日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS08] 太陽系物質進化

2022年5月27日(金) 10:45 〜 12:15 302 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:小澤 信(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、コンビーナ:日比谷 由紀(東京大学 大学院総合文化研究科)、川崎 教行(北海道大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)、コンビーナ:松本 徹(九州大学期間教育院)、座長:川崎 教行(北海道大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)、松本 徹(京都大学白眉センター)


11:50 〜 12:05

[PPS08-10] Northwest Africa 801隕石中の太陽風起源ヘリウムを含む鉱物とその産状

*和田 壮平1馬上 謙一1圦本 尚義1 (1.北海道大学大学院 理学院 自然史科学専攻)


キーワード:太陽風、希ガス、イオンイメージング

太陽風起源希ガスを豊富に含むコンドライトは,ガスリッチコンドライトと呼ばれ,隕石母天体の表面に太陽風が照射したことを記録しているレゴリス角礫岩である [1]。Northwest Africa 801(NWA 801)CR2隕石もガスリッチコンドライトであり,マトリクスに多量の太陽風起源希ガス(~10-2 cm3 STP g-1)を含むことが報告されている [2]。太陽風起源希ガスを含む鉱物粒子とその産状は,母天体上での太陽風捕獲過程と,その後の角礫岩化によるガーデニングの過程を反映していると考えられている。しかし,その産状は特定されていなかった。
近年、表面方向および深さ方向 ~10 nmの微小領域の希ガスを含む多元素同時分析を実現させる装置として、同位体ナノスコープが開発された [3]。同位体ナノスコープは,固体中に打ち込まれた太陽風ヘリウムのエネルギーと照射量を再現できる [4, 5]。さらに,同位体ナノスコープを用いた広領域イメージングシステムを構築したことで,最大で200 × 100 µm四方のヘリウムイメージングが可能である [6]。
本研究では,NWA 801隕石に対して,走査型電子顕微鏡を用いた岩石鉱物学的観察と,同位体ナノスコープを用いた広領域ヘリウムイメージングによって,太陽風を含む鉱物の産状調査を行い,太陽風ヘリウムを含有するホスト鉱物を特定した。
分析した領域は,コンドリュールに隣接したマトリクスである(Fig. 1a)。マトリクスはオリビン,パイロキシン,硫化鉄,水酸化鉄の粒子からなる。ヘリウムはマトリクスから検出され,コンドリュールのオリビンと金属鉄からは検出できなかった(Fig. 1b, c)。また,マトリックス中にも太陽風ヘリウムが検出されない領域が斑状に分布している。この産状はガーデニングの結果を示している可能性がある。多量の太陽風ヘリウムを含む鉱物は硫化鉄粒子や水酸化鉄粒子であった。水酸化鉄粒子のヘリウムは,粒子を縁取るように分布していた(Fig. 1d)。水酸化鉄は金属鉄が地球上の風化によって形成した鉱物であるため,この水酸化反応で太陽風ヘリウムが逃散せず保持されていたことを示している。Fig. 1dで緑〜黄色で示されるヘリウム濃集層は,最小でも100 nm程度の幅をもっていた。この幅は,用いたビーム径に相当しており,太陽風ヘリウムは粒子表面に打ち込まれていることを示唆する。
硫化鉄と水酸化鉄粒子が保持するヘリウムの起源が,母天体表面で獲得した太陽風なら,オリビンとパイロキシン粒子も同様の過程で太陽風を捕獲できるはずである。しかし,NWA 801隕石のマトリクス中の硫化鉄と水酸化鉄粒子は,オリビンとパイロキシン粒子よりも多量のヘリウムを含む。この不一致は,硫化鉄・水酸化鉄とオリビン・パイロキシン間で,ヘリウムの保持力が異なる可能性を示唆する。

[1] Wieler (2002) Rev. Mineral. Geochem. 47. [2] Obase et al. (2021) GCA 312, 75–105. [3] Nagata et al. (2019) Appl. Phys. Express 12: 085005. [4] Bajo et al. (2015) GJ 49, 559–566. [5] Bajo et al. (2016) SIA 48, 1190–1193. [6] Wada et al. (2021) 日本地球化学会年会要旨集, 68, 143