日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG48] 海洋底地球科学

2022年5月27日(金) 10:45 〜 12:15 105 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:沖野 郷子(東京大学大気海洋研究所)、コンビーナ:田所 敬一(名古屋大学地震火山研究センター)、座長:多田 訓子(海洋研究開発機構)、清杉 孝司(神戸大学海洋底探査センター)

11:15 〜 11:30

[SCG48-03] BSR深度から熱流量を推定する上での不確定性に関する考察

*木下 正高1仲田 理映1濱田 洋平2橋本 善孝3 (1.東京大学地震研究所、2.海洋研究開発機構、3.高知大学)

キーワード:熱流量、IODP掘削、熱伝導率

南海トラフと琉球海溝の交点にあたる日向灘沖は,九州パラオ海嶺が沈み込んでいる場所であり,海山列沈み込みとスロー地震の発生の関係を明らかにするため,海洋科学掘削を提案している.一方,地震発生の場を推定するのに重要な役割を果たす温度場・水理場推定のため.海底熱流量の計測・解析を実施している.熱流量を決める手段としては,温度計が組み込まれた槍を海底に突きさして,温度勾配などを直接測定する方法が精度の点でベストであるが,測定効率が悪い.また局所的条件に左右されて深部の熱流量が必ずしも求められないという課題がある.それに代わる手法として,反射法地震探査データから読み取った,メタンハイドレート安定領域の下面(海底から数百m下)の深度(BSR深度)とそこでの温度などから推定する方法がある.地震探査データがある場所で連続的な値が得られる上に,海底地形や底層水温変動の影響を受けず,地下深部からの熱流量を正確に把握できるというメリットもある.日向灘沖では,地震構造探査が行われ,BSR面に沿って新たに熱流量が求められている(Kinoshita et al., 2021AGUなど).その際,BSRから推定された熱流量の不確定性を検討したので報告する.
熱流量の計算には熱伝導率の深さ分布が必要である.1次元定常熱伝導による温度場を仮定すると,熱流量Qは深度に依らず一定であり, BSR深度zにおける温度T(z)とthermal resistance(熱伝導率から求められる)から計算できる.熱伝導率が深度に依らず一定値λとしてよい場合には,単純にQ=λ(T(z)-T(0))として計算できる.掘削が行われている場所では,計測された熱伝導率とP波速度の構成関係を求めて,構造探査によるP内速度モデルを熱伝導率に変換し,それを用いて熱流量を決定する.その際,不確定性を生じる原因として,熱伝導率,BSR深度,T(z),の3つが主要なものである.T(z)は,BSR深度が分かれば,実験的手法により決定されたBSR相平衡曲線(Maekawa et al., 1995)から推定できる.BSR深度の不確定性は,反射法データで推定された速度構造によるが,今回は単純に,交差する2測線の交点付近でのBSR深度のずれとして評価を試みた.その結果,必ずしも交点に近い場所でBSRが存在しないこともあり,BSR深度(厚さ)の違いが最大20%となった.今後,速度モデル自体の誤差評価や,交点そのものでの深度のずれなど,さらに検討を続けていく必要がある.
熱伝導率については,日向灘海域には掘削データがないので,2020年に実施した地震探査測線(HYU01)で得られた速度モデルから推定した.まずP波速度を,Erickson and Jarrard (1998)やHoffman and Tobin (2004) の関係式を用いて間隙率に換算し,さらに堆積物の熱伝導率をよく表すとされる幾何平均モデルを用いて,間隙率と固体部分の熱伝導率(ここでは2.7 W/m/Kとした)から熱伝導率に変換した(A).一方,他の測線では異なる速度モデルが用いられたり,そもそも速度モデルが入手できない場合があるため,南海トラフ掘削データから推定された,海底からBSR深度までの平均の熱伝導率(Kinoshita et al., 2011),あるいはHYU01測線で得られた熱伝導率の平均値(B,ここでは1.3 W/m/K)を用いることが必要となる.HYU01について,AとBの結果を用いた熱流量を比較したところ,最大5 mW/m^2(10%程度)の違いがあることが分かった.詳しく見ると,低熱流量の場所はBSRが深いため平均の熱伝導率は1.3より大きく,Bの結果がunderestimateになっている(最大5%)が,高熱流量の場所では逆にoverestimateになっている(最大10%)ことが分かった.この程度の不確定性は,手法Aにおいて,P波速度を間隙率に変換する際の不確定性(手法の違いなど)と同程度であることが分かった.
掘削データ(熱伝導率・P波速度・間隙率)と地震構造探査データ(速度モデル)があればフルに活用して熱流量の信頼性を保つことが有用だが,どちらか一つでもあれば,既往データと併用した平均熱伝導率を用いても,熱伝導率の推定自体の不確定性(Hoffman vs Ericksonなど)を含む,全体の不確定性には大きな変動がないことが推定された.