16:45 〜 17:00
[SCG49-06] 南極氷床ドームふじアイスコアの微細組織の発達及び含有不純物が氷床氷のレオロジーに与える影響について
★招待講演
キーワード:氷床氷のレオロジー、ファブリック
南極やグリーンランド氷床は降り積もった雪が押し固まってできた巨大な多結晶氷であり、内陸から沿岸域に向かって流動をしている。氷床の挙動は海水面上昇と密接に関わっているため、流動メカニズムの理解は将来の気候変動予測のためにも必要不可欠である。また、氷床では深くなるほど氷の年代が古くなるため、氷中に含まれるガスや微粒子を分析することによって過去の環境についての情報を取得することができる。氷床内部の物理特性や古環境の情報を取得するため、南極やグリーンランド各地で深層アイスコアが掘削されてきた。本研究では日本が東南極ドームふじ基地で掘削した3035mのアイスコアを用いて様々な解析を行なった。
氷床氷の様々な物理特性のうち、ファブリック(結晶集合組織)は氷床流動の挙動を決定する最も重要なパラメータの一つである。氷床氷の変形は一般的に転位クリープが支配的と考えられており、特に内陸部のドーム地域では自重による一軸圧縮応力が卓越している。そのため変形量が多くなる深部の氷ほど各結晶粒のc軸が鉛直方向に集中している。深部にかけての発達に加えて、ファブリックが数十から百メートルスケールのゆらぎを持つことが過去のアイスコア研究から明らかになっている。氷床氷の微細結晶組織は環境変動に伴って変化することが知られており、例えば結晶粒径は溶存イオンや固体微粒子が多くなる氷期に堆積した氷で小さくなることが知られている。しかしながら、ファブリックがどのように変動するのか、またそのゆらぎが何に起因するのかは未解明のままであった。
これまでのファブリックの解析は厚さ約0.5 mmの氷薄片と自動ファブリックアナライザーによって行われてきたが、測定間隔や測定結晶粒数の制約から細かいファブリックのゆらぎを見ることは困難であった。より詳細なファブリックの変動を検出するため、我々は新たなファブリック解析の手法として、誘電テンソルの計測システムを開発してきた。六方晶である氷結晶は主軸(c軸)に対して誘電異方性を持っており、多結晶氷であるアイスコアの直交2成分の誘電率を測定することにより、氷床流動において重要な鉛直方向へのc軸集中度を見積もることが可能である(Saruya et al., 2022)。
この計測では、厚さ数十mm程度の氷厚片を連続測定できるため、1計測に含まれる結晶粒数は薄片観察よりも3−4桁ほど多い。また、測定間隔も従来の20m程度から数mまで短縮することが可能である。
本計測によりこれまでの薄片観察では見られなかった環境変動との関連性、特に深部のにおいてc軸集中度が塩化物イオンと固体微粒子に強く影響されていることが明らかになった。塩化物イオンの含有量が少ない、もしくは固体微粒子の含有量が多い深度ではc軸集中度が大きく減少する傾向が見られている。塩化物イオンは水分子と置換し、点欠陥の増加及び変形促進の作用をもつことが知られている。本研究で見られたc軸集中度の低下は、塩化物イオンの含有量が少なく変形が促進されないためと考えられる。また、先行研究から固体微粒子は粒成長を抑制し微細粒を保つ(Zenner pinning effect)一方、転位移動を阻害し変形を抑制する(Orowan hardening)ことが知られている。一般的な材料において、微粒子含有がもたらす微細粒化や転位移動阻害は硬化効果を持つが、氷では微粒子含有によって軟化する傾向が報告されている(Saruya et al., 2019)。固体微粒子を多く含む層におけるc軸集中度の低下の原因は明らかでないが、転位移動の阻害による変形量の減少、もしくは微細粒に起因する拡散クリープの寄与の増加などが考えられる。
また、氷床深部には非常に古い年代の氷が保存されており、国際的に最古級の氷の獲得が求められている。しかしながら、深部の氷は高温下で様々な応力を受けているため変形機構や微細組織の詳細は不明瞭である。そのため最古級の氷の詳細な調査が重要なテーマとなっている。
本発表では、南極氷床氷の微細組織の発達、含有不純物が氷床氷のレオロジーに与える影響、そして深部氷の存在状態について議論する
氷床氷の様々な物理特性のうち、ファブリック(結晶集合組織)は氷床流動の挙動を決定する最も重要なパラメータの一つである。氷床氷の変形は一般的に転位クリープが支配的と考えられており、特に内陸部のドーム地域では自重による一軸圧縮応力が卓越している。そのため変形量が多くなる深部の氷ほど各結晶粒のc軸が鉛直方向に集中している。深部にかけての発達に加えて、ファブリックが数十から百メートルスケールのゆらぎを持つことが過去のアイスコア研究から明らかになっている。氷床氷の微細結晶組織は環境変動に伴って変化することが知られており、例えば結晶粒径は溶存イオンや固体微粒子が多くなる氷期に堆積した氷で小さくなることが知られている。しかしながら、ファブリックがどのように変動するのか、またそのゆらぎが何に起因するのかは未解明のままであった。
これまでのファブリックの解析は厚さ約0.5 mmの氷薄片と自動ファブリックアナライザーによって行われてきたが、測定間隔や測定結晶粒数の制約から細かいファブリックのゆらぎを見ることは困難であった。より詳細なファブリックの変動を検出するため、我々は新たなファブリック解析の手法として、誘電テンソルの計測システムを開発してきた。六方晶である氷結晶は主軸(c軸)に対して誘電異方性を持っており、多結晶氷であるアイスコアの直交2成分の誘電率を測定することにより、氷床流動において重要な鉛直方向へのc軸集中度を見積もることが可能である(Saruya et al., 2022)。
この計測では、厚さ数十mm程度の氷厚片を連続測定できるため、1計測に含まれる結晶粒数は薄片観察よりも3−4桁ほど多い。また、測定間隔も従来の20m程度から数mまで短縮することが可能である。
本計測によりこれまでの薄片観察では見られなかった環境変動との関連性、特に深部のにおいてc軸集中度が塩化物イオンと固体微粒子に強く影響されていることが明らかになった。塩化物イオンの含有量が少ない、もしくは固体微粒子の含有量が多い深度ではc軸集中度が大きく減少する傾向が見られている。塩化物イオンは水分子と置換し、点欠陥の増加及び変形促進の作用をもつことが知られている。本研究で見られたc軸集中度の低下は、塩化物イオンの含有量が少なく変形が促進されないためと考えられる。また、先行研究から固体微粒子は粒成長を抑制し微細粒を保つ(Zenner pinning effect)一方、転位移動を阻害し変形を抑制する(Orowan hardening)ことが知られている。一般的な材料において、微粒子含有がもたらす微細粒化や転位移動阻害は硬化効果を持つが、氷では微粒子含有によって軟化する傾向が報告されている(Saruya et al., 2019)。固体微粒子を多く含む層におけるc軸集中度の低下の原因は明らかでないが、転位移動の阻害による変形量の減少、もしくは微細粒に起因する拡散クリープの寄与の増加などが考えられる。
また、氷床深部には非常に古い年代の氷が保存されており、国際的に最古級の氷の獲得が求められている。しかしながら、深部の氷は高温下で様々な応力を受けているため変形機構や微細組織の詳細は不明瞭である。そのため最古級の氷の詳細な調査が重要なテーマとなっている。
本発表では、南極氷床氷の微細組織の発達、含有不純物が氷床氷のレオロジーに与える影響、そして深部氷の存在状態について議論する