日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG48] 海洋底地球科学

2022年5月29日(日) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (19) (Ch.19)

コンビーナ:沖野 郷子(東京大学大気海洋研究所)、コンビーナ:田所 敬一(名古屋大学地震火山研究センター)、座長:沖野 郷子(東京大学大気海洋研究所)、田所 敬一(名古屋大学地震火山研究センター)

11:00 〜 13:00

[SCG48-P04] 駿河湾奥部富士川沖における堆積物の特徴とその堆積過程

*中村 希1内山 涼多1坂本 泉1横山 由香2平 朝彦3 (1.東海大学海洋学部、2.産業技術総合研究所、3.東海大学海洋研究所)

キーワード:富士川、富士川海底扇状地、混濁流、ガマ、洪水流

駿河湾はプレート収束部に位置し、急峻な地形的特徴を持つ湾である.湾奥部では富士川河口に接続する.富士川は南アルプス鋸岳(標高2685m)に源流があり,甲府・南部フォッサマグナを南下し,駿河湾に注いでいる.南アルプスは日本でも有数の隆起地帯であり,これに伴って浸食量も膨大であり,戦後14回の大きな洪水が報告されている(国土交通省).このうち,2018年9月30日~10月1日にかけて日本列島を縦断した台風24号による豪雨により,洪水が発生した.当時駿河湾で観測中であった海底地震計計26台のうち,9台のトラブルで急浮上または不明となったが,この時刻と富士川河口に近い松岡水位・流量観測所における流量ピーク時刻が一致していた.このことから混濁流が発生したと推定された(馬場ら,2021).この事象をきっかけに洪水起源による混濁流が海域(あるいは海底)で1)どのように運搬され,2)堆積するのか,3)また深海の環境や生態系にどのような影響をもたらすのか,を解明するため,地形・地質・生物の分野を含むプロジェクトチームが立ち上り,駿河湾の総合的な研究を開始している.本発表では,そのうち地形・地質分野に関わる結果報告を行う.
東海大学では大型調査船望星丸(2000㌧)に搭載のマルチビーム音響測深機(MNB)を用いた地形調査を行い,詳細な海底地形および反射強度データの蓄積を行っている. 2021年度は,大学所有の小型調査船北斗・南十字(19㌧)を用い,底質調査を行った.これによると,富士川河口沖の扇状三角州(Soh et al.,1995)の詳細な地形と底質分布の様子が明らかになってきた.湾奥の扇頂部では粗粒~細粒の堆積物が約20 kmにわたり,南北方向の網状チャンネルが分布している事が明らかになった.扇央部では濃いまとまった反射が顕著であり,さらに扇端部では竹箒の先端の様にうっすらと細い筋状に変化していく様子が観察されている.この反射強度図に基づき富士川河口沖の南北方向測線上の水深200 m付近から1418 mまで採泥調査が実施された.採泥調査では,スミスマッキンタイヤー型グラブ採泥器を用い,計13地点の底質試料を採取した.500 m以浅の浅場では礫を含んでいるため,堆積層としての採取は行えなかった.そのため,堆積層としての採取は水深560 m~1418 mまでの7地点の試料のみであった.これら堆積物は柱状アクリルケース(有田式)で採取後,肉眼観察,軟X線観察,粒度組成分析を行った.さらに海底状況を観察するため,水深3000m対応のカメラ及びライトを採泥器に搭載し,底質環境を撮影した.
 堆積物試料及び海底映像からは,次のa~e)が確認された.
a)底質環境では,扇頂部,扇央部,扇端部に至る全域にわたり海底極表層は乳白色を呈したシルト質堆積物(黒色に変色した植物片含む)が一面を覆い,水深700 m付近までは表面にリップル(周期10~20 cm)が確認された.
b)扇央部におけるSFJ4(水深560 m)からSFJ10(水深1343 m)までの7地点から,軟X線でラミナの発達が確認される塊状の砂質堆積物(2 φ前後)が採取された.
c)扇央部から扇端部にかかるSFJ7(水深1089 m)付近まで、10cmを越える円礫が観察された.
d)扇端部にあたるSFJ11(水深1387 m)やSFJ12(水深1316 m)では、オリーブ色の極表層被覆堆積物の下位に厚さ数cmの黒色植物片がポケット状にたまっていた.さらにSFJ12(水深1418 m)では、表層1cmに黒色植物片が存在し、それより下位に数条のラミナの発達するシルト層が12 cmほど発達していた.
以上の結果から,富士川河口付近から水深1000 m以深(河口から約7 km)に至る扇頂部から扇央部にかけて礫がみられ,扇央部では塊状の砂質堆積物が分布し,最上位にはシルトからなる細粒堆積物が一面を覆っている様子が確認された.これらの堆積物の特徴から富士川沖の堆積物は混濁流によって形成されたものと推察された.
 さらに、SFJ7(水深1089 m)では20 cm前後の青々した根付き植物が海底表面上に堆積する様子が海底映像に記録されていた.これはガマ(別名ミズクサ)であり、富士川河口付近で自生している報告がある.また海底で変色せずに青々としていたことから、運ばれてから、時間が経過していないことが考えられる.調査5日前(10月1日)には,台風16号が駿河湾南方を通過し、10月1日に水位が約50cm程度増えたことが確認されている(富士川河口松岡観測所HP)ことから,台風により増水した河川の濁流に巻き込まれ,河川沿いの植生が、運ばれたと推察した.
これらの事から、駿河湾奥部では台風などのイベント毎に富士川を起源とした洪水起源混濁流が今まで考えられていたより頻繁に発生し,陸源堆積物,特に植物体を深海に運搬している可能性が示唆される.