09:15 〜 09:30
[SCG49-08] 黒雲母のキンク強化に関する実験的研究
キーワード:キンク
1.はじめに
材料科学では、ミルフィーユ構造がキンク形成を起こすことで、材料固有の強度を上回る強化を達成できるキンク強化の可能性が指摘されている[1, 2, 3]。先行研究[4]では、長周期積層(LPSO)構造中の限定されたすべり面で剪断が生じ、Rank-1接続の条件を満たす変形が剪断部分に生じることで、キンクが形成されると報告している。また、層状の岩石のキンク形成を模擬したアナログ実験では、キンク形成に伴い歪硬化が起こることが確認された[5]。しかし、実際の岩石で同様のキンク強化が起こるのかは未だ明らかになっていない。また、岩石のキンク形成が長周期積層(LPSO)構造のように限定されたすべり面で剪断が生じることにより発生するのか否かも明らかになっていない。そこで本研究では、地殻の強度に重要な役割を果たす層状鉱物である黒雲母を用いて変形実験を行い、応力ー歪曲線及び変形試料の微細組織観察により、岩石のキンク形成とキンク強化について調べた。
2.実験方法
東北大所有のガス圧式高温高圧三軸圧縮変形実験装置を用いて黒雲母単結晶(カナダのSilver Crater鉱山産)を変形させた。実験は以下の温度(℃)、封圧(MPa)、結晶方位について行った:300℃, 10MPa, [010]、300℃, 100MPa, [010]、600℃, 100MPa, [100]、600℃, 100MPa, 45°to[001]、300℃, 185MPa, [010]の5つの条件で行った。なお、ここではそれぞれの結晶方位に平行に圧縮実験を行った。また、回収試料の微細組織観察は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、300℃,10MPa,[010]、300℃,185MPa,[010]の2試料を観察した。
3.結果と考察
各実験の応力-歪曲線より、降伏直後の歪強化が発生した。封圧が10MPa、100MPa、185MPaと大きくなるにつれて、降伏応力とその後の応力は増加し、温度とともに応力は低下する。
実験後の試料のうち温度300℃、封圧10MPaと温度300℃、封圧185MPaの2試料には、明確なキンクバンドが確認出来た。また先行研究[6]によるキンクバンドの方位と応力場の関係との比較を行うと、実験後の試料では、キンク形成により母相が回転していることが分かった。本実験では黒雲母のb面([010]面)に平行に最大圧縮主応力を加えたため、キンク形成後も母相は元の最大圧縮主応力に平行なはずだが[6]、実際の結果はそうではなかった。これは、LPSO構造がRank-1接続を満たすようにキンクバンドを形成するという機構が黒雲母にも当てはまる可能性を示す。層状構造のうち、わずかな初期勾配を持つ部分で降伏が生じキンク形成を起こしやすい[6]ことから、初期勾配を持つ部分が限定されたすべり面として剪断を起こし、LPSO構造と同様な機構でキンク形成が起こる可能性が示唆された。
今後の研究では、変形前の試料についても微細組織観察を行い、層状構造のうち初期勾配を持つ部分が変形後にどの程度キンク形成に寄与しているかを調べることで、材料科学で知られるようなキンク強化がリソスフェアの強度にどのように影響を及ぼしているか明らかにする必要があるだろう。
参考文献
[1] Hagihara, K., Ueyama, R., Tokunaga, T., Yamasaki, M., Kawamura,Y., Nakano, T. 2021, Materials Research Letters, 9:11, 467-474.
[2] Hagiharaa, K., Yamasakib, M., Kawamurab, Y., Nakano, T. 2019, Materials Science & Engineering A 763, 138163.
[3] Hagihara, K., Ueyama, R., Yamasaki, M., Kawamura, Y., Nakano, T. 2021, Acta Materialia 209,116797
[4] Inamura, T. 2019, Acta Materialia 173, 270-280.
[5] Weiss, L. E. 1968, Geol. Surv. Canada Paper 68-52, 294-357.
[6] Uemura, T., Long , X. 1978, J. Geol. Soc. Jpn, 93, 681-699.
材料科学では、ミルフィーユ構造がキンク形成を起こすことで、材料固有の強度を上回る強化を達成できるキンク強化の可能性が指摘されている[1, 2, 3]。先行研究[4]では、長周期積層(LPSO)構造中の限定されたすべり面で剪断が生じ、Rank-1接続の条件を満たす変形が剪断部分に生じることで、キンクが形成されると報告している。また、層状の岩石のキンク形成を模擬したアナログ実験では、キンク形成に伴い歪硬化が起こることが確認された[5]。しかし、実際の岩石で同様のキンク強化が起こるのかは未だ明らかになっていない。また、岩石のキンク形成が長周期積層(LPSO)構造のように限定されたすべり面で剪断が生じることにより発生するのか否かも明らかになっていない。そこで本研究では、地殻の強度に重要な役割を果たす層状鉱物である黒雲母を用いて変形実験を行い、応力ー歪曲線及び変形試料の微細組織観察により、岩石のキンク形成とキンク強化について調べた。
2.実験方法
東北大所有のガス圧式高温高圧三軸圧縮変形実験装置を用いて黒雲母単結晶(カナダのSilver Crater鉱山産)を変形させた。実験は以下の温度(℃)、封圧(MPa)、結晶方位について行った:300℃, 10MPa, [010]、300℃, 100MPa, [010]、600℃, 100MPa, [100]、600℃, 100MPa, 45°to[001]、300℃, 185MPa, [010]の5つの条件で行った。なお、ここではそれぞれの結晶方位に平行に圧縮実験を行った。また、回収試料の微細組織観察は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、300℃,10MPa,[010]、300℃,185MPa,[010]の2試料を観察した。
3.結果と考察
各実験の応力-歪曲線より、降伏直後の歪強化が発生した。封圧が10MPa、100MPa、185MPaと大きくなるにつれて、降伏応力とその後の応力は増加し、温度とともに応力は低下する。
実験後の試料のうち温度300℃、封圧10MPaと温度300℃、封圧185MPaの2試料には、明確なキンクバンドが確認出来た。また先行研究[6]によるキンクバンドの方位と応力場の関係との比較を行うと、実験後の試料では、キンク形成により母相が回転していることが分かった。本実験では黒雲母のb面([010]面)に平行に最大圧縮主応力を加えたため、キンク形成後も母相は元の最大圧縮主応力に平行なはずだが[6]、実際の結果はそうではなかった。これは、LPSO構造がRank-1接続を満たすようにキンクバンドを形成するという機構が黒雲母にも当てはまる可能性を示す。層状構造のうち、わずかな初期勾配を持つ部分で降伏が生じキンク形成を起こしやすい[6]ことから、初期勾配を持つ部分が限定されたすべり面として剪断を起こし、LPSO構造と同様な機構でキンク形成が起こる可能性が示唆された。
今後の研究では、変形前の試料についても微細組織観察を行い、層状構造のうち初期勾配を持つ部分が変形後にどの程度キンク形成に寄与しているかを調べることで、材料科学で知られるようなキンク強化がリソスフェアの強度にどのように影響を及ぼしているか明らかにする必要があるだろう。
参考文献
[1] Hagihara, K., Ueyama, R., Tokunaga, T., Yamasaki, M., Kawamura,Y., Nakano, T. 2021, Materials Research Letters, 9:11, 467-474.
[2] Hagiharaa, K., Yamasakib, M., Kawamurab, Y., Nakano, T. 2019, Materials Science & Engineering A 763, 138163.
[3] Hagihara, K., Ueyama, R., Yamasaki, M., Kawamura, Y., Nakano, T. 2021, Acta Materialia 209,116797
[4] Inamura, T. 2019, Acta Materialia 173, 270-280.
[5] Weiss, L. E. 1968, Geol. Surv. Canada Paper 68-52, 294-357.
[6] Uemura, T., Long , X. 1978, J. Geol. Soc. Jpn, 93, 681-699.