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[SCG50-P02] 断裂したフィリピン海プレートの沈み込みと近畿三角地帯のネオテクトニクス
キーワード:近畿三角地帯、フィリピン海プレート、南海トラフ、ネオテクトニクス、スラブの断裂
1. はじめに
近畿三角地帯では、鮮新世後期以降堆積盆が移動し、断層活動の場と様式が変化してきた。その原因について、PHSスラブの沈み込み様式に基づく説明を試みる。
2. 断裂したPHSスラブの押し込みを伴う沈み込み
震源分布からみてPHSスラブは、伊勢湾東(山岡・西原,1997)と、紀伊水道東(Ide et al , 2010)で不連続的に深度が変わっており、ここでスラブが3つの断片(東海スラブ・東南海スラブ・南海スラブ)に断裂してそれぞれ異なるベクトルで沈み込んでいる。Miyazaki and Heki (2001)の陸上GNSS観測解析と、海底GNSS観測(Ishikawa and Yokota, 2018)は共に、東南海スラブと南海スラブの沈み込み方位が約10度異なることを示し、舞鶴-新宮間の大深度探査(伊藤ほか, 2006)は東南海スラブ西端が南海スラブの下に押し込まれつつあることを示唆した。また、山岡・西原(1997)などは、震源分布から東南海スラブ東端は東海スラブの下に位置することを示した。PHSスラブの断裂と東南海スラブが両側のスラブ断片により押し下げられつつ沈み込むようになったのは、PHSプレートの沈み込み方向の転換にともなって鮮新世に生じたものであり、これが近畿三角地帯の鮮新世以降のテクトニクスを規定していると考えられる。
3. 近畿三角地帯における堆積盆の移動と上部地殻応力場の変遷
近畿三角地帯の堆積盆地(古琵琶湖-現琵琶湖、紀の川河谷-奈良-京都)は、共に鮮新世後期以降70km/350万年(=2cm/年)の速度で断続的に北上している(Yokoyama, 1969;水野,2010など)。この速度は、PHSプレートの移動速度の南北成分に近い。また、近畿三角地帯の紀の川河谷では約1MaにMTLが東西走向逆断層から同右横ずれ断層へと変化し(寒川、1999)一方、近畿三角地帯南東外延の知多半島では鮮新世~中期更新世の間に褶曲軸がNW-SEからNNW-SSEへ変化(Makinouchi, 1979)、北西外延の丹後半島では中期更新世に南北走向逆断層が停止しNNW-SSE、ENE-WSW性横ずれ断層が活動を始めた(小松原・本郷、2020)。以上は、東南海スラブ上では堆積盆の北上と同時に上部地殻で半時計回りの応力軸の転換が、その外延部では時計回りの応力軸の転換が生じたことを物語る。また、第四紀後期には堆積盆の著しい沈降と盆地縁辺断層の活発な活動は、顕著な低重力異常地域で生じている。
4. アムールプレートの上部地殻のテクトニクス転換と東南海スラブの挙動
PHSスラブの上には、東進するAMプレートが乗り上げている。AMプレートの粘性率に時間的変化がない場合、PHSスラブの深度が浅いほど、AMプレートの上部地殻にはPHSスラブ沈み込み方向に近いNW成分をもつ応力が加わるようになると考えられる。このため、東南海スラブが両側のスラブによる押し下げによって深度を増すに伴ってその上のAMプレートも沈み、かつ低重力異常を生じ、応力軸が反時計回りに転換し、周囲では逆に東海・南海スラブ断片が押し上げられてAMプレート上部地殻の応力軸が反時計回りに転換すると考えられる。このことが、鮮新世以降に東南海スラブ上の近畿三角地帯で顕著な低重力異常とで堆積盆の北上と断層活動様式の変化が生じた原因とみなせないだろうか?
文献
Ide et al. (2010) Geophys. Res. Letters, 37, L21304.
Ishikawa and Yokota (2018) Jour. Disaster Res., 13, 511-517.
伊藤ほか(2006)地震研彙報、81、239-245。
小松原・本郷(2020)日本第四紀学会講演要旨集、50,18-18。
Makinouchi (1979) Mem. Fac. Sci. Kyoto Univ. Series Geol. and Miner.,46, 61-106.
Miyazaki and Heki (2001) Jour. Geophys. Res., 106, B3, 4305-4326.
水野(2010)第四紀研究、49,323-329.
寒川(1999)月刊地球、21,643-648。
山岡・西原(1997)火山特集号、42,S131-138.
Yokoyama,T. (1969) Mem. Fac. Sci. Kyoto Univ. Series Geol. and Miner., 36, 19-85.
近畿三角地帯では、鮮新世後期以降堆積盆が移動し、断層活動の場と様式が変化してきた。その原因について、PHSスラブの沈み込み様式に基づく説明を試みる。
2. 断裂したPHSスラブの押し込みを伴う沈み込み
震源分布からみてPHSスラブは、伊勢湾東(山岡・西原,1997)と、紀伊水道東(Ide et al , 2010)で不連続的に深度が変わっており、ここでスラブが3つの断片(東海スラブ・東南海スラブ・南海スラブ)に断裂してそれぞれ異なるベクトルで沈み込んでいる。Miyazaki and Heki (2001)の陸上GNSS観測解析と、海底GNSS観測(Ishikawa and Yokota, 2018)は共に、東南海スラブと南海スラブの沈み込み方位が約10度異なることを示し、舞鶴-新宮間の大深度探査(伊藤ほか, 2006)は東南海スラブ西端が南海スラブの下に押し込まれつつあることを示唆した。また、山岡・西原(1997)などは、震源分布から東南海スラブ東端は東海スラブの下に位置することを示した。PHSスラブの断裂と東南海スラブが両側のスラブ断片により押し下げられつつ沈み込むようになったのは、PHSプレートの沈み込み方向の転換にともなって鮮新世に生じたものであり、これが近畿三角地帯の鮮新世以降のテクトニクスを規定していると考えられる。
3. 近畿三角地帯における堆積盆の移動と上部地殻応力場の変遷
近畿三角地帯の堆積盆地(古琵琶湖-現琵琶湖、紀の川河谷-奈良-京都)は、共に鮮新世後期以降70km/350万年(=2cm/年)の速度で断続的に北上している(Yokoyama, 1969;水野,2010など)。この速度は、PHSプレートの移動速度の南北成分に近い。また、近畿三角地帯の紀の川河谷では約1MaにMTLが東西走向逆断層から同右横ずれ断層へと変化し(寒川、1999)一方、近畿三角地帯南東外延の知多半島では鮮新世~中期更新世の間に褶曲軸がNW-SEからNNW-SSEへ変化(Makinouchi, 1979)、北西外延の丹後半島では中期更新世に南北走向逆断層が停止しNNW-SSE、ENE-WSW性横ずれ断層が活動を始めた(小松原・本郷、2020)。以上は、東南海スラブ上では堆積盆の北上と同時に上部地殻で半時計回りの応力軸の転換が、その外延部では時計回りの応力軸の転換が生じたことを物語る。また、第四紀後期には堆積盆の著しい沈降と盆地縁辺断層の活発な活動は、顕著な低重力異常地域で生じている。
4. アムールプレートの上部地殻のテクトニクス転換と東南海スラブの挙動
PHSスラブの上には、東進するAMプレートが乗り上げている。AMプレートの粘性率に時間的変化がない場合、PHSスラブの深度が浅いほど、AMプレートの上部地殻にはPHSスラブ沈み込み方向に近いNW成分をもつ応力が加わるようになると考えられる。このため、東南海スラブが両側のスラブによる押し下げによって深度を増すに伴ってその上のAMプレートも沈み、かつ低重力異常を生じ、応力軸が反時計回りに転換し、周囲では逆に東海・南海スラブ断片が押し上げられてAMプレート上部地殻の応力軸が反時計回りに転換すると考えられる。このことが、鮮新世以降に東南海スラブ上の近畿三角地帯で顕著な低重力異常とで堆積盆の北上と断層活動様式の変化が生じた原因とみなせないだろうか?
文献
Ide et al. (2010) Geophys. Res. Letters, 37, L21304.
Ishikawa and Yokota (2018) Jour. Disaster Res., 13, 511-517.
伊藤ほか(2006)地震研彙報、81、239-245。
小松原・本郷(2020)日本第四紀学会講演要旨集、50,18-18。
Makinouchi (1979) Mem. Fac. Sci. Kyoto Univ. Series Geol. and Miner.,46, 61-106.
Miyazaki and Heki (2001) Jour. Geophys. Res., 106, B3, 4305-4326.
水野(2010)第四紀研究、49,323-329.
寒川(1999)月刊地球、21,643-648。
山岡・西原(1997)火山特集号、42,S131-138.
Yokoyama,T. (1969) Mem. Fac. Sci. Kyoto Univ. Series Geol. and Miner., 36, 19-85.