日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG47] 岩石・鉱物・資源

2022年5月25日(水) 15:30 〜 17:00 301A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:野崎 達生(国立研究開発法人 海洋研究開発機構 海洋機能利用部門 海底資源センター)、コンビーナ:西原 遊(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)、門馬 綱一(独立行政法人国立科学博物館)、コンビーナ:纐纈 佑衣(名古屋大学大学院 環境学研究科)、座長:野崎 達生(国立研究開発法人 海洋研究開発機構 海洋機能利用部門 海底資源センター)、纐纈 佑衣(名古屋大学大学院 環境学研究科)

16:15 〜 16:30

[SCG47-10] 豪州北部における未発見の古熱水系の存在を示唆するゼブラロック:その形成プロセスと鉄沈殿メカニズムについて

*河原 弘和1,2、吉田 英一3、勝田 長貴4、西本 昌司5、梅村 綾子3、隈 隆成6 (1.名古屋大学、2.JOGMEC、3.名古屋大学博物館、4.岐阜大学、5.愛知大学、6.名古屋大学宇宙地球環境研究所)


キーワード:リーゼガングバンド、鉄バンド、pH緩衝、熱水変質

【背景】 豪州北部キンバレー地域東部に産するゼブラロックは、エディアカラ紀のシルト岩で、酸化鉄鉱物(赤鉄鉱)からなる数mm〜2 cm幅の特徴的な赤褐色のバンド模様を示す。このバンド模様はリーゼガングの一例として知られ、岩石-水反応の化学条件を推測する上で重要な手がかりになる[1]。また、ゼブラロックが産する露頭は不連続ながら50 km以上に渡って分布しており、広域の地質イベントに関連して形成した可能性がある。ゼブラロックの形成メカニズムとして、初生的に堆積岩中に含まれていた黄鉄鉱の酸化分解・再沈澱が最も有力なモデルとして考えられてきた[2][3]。しかし、ゼブラロックを含む堆積岩層中で黄鉄鉱自体やその痕跡の報告例はないため、より詳細な検討が求められていた。本研究では、ゼブラロックが酸性熱水活動に関連して形成したという新たなモデルを提案する[4]。さらに、特徴的な鉄バンドの形成メカニズムや、バンド形成をもたらした酸性流体の化学条件について述べる。
【結果】 ゼブラロックは、極細粒の砕屑性の石英粒子及び粘土鉱物(カオリナイト、明ばん石)で構成される。特に、XRD分析及びラマン分光分析の結果、ゼブラロックは粘土鉱物組み合わせに応じて、カオリナイトに富むタイプ(Kaoタイプ)と明ばん石に富むタイプ(Aluタイプ)の2種類に分けられることがわかった。両タイプの最も顕著な違いの一つは鉄バンドのFe濃度で、XRF分析でKaoタイプが ~9% Fe、Aluが~30% Feと3倍以上の大きな差が認められた。XGT分析による元素マッピングでは、鉄バンド中のFe濃度分布は一様ではなく、バンドの片側に一方向に偏在していることがわかった。
【考察】 ゼブラロックの粘土鉱物組み合わせは、ゼブラロックが酸性熱水変質を被ったことを示す。また、2種類のタイプの違いは熱水の温度やpHの違いに応じて発達する変質分帯(熱水系の中心に近い方から、珪化-明ばん石帯→カオリナイト帯)とよく一致している。さらに、Kaoタイプの鉄バンドに比べてAluタイプの方がよりFe濃度が高いことは、流体中のFeの溶解度の温度依存性を反映し、より熱水系の中心に近いAluタイプの形成に関与した流体の方がより高温であることと調和的である。従って、バンド形成と酸性熱水変質は同じイベントで生じたと考えられる。また、明ばん石が形成する化学条件や[5]、ゼブラロック中に鉄明ばん石が含まれていないことから(:pH 3以下で明ばん石中のAl3+はFe3+に置換されて鉄明ばん石となる)、浸透した熱水の化学条件は200℃以下かつpH 3以上であったと推測される。
ゼブラロックの鉄バンドの片側に偏在するFe濃度分布は、浸透した熱水と原岩との反応による鉄沈殿のリアクションフロントが一方向に移動したことを示す。これは、Feを含む酸性熱水が原岩中に含まれていた初生的な炭酸塩鉱物と中和反応を生じ、熱水のpHが上昇して(:pH緩衝)、熱水中のFeが沈澱したことで説明できる[6]。熱水が原岩の層理面に沿って一方向に拡散し続けることで、ゼブラロックのリズミカルなバンド模様を形成したと考えられる。
【結論】 ゼブラロックは酸性熱水活動に関連して形成したと考えられる。また、鉄バンドの形成メカニズムは、酸性熱水と原岩中の炭酸塩鉱物の中和反応によるpH緩衝で熱水中の鉄が沈殿したというモデルで説明することができる。
また、鉄バンド中にわずかながら酸化銅が認められたことから、熱水系の中心には有用金属の鉱化帯が存在する可能性がある。鉄バンド中のFe濃度分布の偏りは浸透した熱水の移動方向を示すため、その上流を辿ることで熱水系の中心の方向を推測できる。このように熱水変質分帯と熱水の移動方向の2つの情報をもつゼブラロックは、熱水鉱床探査において有効な手がかりになると期待される。今後、現地調査を行って2種類のゼブラロックの分布を確認することで、ゼブラロックの形成に関連した熱水系の詳細を明らかにできると考える。
【引用文献】 [1] Yoshida et al., 2020: Chem. Geol. [2] Loughnan & Roberts, 1990: Aust. Jour. of Earth Sci. [3] Retallack, 2021: Aust. Jour. of Earth Sci. [4] Kawahara et al., 2022: Chem. Geol. [5] Hedenquist et al., 1996: Resource Geol. [6] Yoshida et al., 2018: Sci. Adv.