日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG49] 地球惑星科学におけるレオロジーと破壊・摩擦の物理

2022年5月26日(木) 10:45 〜 12:15 304 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:東 真太郎(東京工業大学 理学院 地球惑星科学系)、コンビーナ:田阪 美樹(静岡大学 )、清水 以知子(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、コンビーナ:桑野 修(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、座長:東 真太郎(東京工業大学 理学院 地球惑星科学系)

11:00 〜 11:15

[SCG49-14] 結晶選択配向による熱伝導率の異方性が沈み込み帯温度構造に及ぼす影響

*森重 学1田阪 美樹2 (1.東京大学地震研究所、2.静岡大学)

キーワード:熱伝導率、結晶選択配向、異方性、沈み込み帯、温度構造

地球内部の岩石が転位クリープによって変形するとその構成鉱物の結晶軸がある特定の方向に揃うことが知られており、これは結晶選択配向と呼ばれる。この結晶選択配向によって岩石の物性は異方性を持つ。その中で最も良く知られているものが弾性定数の異方性であり、これは地震波速度の異方性として沈み込み帯やリソスフェア、アセノスフェアなど様々な場所で検出されてきた。しかしその一方で、岩石物性の異方性が地球内部のダイナミクスにどのような影響を及ぼすかに関してはほとんど調べられていない。そこで本発表では、かんらん石の結晶選択配向による熱伝導率の異方性が沈み込み帯温度構造に与える影響について報告する。研究対象地域として東北地方を選び、簡単のためマントルウェッジの島弧と背弧の下でのみ異方性を考慮した。
2次元定常モデルを仮定し、マントルウェッジの変形メカニズムとして拡散クリープ(ただし粒径は一定)と転位クリープを考慮した。かんらん石単結晶の熱伝導率はそれぞれの軸で4.0 (a軸)、2.0 (b軸)、3.3 (c軸) W/m/Kと一定の値を用いた。またかんらん石の結晶選択配向として、従来支配的であると考えられてきた[100](010)すべり系(Aタイプ)に加え、近年その重要性が指摘されている[001](100)すべり系(Cタイプ)、[100](001)すべり系(Eタイプ)も考慮した。結晶選択配向の計算はD-Rexというプログラムを用いて行った。
計算の結果、熱伝導率の異方性が最も大きくなる場所は上盤プレート底部とスラブ直上の2箇所であった。これらはスラブの沈み込みに伴う歪みが大きくなる場所に対応しており、そこでは転位クリープによる変形が支配的である。またその領域では熱伝導率が等方的である場合に比べ、最大100℃程度の温度変化が見られた。これらの温度変化は上盤プレート底部に対しては鉛直方向の、スラブ直上に対してはスラブ表面に対して垂直な方向の熱伝導率によって主に支配される。例えば、Aタイプを仮定した場合のスラブ直上ではスラブ表面に対して垂直な方向にb軸が集中することでその方向の熱伝導率が小さくなり、スラブとマントルウェッジ間の熱伝導の効率が悪くなる。その結果熱伝導率が等方的な場合に比べて、マントルウェッジの温度が上昇、スラブの温度が低下する。さらにCタイプを仮定した場合にはAタイプの時とは逆方向の温度変化が見られ、またEタイプを仮定した場合に得られた温度は等方的な熱伝導率の場合とほぼ同じであった。今後は沈み込むスラブ内部の異方性まで含めて考えることで、得られる温度構造がさらに変わる可能性がある。