日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG50] 島弧の構造・進化・変形とプレート沈み込み作用

2022年5月26日(木) 13:45 〜 15:15 102 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:石川 正弘(横浜国立大学大学院環境情報研究院)、コンビーナ:篠原 雅尚(東京大学地震研究所)、松原 誠(防災科学技術研究所)、コンビーナ:石山 達也(東京大学地震研究所)、座長:石川 正弘(横浜国立大学大学院環境情報研究院)、石山 達也(東京大学地震研究所)

13:45 〜 14:00

[SCG50-01] 九州黒瀬川構造帯の変成・深成岩類から見た地殻進化

★招待講演

*小山内 康人1、北野 一平2、Dolzodmaa Boldbaatar3、Sinh Vuong4、足立 達朗1、大和田 正明5 (1.九州大学大学院比較社会文化研究院地球変動講座、2.栃木県立博物館、3.九州大学大学院地球社会統合科学府、4.ベトナム科学アカデミー、5.山口大学)

キーワード:黒瀬川構造帯、高圧変成岩、高温変成岩、オルドビス紀花崗岩、ペルム紀衝突帯変成作用、アジア大陸形成テクトニクス

九州中央部を東西に横断する臼杵-八代構造線の南方に狭長な地質体として分布する黒瀬川構造帯には,蛇紋岩メランジュの広範な分布が知られており,変形した蛇紋岩に囲まれるブロック状〜レンズ状岩体として多様な変成岩類および深成岩類が混在する(例えば,松本・勘米良,1964;唐木田,1977;斎藤ほか,2005など).変成岩類では,緑色片岩相〜緑簾石-藍閃石片岩相ないしローソン石-藍閃石片岩相の高圧型変成岩類と,角閃岩相〜高圧グラニュライト相の高温型変成岩類が分布し(西山,2010など),深成岩類では一部マイロナイト化した岩相を含め花崗岩類が主要な岩相である.
高圧型変成岩類の岩相は,フェンジャイト-藍閃石片岩,ローソン石青色片岩,アルバイト-オンファス輝石岩,含ヒスイ輝石-藍閃石変ハンレイ岩などであり,高温型変成岩類では,ホルンブレンド片麻岩,ザクロ石-黒雲母片麻岩や,ハンレイ岩起源のザクロ石角閃岩,単斜輝石角閃岩,ザクロ石-単斜輝石グラニュライトがみとめられる(斎藤ほか,2005;Miyazoe et al., 2009;唐木田,1977;小山内ほか,2000など).ザクロ石-単斜輝石グラニュライトの一部では,ザクロ石-単斜輝石-斜長石から構成される優白質ポッドがみとめられ,ザクロ石の周囲には斜方輝石-斜長石シンプレクタイト起源と考えられるコロナ組織が発達し,ピーク変成作用の温度・圧力条件は900〜1050℃,10〜12kbarが見積もられる.
岩石化学的・同位体年代学的解析から,高圧型変ハンレイ岩の原岩は,約500Maに活動した海嶺玄武岩形成場の火成活動起源であり,高温型の変成作用を受けた変ハンレイ岩の原岩は,約450Maの活動的大陸縁における火山弧火成活動に由来することが明らかにされている(小山内ほか,2014a,2014b).また,蛇紋岩メランジュ中に変成岩類と混在する花崗岩類は,高温型変成岩類の原岩形成年代と同時期の約450Maをしめす(吉本ほか,2013;小山内ほか,2014a, 2014b).変成作用年代としては,高圧変成岩からK-Ar年代あるいはRb-Srアイソクロン年代として300-270Maが得られている(吉本ほか,2011;上村ほか,2012など).一方,高温型変成作用の年代としては,ザクロ石-単斜輝石グラニュライトの優白質ポッド中に産し,優白質ポッド形成時の部分溶融にともなうメルトから晶出したと見なしうる自形ジルコンから約250MaのLA-ICP-MS U-Pb年代が得られた.この優白質ポッド中の単斜輝石やザクロ石の不定形包有ジルコンは約450Maの年代をしめす.したがって,オルドビス紀の火山弧火成活動場では,地殻深部でハンレイ岩が形成され,地殻浅部では同時期に花崗岩類が形成された.その後,地殻浅部の花崗岩類ではマイロナイト化をともないながら低変成度の変成作用が進行したが,地殻深部のハンレイ岩類では角閃岩相〜グラニュライト相の変成作用が進行し,ペルム紀末(約250Ma)には最高変成条件下で部分溶融が進行したことが明らかになった.
西南日本における黒瀬川構造帯は,その形成過程について,以下のような様々な仮説が提唱されてきたが,未だ明瞭な形成テクトニクスが示されたとは言えない.1)ジュラ紀付加体中の巨大な異地性ブロックとみなす微小大陸起源説(市川,1987;Yoshikura, 1990;Ehiro & Kanisawa,1999;Kato & Saka, 2006など),2)アジア大陸東縁部における巨大横ずれ深部断層説(Tazawa, 2000;Kato & Saka, 2006など),3)西南日本内帯由来のクリッペ説および構造浸食+クリッペ説(磯﨑・丸山,1991;Maruyama et al., 1997;磯﨑ほか,2010など).上述したように,高圧型変成岩類についてのカンブリア紀の海洋底火成活動とペルム紀初期の変成作用,高温型変成岩類についてのオルドビス紀の火山弧火成活動およびペルム紀末の衝突型変成作用と部分溶融など,極めて多様で複雑な黒瀬川帯の岩石形成プロセスと蛇紋岩メランジュ形成テクトニクスを考える必要がある.このような過程は,日本海拡大前のアジア大陸形成過程と密接な関連があることは自明であり,南・北中国地塊の形成過程,ならびに両地塊の大陸衝突過程で起こった変成過程等を再検討する必要がある.