日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG49] 地球惑星科学におけるレオロジーと破壊・摩擦の物理

2022年5月25日(水) 15:30 〜 17:00 304 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:東 真太郎(東京工業大学 理学院 地球惑星科学系)、コンビーナ:田阪 美樹(静岡大学 )、清水 以知子(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、コンビーナ:桑野 修(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、座長:田阪 美樹(静岡大学)

16:30 〜 16:45

[SCG49-05] 炭酸塩岩の高歪速度変形実験と衝突現象における降伏強度と昇温の推定

*鎌戸 隆行1東 真太郎1岡崎 啓史2、藤崎 俊平、黒澤 耕介3玄田 英典4 (1.東京工業大学 地球惑星科学系、2.海洋研究開発機構 高知コア研究所、3.千葉工業大学、4.東京工業大学 地球生命研究所)

キーワード:炭酸塩岩、変形実験、高歪速度、隕石衝突、降伏強度、Post-shock heating

隕石衝突は天体にとって普遍的な現象であり、地球史を考察する上でも重要な鍵となる。地球環境に大きな影響を与えた例としては、K/Pg境界を作った隕石衝突が挙げられる。この隕石衝突では衝突のターゲットとなったカルサイトが昇温し、分解することでCO2脱ガスが起こり、環境に影響を与えたのではないかと注目されている(O’Keefe and Ahrens, 1989)。カルサイトへの衝突による昇温とCO2脱ガスは衝突実験と数値計算によって評価されてきたが、近年ではPost-Shock heatingの考慮が重要視されてきている(Kurosawa et al., 2021)。Post-Shock heatingはターゲットの降伏強度に依存し、衝突による昇温やCO2脱ガス量を評価するために不可欠な要素である。Kurosawa et al. (2021)では、iSALEを用いた数値計算において、仮定する降伏強度が増加するとともに、CO2脱ガス量も増加することが指摘されている。さらに衝突実験と数値計算の比較から、実際の衝突条件でのカルサイトの降伏強度は、これまで考慮されてきた降伏強度よりも3-4倍高い可能性が示唆された。そこで本研究は、これまでにない速い歪速度におけるカルサイトの変形実験を実施し、実験結果から決定した流動則を外挿することで衝突条件でのカルサイトの降伏強度、及びPost-Shock heatingによる昇温の見積もりを行った。
カルサイトの変形実験は高知コア研究所設置のGriggs型変形試験機を用いて行われた。試料としてCarrara marbleを用い、実験条件は温度400 ºC、歪速度1.0×10-4–1.0×10-2 s-1、封圧0.75–1.5 GPaとした。この変形実験によって得られた応力–歪曲線から各圧力、歪速度におけるカルサイトの降伏強度を決定した。実験結果からは、降伏強度の圧力依存性と歪速度依存性が観察された。結果から得られた応力指数の変化からは、差応力350 MPaを超えるとカルサイトの変形メカニズムがPower-law creepからPeierls creepに遷移すると考察された。これらの実験結果を基に、カルサイトにおけるPeierls creepの流動則の活性化体積V*を11.8±2.7 cm3/mol、定数Aは107.62、パイエルス応力は3645 MPaと決定した。
衝突条件(>10 GPa, 100–104 s-1)に外挿することで、衝突条件での降伏強度の決定とPost-Shock heatingによる昇温の見積りを行なった。その結果、天然の衝突条件で求められた降伏強度は、これまで数値計算などで用いられてきたカルサイトの降伏強度(Goldin et al., 2006)よりも3-4倍大きい値(1.8–2.7 GPa)を示し、Kurosawa et al. (2021)で予想された降伏強度の値と非常に整合的となった。また、求めた降伏強度から計算されたPost-Shock heatingの昇温については、衝撃圧力が10-20 GPaでも400-800 ℃を超える昇温の可能性があり、Post-shock heatingを含めた昇温を考察する重要性が示唆された。