日本地球惑星科学連合2022年大会

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[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG47] 岩石・鉱物・資源

2022年6月2日(木) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (29) (Ch.29)

コンビーナ:野崎 達生(国立研究開発法人 海洋研究開発機構 海洋機能利用部門 海底資源センター)、コンビーナ:西原 遊(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)、門馬 綱一(独立行政法人国立科学博物館)、コンビーナ:纐纈 佑衣(名古屋大学大学院 環境学研究科)、座長:野崎 達生(国立研究開発法人 海洋研究開発機構 海洋機能利用部門 海底資源センター)、西原 遊(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)、門馬 綱一(独立行政法人国立科学博物館)、纐纈 佑衣(名古屋大学大学院 環境学研究科)

11:00 〜 13:00

[SCG47-P01] 日高帯北部・下川オフィオライトのドレライト岩床中に見られるセグリゲーションベシクルの記載と化学組成

*加藤 聡美1、宮下 純夫2、岡村 聡2,3 (1.新潟大学大学院自然科学研究科、2.北海道総合地質学研究センター、3.北海道土質試験協同組合)

キーワード:セグリゲーションベシクル、日高帯北部、中央海嶺玄武岩

<はじめに>
 これまで筆者らは, 北海道日高帯北部・下川オフィオライト中に産する高発泡ドレライト岩床1(以下, シル1と呼称)の発泡度が同地域の他の玄武岩類に比べて高いこと, および岩床内部にカリ長石と曹長石で構成される曹長石-カリ長石脈が形成されていることに注目し, 全岩化学組成・発泡度などから高発泡の要因の究明を行ってきた. 周囲の堆積物からドレライト岩床(マグマ)への熱水流体供給が発泡度を増加させ, 曹長石-カリ長石脈を形成した要因であると考えている. ところで下川オフィオライトにおいてハイアロピロティックな石基状の組織によって充填されるセグリゲーションベシクル(Smith, 1967)が観察されていた. Jones(1969)はセグリゲーションベシクルの成因として後期の基質の発泡の際に, 初期に形成された気泡への残液の排除が生じたと考えた.
<地質概説と産状>
 下川オフィオライトは北海道中央部の北部に位置する. 不完全ながらオフィオライト層序を有し, 下位から蛇紋岩化したハルツバージャイト, 斜長岩質はんれい岩, 主体部下部はドレライトと堆積岩との厚い互層・上部は枕状溶岩・中部は両者の中間,最上部は角礫岩から構成される. ドレライト類はMORB組成を示す(Miyashita and Watanabe,1988). 今回対象とするのは, セグリゲーションベシクルが多数観察されている高発泡ドレライト岩床3(以下, シル3と呼称)である. 層厚は10 m, 斜長石, 単斜輝石, 不透明鉱物からなるドレライトである. ドレライトの周囲は黒色頁岩からなる. ドレライトには接触急冷縁は見られない. 周囲の堆積岩とドレライトは断層関係であると考えている. 薄片観察よりセグリゲーションベシクルは細粒な石基状の曹長石や単斜輝石で構成される. またセグリゲーションベシクルの内側には細粒な緑泥石などで構成される球形に近い形状を示す緑色組織がある. Fig. 1左列のAとB(シル3)については気泡の内側の壁面付近のみをわずかにセグリゲーションベシクルが埋め, 気泡中心部を緑色組織が埋めている. Fig. 1右列のCとD(セグリゲーションベシクルが多数観察されている高発泡ドレライト岩床3)においてはFig. 1Cの最も左側の矢印の先の気泡の内側についてはセグリゲーションベシクルと緑色組織の割合が半々である.このように緑色組織の割合はさまざまである.
<結果>
 シル 3のドレライト2 枚の薄片から, 5 箇所のセグリゲーションベシクルについて, EDSによる面分析をそれぞれ2-3 箇所以上行い, それらの平均から主成分組成を得た. また, セグリゲーションベシクルを埋める鉱物を特定するために点分析を行った. 緑色組織は緑泥石とスフェーンであった. セグリゲーションベシクルを構成する鉱物は, スフェーン, 曹長石および単斜輝石であった. スフェーンはイルメナイトやガラスが変質したものと考えられる. 面分析の結果によれば, セグリゲーションベシクル部分は, 平均値TiO2=1.3~3.4 wt %であり, K2Oをほとんど含まず, 母岩ドレライトの全岩化学組成TiO2=1.27~1.28 wt %よりも分化した玄武岩組成を示す.
<結論>
 これらのことからセグリゲーションベシクル部分は, 母岩ドレライトの分化したメルトの残液が気泡中へ排出されたものであることが明らかになった. セグリゲーションベシクル内側の緑色組織は分化したメルトの残液が充填されなかった気泡とみなされる. メルトの残液は曹長石-カリ長石脈の粗面岩質な組成(加藤・宮下, 2021)とは全く異なる. 曹長石-カリ長石脈はドレライト内の分化した残液由来ではなく, ドレライトマグマの外に由来することを支持する結果となった.

<参考文献>
[1] Smith, 1967 [2] Jones, 1969 [3] Miyashita and Watanabe,1988 [4] Kato and Miyashita, 2021. Japan Geosci. Union Meet. 2010, Abstr., SVC31-03.

<Fig. 1>
AとBはシル3, CとDはシル2の偏光顕微鏡写真. AとCはクロスニコル, BとDはオープンニコル.