日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG48] 海洋底地球科学

2022年5月27日(金) 13:45 〜 15:15 105 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:沖野 郷子(東京大学大気海洋研究所)、コンビーナ:田所 敬一(名古屋大学地震火山研究センター)、座長:稲津 大祐(東京海洋大学)、中村 優斗(海上保安庁海洋情報部)

15:00 〜 15:15

[SCG48-12] 機械学習を⽤いたGNSS-Acoustic観測の音響波形解析−Convolutional Neural Network による⾛時検出−

*黒須 直樹1本荘 千枝1木戸 元之2 (1.東北大学理学研究科、2.東北大学災害科学国際研究所)


キーワード:GNSS-Acoustic観測、音響解析、機械学習、CNN

海底の地殻変動を測定する方法の一つであるGNSS-Acoustic (GNSS-A) 観測は、海上での電波を用いて船のグローバル座標を決定するGNSS測位と、海中での音波を用いて船からの海底基準点の位置を決定する音響測距とを組み合わせた手法である。このうち音響測距では、海底局からの返信波と理論送信波とで相互相関を取ることで、音波の往復走時を高い精度で求めている。理論上は、相関波形の最大ピークが受信時刻に相当するはずであるが、実際の相関波形は大きく歪んでいる。これまでの研究により、通常の相互相関ではなく位相限定相関を用いることでサイドローブが低減することが判ったが、それでも簡単には真のピークを判定できない。現在は、テンプレートマッチングでこの問題に対処している。相関波形は音波の射出角に強く依存することが判っているので、まず位相相関を射出角帯ごとにスタッキングし、射出角帯別にテンプレートを作成する。次に、波形の歪みが比較的小さい高射出角帯のテンプレートについて、目視により真のピークを決定する。そこから順次、隣り合う射出角帯のテンプレートとの相関を取ることで、全テンプレートの真のピークを整合的に決定していく。しかしこの手法には、観測の度にテンプレートを作り直す必要があることや、ピークの取り間違いが起こる場合があるなどの課題があった。
そこで、本研究ではテンプレートマッチングに代わるものとして、機械学習の一つであるConvolutional Neural Network (CNN) を利用し音波の往復走時を自動決定する仕組みを作ることを目的とした。なお、相関波形は射出角のほか船舶や観測点水深にも依存性があるが、今回は、対象とする船舶をWave Glider(無人観測船)に、観測点水深を4,000 m 台に限定することで、相関波形のバリエーションを減らし、問題を単純化して取り組んだ。
CNNへの入力値には、最大相関を中心とした前後120サンプルずつ(データ長:241サンプル=241×10-5 s)を、最大相関値で規格化したものを使用した。また、相関波形の後に、射出角に比例した振幅の8サンプルの矩形波を付け加え、射出角情報を明示的に与えた。正解値は、テンプレートマッチングにより決定された真のピークの最大相関ピークからのシフト値とした。CNNの構築とトレーニングには機械学習ソフトウェアライブラリTensorFlowを使用した。正解値とCNN出力値との差を表す損失関数にはHuber損失を、損失関数の最小化アルゴリズムには確率的勾配降下法の一つであるAdamを用いた。
データは、三陸沖の水深4,000 m台の海底に設置された4観測点において、2020〜2021年に実施された計4回のWave Glider観測で得られたものを使用した。データが極端な射出角帯の偏りを持たないよう、1航海で得られた全データのうち射出角帯ごとの最大データ数を500としたデータセットを使用した。全データ数は22,465個となり、このうち8割をCNNのトレーニングに、残りの2割を結果の検証に用いた。
トレーニングしたCNNに検証用データを流した結果、二乗平均平方根誤差 (RMSE) は1.59サンプル(= 1.59×10-5 s)であった。相関波形の波長は約8サンプルであるので、この値は真のピークの前後約0.2波長分の範囲にCNN出力の約68%(1σ)が収まっていることを示している。また射出角帯ごとのRMSEを調べた結果、データ数の少ない高射出角帯ではRMSEが大きいことが分かった。全体としては、測位解析に用いる走時データとして十分実用的な精度を達成していると思われるが、今後、CNNによる走時を用いた実際の測位解析により検証する必要がある。
比較のため、4観測点で個別にCNNをトレーニングし精度検証を行ったところ、RMSEは4観測点全体で1.67と、4観測点を統合したCNNより精度が劣ることが分かった。このことから、現状のデータ数では、複数の観測点を統合することで波形のバリエーションが増し問題が複雑になるというデメリットより、トレーニングデータが増えるメリットの方が大きいと考えらえる。今後、さらに対象とする観測点を広げデータ数を増やすことで、特に高射出角帯の精度が改善することが期待される。
また、4観測点を統合したCNNに、同じく水深4,000 m台の観測点で得られたデータを流したところ、特定の射出角帯において、CNNの出力値が正解値から系統的に約8サンプル(約1波長分)前にずれる結果となった。詳しく検証した結果、正解値を決定するのに用いたテンプレートセットのうち、該当射出角帯のテンプレートに一波長分の誤りがあることが分かった。今回の例は、真のピークの整合性をより包括的に検証できる本手法の利点を示すものである。