日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG47] 岩石・鉱物・資源

2022年5月25日(水) 15:30 〜 17:00 301A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:野崎 達生(国立研究開発法人 海洋研究開発機構 海洋機能利用部門 海底資源センター)、コンビーナ:西原 遊(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)、門馬 綱一(独立行政法人国立科学博物館)、コンビーナ:纐纈 佑衣(名古屋大学大学院 環境学研究科)、座長:野崎 達生(国立研究開発法人 海洋研究開発機構 海洋機能利用部門 海底資源センター)、纐纈 佑衣(名古屋大学大学院 環境学研究科)

16:00 〜 16:15

[SCG47-09] FT-IR法を用いたかんらん岩中に含まれるかんらん石の含水量定量化手法の開発

*纐纈 佑衣1水野 瞳1,2道林 克禎1 (1.名古屋大学 大学院環境学研究科、2.東京大学 大気海洋研究所)

キーワード:フーリエ変換赤外分光法、かんらん石、キンバライト、含水量、両面研磨薄片、スペクトル解析アルゴリズム

かんらん石は上部マントルを構成する主要な鉱物である.かんらん石は基本的には水を含まない無水鉱物であるが,ppmオーダーのOHが結晶構造の欠陥に存在することがあり,かんらん石中の“水”と呼ばれる.この“水”の量(含水量)は上部マントルやクラトンの下部地殻の物性に影響を与える要因であるため,かんらん石中の含水量定量に関する研究は古くから行われてきた.かんらん石中の“水”は主にフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)を用いて計測されるが,多くの研究では岩石を粉砕してかんらん石粒子を一粒ずつ取り出して分析しているため,岩石組織と含水量の関係性は明らかになっていない.そこで,本研究では,かんらん岩の両面研磨薄片を作成してFT-IR分析を行い,岩石中に含まれる“水”の分布を検証した.
分析対象として,Kaapvaalクラトン(南アフリカ)キンバライトのかんらん岩ゼノリスを用いた.試料中には1 mm以上の粗粒なかんらん石が多数含まれる一方で,粒界や粒子の割れ目には蛇紋石が含まれている.岩石試料は両面研磨薄片を作成し,比較的割れ目が少なく透明度の高いかんらん石粒子を選択してFT-IRマッピング分析を行った.マッピングデータは,Mateev & Stachel (2007)で報告されている含水量定量式を元にして,MATLABを用いたスペクトル解析アルゴリズムを作成し,かんらん石粒子中の含水量マップを作成した.
分析の結果,両面研磨薄片の厚さが100 μm以下の粒子は,かんらん石のOHピーク強度が不十分なため含水量の定量化が困難であることが明らかになった.また,200μm以上の両面研磨薄片は,かんらん石以外の蛇紋石など他の鉱物が光路中に混入する事が多くなるため,かんらん石単体の明瞭なOHピークが得られなかった.上記の理由により,岩石の組織を保持した両面研磨薄片を分析する場合は,厚さが100–200 μm程度が適切であると考えられる.また,かんらん石の粒界付近では蛇紋石のOHピーク(約3700 cm-1)が混在し,かんらん石の含水量を多めに見積もってしまうため,蛇紋石ピークをフィルタリングすることで,かんらん石粒子のみの含水量を取り出す解析ステップを組み込んだ.
上記の手順で解析を行った結果,Kaapvaalクラトン産キンバライトのかんらん石の含水量は約200 ppm程度であった.また,単一粒子内の含水量の分布は濃度の勾配が多少みられるものの,150–250 ppmでほぼ一定であることが示された.
本研究により,両面研磨薄片を用いたFT-IR測定によるかんらん石中の含水量マッピング手法が確立された.本手法を用いる事で,マントル中の“水”の分布と組織や化学組成などの情報が対比可能となり,上部マントルにおける水の挙動と物性に関する理解が向上することが期待される.

【引用文献】Matveev S. & Stachel T. (2007) Geochim. Cosmochim. Acta 71, 5528–5543.