), クレーター形状は細長く長径数 mmであった. 一次標的が氷の場合は, 二次標的上に見つかったクレーターは円形であった.
今後は, エジェクタ形状によるクレーター直径への効果とそれに伴うスケーリング則への影響を加味して, 以上の結果を再評価することが目標である.
謝辞
本研究は, JAXA宇宙科学研究所の超高速度衝突実験施設の共同利用実験として行いました.
参考文献
[1] Ramsley, K.R., Head Ⅲ, J.W., 2013. Planetary and Space Science 87, 115-129.
[2] 野村啓太, 中村昭子, 長谷川直, 2021. JpGU2021 Online, May 30-June 6, 2021. (poster)など
実験方法 : 宇宙科学研究所の二段式軽ガス銃を用いて蛇紋岩および氷標的への衝突実験を行った. 弾丸には直径 3 mmのアルミニウム球を用い, 衝突速度約 7 km/s で標的に対し垂直衝突させた.エジェクタが通過する位置(一次標的から, 蛇紋岩は300 mm, 氷は100 mm)に二次標的としてポリカ板やガラス板(縦70 mm横150 mm)を配置した. 放出角 θ を, 弾丸軌道と二次標的の面の法線のなす角と定義する. 一次標的が蛇紋岩の場合, 二次標的全体の θ の範囲は約15° から40° であった. 二次標的は, 氷標的の場合にガラス板を用い, 蛇紋岩標的の場合にポリカ板を用いた. ガラス板はポリカ板よりもクレーターが大きくなるので, 二次標的上にたくさんのクレーターができる蛇紋岩標的の場合はポリカ板を用いてクレーターの重複を防いだ. 弾丸の一次標的への衝突とエジェクタの二次標的への衝突の様子は高速度カメラで撮影を行い, 撮影速度は 105 fps以上とした. エジェクタの二次標的への飛行時間と飛行距離からエジェクタの速度, エジェクタによって二次標的に形成されたクレーターの直径からπスケーリング則を用いてエジェクタを球としてサイズを算出した. クレーターの輪郭の中央をなぞって計測したクレーター面積から, クレーターを等価円と仮定して, クレーター直径を算出した.
結果 : 一次標的が蛇紋岩の場合も, 先行研究[2]と同様に 4 km/s を超える速度のエジェクタが見つかった. エジェクタ速度と破片サイズについて調べた結果, 高速なものほど破片は小さくなる傾向が先行研究[2]同様に見られた. また, 一次標的が蛇紋岩のときは, 同じエジェクタ速度で, 玄武岩[2]の最大サイズと同程度のサイズのものが見つかった. 一次標的が氷の場合は, 二次標的で観察されたエジェクタの速度範囲は, 200 m/s ~ 4 km/s であり, 二次標的上にはミクロンサイズのクレーターが数個見つかったのみであった. クレーターは高速度カメラ画像上で同定できていないが,このクレーターが衝突速度 200 m/s ~ 4 km/s で形成したと仮定すると,蛇紋岩と同じエジェクタ速度でのエジェクタサイズは, どのエジェクタ速度でも蛇紋岩のおよそ1/100になると推定された.
クレーター形状について, 一次標的が蛇紋岩のときの二次標的上のクレーターは, 円形と細長いものの二種類が観察された. 放出角 θ (弾丸軌道と二次標的の面の法線のなす角)が小さいとき(約20°), クレーター形状は円形で直径数10 - 数100 µmだった. θ が大きいとき(約35°), クレーター形状は細長く長径数 mmであった. 一次標的が氷の場合は, 二次標的上に見つかったクレーターは円形であった.
今後は, エジェクタ形状によるクレーター直径への効果とそれに伴うスケーリング則への影響を加味して, 以上の結果を再評価することが目標である.
謝辞
本研究は, JAXA宇宙科学研究所の超高速度衝突実験施設の共同利用実験として行いました.
参考文献
[1] Ramsley, K.R., Head Ⅲ, J.W., 2013. Planetary and Space Science 87, 115-129.
[2] 野村啓太, 中村昭子, 長谷川直, 2021. JpGU2021 Online, May 30-June 6, 2021. (poster)など