11:00 〜 13:00
[SCG48-P03] トカラ列島周辺海域の底質分布 ~2021年調査速報~
キーワード:トカラ列島、表層堆積図
産業技術総合研究所地質調査総合センターでは、日本周辺海域における20万分の1海洋地質図の網羅的な作成を目的とした海域地質図プロジェクトを実施している。このプロジェクトの一環として、表層堆積図作成のため、海域を網羅する堆積物採泥調査を行っている。本発表では、2021年に東海大学の「望星丸」で実施した海域地質調査航海(GB21-1, GB21-2, GB21-3)で得た堆積物試料の船上観察および非破壊分析の予察結果を報告する。
<表層堆積物採泥>
調査対象海域において、約10 km間隔のグリッド状で、計163地点において木下式グラブ採泥器(Kグラブ)を用いた表層採泥を実施した。Kグラブには誤作動防止装置、レーザースケール付きの海底カメラ、ニスキン採水器を装備している。これらの装置は水中高度計と連動しており、作動率向上、海底画像取得による生物相や堆積構造の詳細把握、海底直上水の採取を実現している。またこれらと独立して、CTD、方位傾斜計、音速度計(一部地点)を装備している。こうした装備によって、試料を全く得られないような硬い底質においても一定の底質情報を取得できる。
採取された堆積物試料は、船上で写真撮影、肉眼記載、5 mm以上の粗粒物質(生物遺骸・礫)の分類を行った。砂質ないし泥質堆積物が採取できた地点では有田式サブコアの分取を行い、研究室に持ち帰って厚さ1 cmのスラブ試料を用いた軟X線像の撮影と、医療用X線CTスキャナによる三次元構造の取得を行った。
<底質の全体的な傾向と主要な制御要因>
島嶼部及び地形的な高まりの周辺では火成岩質の礫、砂が卓越し、トカラ海底谷および沖縄トラフ底部など1000 m前後の水深では泥質堆積物が卓越する。粗粒物質の組成は地点により多様で、とくにパミスや生物遺骸(海綿動物、刺胞動物、軟体動物が多い)が広範囲に分布する。島嶼部周辺や種屋久海脚、海底火山とみられる地形的高まりおよびその周辺では、海底写真上で露岩やリップルが多く観察された。とくに砂質堆積物には、海底写真のほか、採取された試料表面でも認識できる数十cm ~ 1 mスケールのリップル・メガリップルや、海底地形データで認識できる数百mスケールの波長を持つサンドウェーブなど、流れの影響を受けた地形や構造が多く見られた。リップルが確認される地点では翼足類などの生物遺骸や鉱物組成の異なる砂粒子など、類似した密度・形状をもつ物質が濃集して互層を成す様子が海底写真やサブコア断面から観察された。肉眼観察とCTスキャナにより取得した三次元構造から、砂質・泥質堆積物は水深を問わず多くの地点で強い生物擾乱を受けていることがわかった。
本海域において主たる底質としての細粒物質は深海にしか分布しないが、粗粒物質は水深を問わず分布する傾向があり、本海域の底質粒径は水深(陸域からの距離)だけでなく、海底に多数分布する海底火山など周辺地形の起伏や傾斜にも制約されていることが考えられる。
堆積物粒子の組成は基本的には近傍の火山岩体からの供給や生物生産を反映していると思われるが、リップルをはじめとする堆積構造や、特定の密度・形状をもつ粒子の濃集は、推定流向や分布範囲から、トカラ列島周辺で蛇行して東シナ海から太平洋に抜ける黒潮の影響が底層付近まで到達していることによるものと考えらえれる。
<まとめ・今後の展望>
トカラ列島周辺海域の底質分布は、陸・海を問わず供給される多様な火山性砕屑物および生物遺骸が、黒潮をはじめとする流れの影響を受けて移動・再堆積している複雑な状況にある。
2022年度は、同海域において経度範囲を広げ、沖縄トラフ北東部と種屋久海脚周辺海域において海底地質調査を実施する。これらの航海で得る試料および既存試料について、粒度分析・粒子組成など定量分析を進め、本海域における堆積物組成やその空間変動、近過去から現在の堆積プロセスを解明し、表層堆積図として地質研究のための基礎情報整備を進めていく予定である。また本海域ではKグラブによる表層採泥の他、代表的な堆積場において計7地点での柱状試料採取を実施している(望星丸航海GB21-1、白鳳丸航海KH-22-2)。これらの試料を用いて、海域における典型的な堆積速度や堆積物供給源の時空間変化を解明することも目指す。
<表層堆積物採泥>
調査対象海域において、約10 km間隔のグリッド状で、計163地点において木下式グラブ採泥器(Kグラブ)を用いた表層採泥を実施した。Kグラブには誤作動防止装置、レーザースケール付きの海底カメラ、ニスキン採水器を装備している。これらの装置は水中高度計と連動しており、作動率向上、海底画像取得による生物相や堆積構造の詳細把握、海底直上水の採取を実現している。またこれらと独立して、CTD、方位傾斜計、音速度計(一部地点)を装備している。こうした装備によって、試料を全く得られないような硬い底質においても一定の底質情報を取得できる。
採取された堆積物試料は、船上で写真撮影、肉眼記載、5 mm以上の粗粒物質(生物遺骸・礫)の分類を行った。砂質ないし泥質堆積物が採取できた地点では有田式サブコアの分取を行い、研究室に持ち帰って厚さ1 cmのスラブ試料を用いた軟X線像の撮影と、医療用X線CTスキャナによる三次元構造の取得を行った。
<底質の全体的な傾向と主要な制御要因>
島嶼部及び地形的な高まりの周辺では火成岩質の礫、砂が卓越し、トカラ海底谷および沖縄トラフ底部など1000 m前後の水深では泥質堆積物が卓越する。粗粒物質の組成は地点により多様で、とくにパミスや生物遺骸(海綿動物、刺胞動物、軟体動物が多い)が広範囲に分布する。島嶼部周辺や種屋久海脚、海底火山とみられる地形的高まりおよびその周辺では、海底写真上で露岩やリップルが多く観察された。とくに砂質堆積物には、海底写真のほか、採取された試料表面でも認識できる数十cm ~ 1 mスケールのリップル・メガリップルや、海底地形データで認識できる数百mスケールの波長を持つサンドウェーブなど、流れの影響を受けた地形や構造が多く見られた。リップルが確認される地点では翼足類などの生物遺骸や鉱物組成の異なる砂粒子など、類似した密度・形状をもつ物質が濃集して互層を成す様子が海底写真やサブコア断面から観察された。肉眼観察とCTスキャナにより取得した三次元構造から、砂質・泥質堆積物は水深を問わず多くの地点で強い生物擾乱を受けていることがわかった。
本海域において主たる底質としての細粒物質は深海にしか分布しないが、粗粒物質は水深を問わず分布する傾向があり、本海域の底質粒径は水深(陸域からの距離)だけでなく、海底に多数分布する海底火山など周辺地形の起伏や傾斜にも制約されていることが考えられる。
堆積物粒子の組成は基本的には近傍の火山岩体からの供給や生物生産を反映していると思われるが、リップルをはじめとする堆積構造や、特定の密度・形状をもつ粒子の濃集は、推定流向や分布範囲から、トカラ列島周辺で蛇行して東シナ海から太平洋に抜ける黒潮の影響が底層付近まで到達していることによるものと考えらえれる。
<まとめ・今後の展望>
トカラ列島周辺海域の底質分布は、陸・海を問わず供給される多様な火山性砕屑物および生物遺骸が、黒潮をはじめとする流れの影響を受けて移動・再堆積している複雑な状況にある。
2022年度は、同海域において経度範囲を広げ、沖縄トラフ北東部と種屋久海脚周辺海域において海底地質調査を実施する。これらの航海で得る試料および既存試料について、粒度分析・粒子組成など定量分析を進め、本海域における堆積物組成やその空間変動、近過去から現在の堆積プロセスを解明し、表層堆積図として地質研究のための基礎情報整備を進めていく予定である。また本海域ではKグラブによる表層採泥の他、代表的な堆積場において計7地点での柱状試料採取を実施している(望星丸航海GB21-1、白鳳丸航海KH-22-2)。これらの試料を用いて、海域における典型的な堆積速度や堆積物供給源の時空間変化を解明することも目指す。