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[SCG47-P17] 山口県東部玖珂層群に胚胎する層状マンガン鉱床の性状~荒瀬谷鉱山と蓮華鉱山について
キーワード:マンガン鉱床
山口県東部の玖珂層群には多くの層状マンガン鉱床が胚胎する (宮本, 1953).このような層状マンガン鉱床は,初生的な炭酸マンガン型鉱床が火成岩類の接触変成作用を受けることで珪酸マンガン鉱を主とする珪酸マンガン鉱型鉱床に変化すると考えられている (西村ほか, 2012).そのため炭酸マンガン型と珪酸マンガン型鉱石の鉱物組み合わせや化学的特徴の検討は,層状マンガン鉱床の形成過程の理解に貢献する.そのため本研究では炭酸マンガン鉱型である荒瀬谷鉱山と珪酸マンガン鉱型である蓮華鉱山の鉱石対象として記載学的検討を行った.両鉱山は土生花崗閃緑岩を挟んで南北に位置し,相対的に閃緑岩体に近い南部の蓮華鉱山は,本岩体の接触変成作用の影響をより強く被っていると推定される.
マンガン鉱石は荒瀬谷鉱山と蓮華鉱山のズリから採取され,構成鉱物の量比に基づいて,荒瀬谷鉱山産鉱石はA-Ⅰ~A-IIIの3タイプに,蓮華鉱山はR-I~R-Ⅳの4タイプに分類された.荒瀬谷鉱山産鉱石の主要構成鉱物は,菱マンガン鉱+バラ輝石+石英(A-Ⅰ, -Ⅱ),ハウスマン鉱+アレガニー石+菱マンガン鉱(A-Ⅲ)である.ほぼバラ輝石を含まないA-IIIはA-I, -IIより初生的な特徴を持つと考えられる.Brusnity et al.(2017)に基づくと昇温および二酸化炭素分圧の増加によってA-ⅢからA-Ⅰ, -Ⅱに変化したと解釈される.またA-I,-IIで,菱マンガン鉱がバラ輝石によって交代された組織がみられたため,昇温による次の反応が示唆される;菱マンガン鉱 + 石英 à バラ輝石 + CO2 (吉永, 1958).A-I, II, IIIに産する菱マンガン鉱の組成はほぼ同じ組成範囲を持ち,平均組成に基づく化学式は(Mn0.77-0.85Ca0.10-0.21Fe0.00-0.03Mg0.01-0.03)CO3でほとんどFeを含まない.またバラ輝石の組成は(Mn0.76-0.91Fe0.01-0.12Ca0.02-0.10Mg0.01-0.04)SiO3である.
蓮華鉱山のtype R-I, -II, -III鉱石は主に準輝石(パイロクスマンガン石>>バラ輝石) >ザクロ石 > 石英 > 繊維状の角閃石からなるが,R-IVはザクロ石が卓越して準輝石を含まず,肉眼で自然蒼鉛の集合が確認できる.本鉱石中で卓越するパイロクスマンガン石の組成は(Mn0.60-0.63Fe2+0.27-0.31Mg0.05-0.06Ca0.03-0.04)Si1.00O3と表され,同じく準輝石であるバラ輝石の組成は(Mn0.63-0.74Fe0.11-0.16Ca0.09-0.18)Si1.00O3である.またザクロ石の粒径はA-I (< 0.5 mm)からA-IV(< 1 mm)にかけて増大する傾向がみられ,その組成はSps80-71Alm19-12Adr8-3Grs4-2でスペサルティンに分類される.準輝石,ザクロ石ともMnが卓越するが,比較的高いFe含有量が特徴であえる.
鉱石鉱物は,荒瀬谷鉱山でリンネ鉱,黄銅鉱,コバルトペントランド鉱,方鉛鉱,テルル鉛鉱(PbTe)[NM1] がみられた.コバルトペントランド鉱[(Co8.41Ni0.39Mn0.16Fe0.06)S9.02S8]とリンネ鉱[(Co1.84-2.35Ni0.52-1.09Cu0.06Fe0.06Mn0.01-0.05)S2.98-3.00S4]にはNiも含まれていることから,これらの元素は層状マンガン鉱床の原物質とされるマンガン団塊やマンガンクラストから供給されたと推定できる.一方,蓮華鉱山ではゲルスドルフ鉱,輝コバルト鉱,黄鉄鉱,磁硫鉄鉱,黄銅鉱,自然蒼鉛,輝蒼鉛鉱(Bi2S3)がみられた.含Bi鉱物(特に自然蒼鉛)の産出はR-IVで顕著で,荒瀬谷鉱山鉱石中で見られないことから,火成岩体由来の可能性が考えられる.事実,山口県中央部に分布する美祢層群に胚胎するチタン鉄鉱系花崗岩類の接触変成作用によって形成された銅スカルン鉱床においても多くの含Bi鉱物の産出が報告されており(Nagashima et al. 2016, 2021),Biの起源を土生花崗閃緑岩に求めることは,本地域がチタン鉄鉱系花崗岩類分布域である(Ishihara 1977)ことからも支持される.また両鉱山の鉱石構成鉱物とその化学的特徴を考慮すると蓮華鉱山産鉱石は荒瀬谷鉱山のものに比べてFe, Al, Siに富む傾向があることから,これらの元素も火成岩体由来もしくは岩体由来の熱水の流路となった周辺の地質体,例えば玖珂層群の緑色岩など,に由来する可能性があるが,現段階では仮説であり,これを明らかにするためには今後さらなる検討が必要である.
マンガン鉱石は荒瀬谷鉱山と蓮華鉱山のズリから採取され,構成鉱物の量比に基づいて,荒瀬谷鉱山産鉱石はA-Ⅰ~A-IIIの3タイプに,蓮華鉱山はR-I~R-Ⅳの4タイプに分類された.荒瀬谷鉱山産鉱石の主要構成鉱物は,菱マンガン鉱+バラ輝石+石英(A-Ⅰ, -Ⅱ),ハウスマン鉱+アレガニー石+菱マンガン鉱(A-Ⅲ)である.ほぼバラ輝石を含まないA-IIIはA-I, -IIより初生的な特徴を持つと考えられる.Brusnity et al.(2017)に基づくと昇温および二酸化炭素分圧の増加によってA-ⅢからA-Ⅰ, -Ⅱに変化したと解釈される.またA-I,-IIで,菱マンガン鉱がバラ輝石によって交代された組織がみられたため,昇温による次の反応が示唆される;菱マンガン鉱 + 石英 à バラ輝石 + CO2 (吉永, 1958).A-I, II, IIIに産する菱マンガン鉱の組成はほぼ同じ組成範囲を持ち,平均組成に基づく化学式は(Mn0.77-0.85Ca0.10-0.21Fe0.00-0.03Mg0.01-0.03)CO3でほとんどFeを含まない.またバラ輝石の組成は(Mn0.76-0.91Fe0.01-0.12Ca0.02-0.10Mg0.01-0.04)SiO3である.
蓮華鉱山のtype R-I, -II, -III鉱石は主に準輝石(パイロクスマンガン石>>バラ輝石) >ザクロ石 > 石英 > 繊維状の角閃石からなるが,R-IVはザクロ石が卓越して準輝石を含まず,肉眼で自然蒼鉛の集合が確認できる.本鉱石中で卓越するパイロクスマンガン石の組成は(Mn0.60-0.63Fe2+0.27-0.31Mg0.05-0.06Ca0.03-0.04)Si1.00O3と表され,同じく準輝石であるバラ輝石の組成は(Mn0.63-0.74Fe0.11-0.16Ca0.09-0.18)Si1.00O3である.またザクロ石の粒径はA-I (< 0.5 mm)からA-IV(< 1 mm)にかけて増大する傾向がみられ,その組成はSps80-71Alm19-12Adr8-3Grs4-2でスペサルティンに分類される.準輝石,ザクロ石ともMnが卓越するが,比較的高いFe含有量が特徴であえる.
鉱石鉱物は,荒瀬谷鉱山でリンネ鉱,黄銅鉱,コバルトペントランド鉱,方鉛鉱,テルル鉛鉱(PbTe)[NM1] がみられた.コバルトペントランド鉱[(Co8.41Ni0.39Mn0.16Fe0.06)S9.02S8]とリンネ鉱[(Co1.84-2.35Ni0.52-1.09Cu0.06Fe0.06Mn0.01-0.05)S2.98-3.00S4]にはNiも含まれていることから,これらの元素は層状マンガン鉱床の原物質とされるマンガン団塊やマンガンクラストから供給されたと推定できる.一方,蓮華鉱山ではゲルスドルフ鉱,輝コバルト鉱,黄鉄鉱,磁硫鉄鉱,黄銅鉱,自然蒼鉛,輝蒼鉛鉱(Bi2S3)がみられた.含Bi鉱物(特に自然蒼鉛)の産出はR-IVで顕著で,荒瀬谷鉱山鉱石中で見られないことから,火成岩体由来の可能性が考えられる.事実,山口県中央部に分布する美祢層群に胚胎するチタン鉄鉱系花崗岩類の接触変成作用によって形成された銅スカルン鉱床においても多くの含Bi鉱物の産出が報告されており(Nagashima et al. 2016, 2021),Biの起源を土生花崗閃緑岩に求めることは,本地域がチタン鉄鉱系花崗岩類分布域である(Ishihara 1977)ことからも支持される.また両鉱山の鉱石構成鉱物とその化学的特徴を考慮すると蓮華鉱山産鉱石は荒瀬谷鉱山のものに比べてFe, Al, Siに富む傾向があることから,これらの元素も火成岩体由来もしくは岩体由来の熱水の流路となった周辺の地質体,例えば玖珂層群の緑色岩など,に由来する可能性があるが,現段階では仮説であり,これを明らかにするためには今後さらなる検討が必要である.