日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS08] 太陽系物質進化

2022年5月27日(金) 09:00 〜 10:30 302 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:小澤 信(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、コンビーナ:日比谷 由紀(東京大学 大学院総合文化研究科)、川崎 教行(北海道大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)、コンビーナ:松本 徹(九州大学期間教育院)、座長:小澤 信(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、日比谷 由紀(東京大学 大学院総合文化研究科)


09:00 〜 09:15

[PPS08-01] CAI-CO-H2O間の酸素同位体交換速度論から制約される原始太陽系円盤の物理化学条件

*山本 大貴1橘 省吾2川崎 教行3上林 海ちる2圦本 尚義3 (1.宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所、2.東京大学大学院理学系研究科 宇宙惑星科学機構、3.北海道大学 大学院理学院 自然史科学専攻)

キーワード:難揮発性包有物 (CAI)、CO、H2O、酸素同位体交換、速度論、原始太陽系円盤

隕石中の火成難揮発性包有物 (CAI) は、太陽系形成初期における最高温度1400℃付近での部分溶融とその後の冷却を示す火成組織を持つ (e.g., Grossman, 1972; Stolper & Paque, 1986)。火成CAIの酸素同位体組成は構成鉱物内、構成鉱物間で非質量依存の同位体分布を示しており、原始太陽系円盤中での同位体的に異なるCAIメルト,COガス,H2Oガス間の酸素同位体交換反応の結果である可能性が提案されている (e.g., Yurimoto & Kuramoto, 2004; Yurimoto et al, 1998; Kawasaki et al, 2018; Suzumura et al., 2021).筆者らは先行研究において、CAIメルト–H2O間, H2O–COガス間の酸素同位体交換速度論 (Yamamoto et al., 2021; Alexander, 2004) に基づいて,火成CAIの一種であるタイプB CAI部分溶融時の加熱時間スケールを推定した。本研究では、タイプB CAI形成時における原始太陽系円盤物理化学条件の更なる制約のために、これまで調べられていないCAIメルト–COガス間の酸素同位体交換速度論を実験的に検証した。
タイプB CAI模擬メルトと18Oに濃縮した低圧COガス (~98% 18O) との酸素同位体交換実験は、ガス供給機構を備えた高温低圧真空炉を用い、メリライトリキダスよりも高温の温度1420・1460℃、COガス圧 (PCO) 0.1, 0.5, 1 Pa、加熱時間52分–22時間の条件でおこなった。試料研磨断面のガラスの化学組成と酸素同位体組成を、東京大学のEPMA (JEOL JXA-8900L)、北海道大学のSIMS (Cameca ims-1280HR) で分析した。
加熱後物質は直径2.5­–2.7 mmの球状であり、ガラスの同位体組成は、試料表面に向かって酸素同位体比 (f18O = 18O/(16O + 18O)) が増加し、加熱時間経過とともに試料表面のf18O値が徐々に増加する傾向を示した。これは、メルト–ガス界面での酸素同位体交換過程とメルト内部への酸素同位体拡散過程が同時に進行していることを示す。表面濃度非定常の三次元拡散モデル (Crank, 1975) を用いて、これらの同位体プロファイルから、拡散係数Dとメルト表面に衝突するガス分子のメルト表面での同位体交換効率を表すalphaを推定した。本研究で推定したD は1.78 × 10–11 m2 sec–1であり、CAI メルト–H2O間の酸素同位体交換実験から推定された値 (1.62 × 10–11 m2 sec–1; Yamamoto et al., 2021) と良く一致していた。このことは、CAIメルト中の主要拡散種がCO, H2O分子やCO32–, OHなどのイオン種 (Zhang et al., 2007 and references therein) ではなく O2–であることを示している。また、COにおけるalphaの値は10–3–10–4オーダーであり、H2Oにおけるalphaの値 (〜0.28;Yamamoto et al., 2021) よりも2–3桁小さい。
本研究の結果を合わせると、CAIメルト–CO–H2O間の酸素同位体交換速度 (k) は常にkCO-H2O > kCAI-H2O > kCAI-COの関係に従うことが明らかになった。つまり、COガスの影響を考慮してもYamamoto et al. (2021) で議論したように、タイプB CAI中のメリライトの均質な酸素同位体組成を形成するには、メリライトリキダス以上の温度で少なくとも2–3日程度加熱する必要がある。開放系でのCAIメルト蒸発実験 (e.g., Mendybaev et al., 2021; Kamibayashi et al., 2021; Kamibayashi, 2021 PhD thesis) から、過剰量のMg, Siの蒸発とそれに伴う大きな同位体分別を起こさないためには、同時に凝縮を考える必要がある。1420°C, 水素圧10 Paでの2–3日間の加熱時間に対する天然type B CAIメルト中のMg蒸発量 (Grossman et al., 2000; Kamibayashi, 2021 PhD thesis) から、CAIの水素圧蒸発/凝縮比 1.1~1.5 が示唆される。従って、CAI形成環境は、蒸発/凝縮比が小さくなる半閉鎖系 (Richter et al., 2002; Tsuchiyama et al., 1999) や、太陽系の値に対して高い PH2O/PH2 比 (Aléon et al., 2022) の環境であった可能性を示している。