日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG50] 島弧の構造・進化・変形とプレート沈み込み作用

2022年5月26日(木) 13:45 〜 15:15 102 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:石川 正弘(横浜国立大学大学院環境情報研究院)、コンビーナ:篠原 雅尚(東京大学地震研究所)、松原 誠(防災科学技術研究所)、コンビーナ:石山 達也(東京大学地震研究所)、座長:石川 正弘(横浜国立大学大学院環境情報研究院)、石山 達也(東京大学地震研究所)

15:00 〜 15:15

[SCG50-06] 東北地方の熱構造について

*松本 拓己1 (1.国立研究開発法人防災科学技術研究所)

キーワード:地殻熱流量、熱構造、高感度地震観測網

地殻熱流量の測定と、これに基づき地下温度構造を推定することは,地殻内地震発生層の下限と考えられる地殻の脆性/延性転移の深さの決定 Sibson(1984),海溝型地震とスロー地震の理解、yoshiokaら(2013)等、多くの重要な用途がある。日本列島周辺域の地殻熱流量データは、Uyeda and Horai (1964)らにより大局的な分布が示され、その後陸域・海域共に多くの測定が行われている(例えばYamano 1995)。しかしながら,陸域に関しては主に地熱地帯において掘削された多数の井戸で測定されている一方、非地熱地帯の一部ではデータが少ない状態にある。この空間分布の不均質性を補うために、日本列島の陸域におおむね20㎞メッシュで面的に均質に整備された高感度地震観測網(Hi-net)の孔井(深さ100~200m)のうち、東北地方132か所の温度プロファイルについて、気候変動の影響を加味するなどしてデータを処理した結果から新たに127か所の熱流量分布を求め、地下温度構造を推定した。
 気候変動の補正については、過疎地と都市部の違いを考慮した。過去100年間の日本の気候変動について、藤部(2012)は、バックグラウンド(非都市部)と都市部の温暖化傾向を定量的に評価し、バックグラウンド(非都市部)の日平均気温の全国平均の温暖化傾向は0.88℃/100yrであり、周辺の人口密度が高い観測点ほどその傾向が強いことを明らかにしている。このモデルをもとに,内閣府が運営する地域経済分析システム(https://resas.go.jp/)で2005年時点の人口密度のデータを用いて,孔井周辺の人口密度に応じた過去100年間の気温上昇を推定した。
 また、熱構造の推定にあたり、東北地方には津軽平野等の堆積層の厚い平野部や火砕堆積物に厚く覆われた地域があるため、地下温度構造の推定には正確な表層の地盤構造の情報が欠かせない。これについては浅部・深部統合地盤モデル (SDLCM)(NIED,2019)を用いることにより各観測点における基盤岩深度を求め、温度構造の推定精度を高めることとした。
得られた熱構造は、前弧側では地殻熱流量が低く、火山地帯では地殻熱流量が高いという傾向にあり、前弧側では熱流量が特に低い地域もある。高熱流領域は奥羽山脈の中心軸に沿って広がっており、この軸に沿って分布する火山の周辺には局所的な高熱流異常が存在する。これらの地域では、650℃に達する深さが5km以下の場所が多く存在する。一方、50mW/m2程度の低熱流領域が存在する前弧側の沿岸域では、深さ30kmで300℃〜400℃程度の低温構造が推定される。温度構造とD90の空間分布には良い相関関係があるようで、深さ400℃の等温線は300℃の等温線よりも相関性が高いようにみえる。また、堆積層の厚さが5kmにも及ぶ新潟平野付近は、背弧側にある低熱流領域であり、深さ10~13kmで400℃程度の温度構造となっている。2004年新潟県中越地震の震源域である日本海南部の平野部で比較的良好な相関が見られることからも、詳細な地殻構造を導入した効果が表れているといえそうである。