10:15 〜 10:30
[SCG51-06] ニューラルネットワークを用いた力学的プレート境界の客観的推定
キーワード:ニューラルネットワーク、プレート境界、震源メカニズム
プレート沈み込みのダイナミクスは重要な地球科学的課題であるが(Becker and Faccenna, 2009)、その中でプレート境界面を特定することは根本的に重要である。しかしながら、実際のプレート境界では削剥や底付けが起こると考えられており、物質学的なプレート境界と力学的なプレート境界は異なる可能性がある(Shreve and Cloos, 1986)。従来のプレート境界推定方法は、物質学的なプレート境界を推定するものがほとんどである(Zhao et al., 1997)。地震の分布をもとに力学的なプレート境界を推定する研究もあるが(Nakajima and Hasegawa, 2006)、対象となる地震の抽出や様々な仮定においては完全に客観的なものだとは言い難い。そこで、より客観的に力学的なプレート境界を推定する手法の開発が必要である。
そこで本研究では、震源メカニズムのデータをもとに、近年地球科学での発展が目覚ましい機械学習(Asim et al., 2017; Mousavi et al., 2019)の中でもニューラルネットワークの手法を活用し、力学的なプレート境界の客観的な推定方法を提案する。具体的には、位置情報から震源メカニズムを推定するニューラルネットワークを作成した。震源メカニズムについては、P軸・N軸・T軸それぞれのプランジ角の正弦の二乗値を用いた。これは、Frohlich(1992)の三角ダイヤグラム上での位置に対応する。震源データは、1997年10月から2018年12月までの気象庁の初動発震機構解を用いた。データのうち無作為に抽出した80%を学習データとし、残りの20%は検証データとした。損失関数には平均二乗誤差を用い、最適化手法にはAdamを採用した。ネットワーク構造は、Optunaによって最適化し、4つの隠れ層がそれぞれ428のノードを持つものを選択した。
ニューラルネットワークによるモデリングの利点は、地震のデータを適切に内挿する形で、任意の点において、震源タイプやその背景にある応力状態を推定できることである。そこで、はじめに、このニューラルネットワークを用いて地表付近のメカニズムを推定し、地表断層調査(地震調査研究推進本部)による断層タイプと整合的であることを確かめた。ただし、異なる断層タイプが混在している場所では、予測性能が低く、これは最終的なモデル残差の一因であると考えられる。
つぎに、東北から北海道地域の太平洋プレートの沈み込み断面について、震源タイプを推定した。先行研究によるプレート境界から30km以深までのうち、逆断層成分が最も卓越する深度を力学的プレート境界として推定した。その結果、深さ50km付近でのプレート境界は、力学的プレート境界は先行研究よりも5〜10kmほど深い位置に求まった。先行研究によるプレート境界が物質学的なプレート境界だと仮定すると、本研究の結果は太平洋プレート上面での底付け作用を示唆する。ただし、元のデータに潜む震源決定精度についてはさらなる検証が必要である。
また、この深度での力学的プレート境界には、kmスケールでの凹凸が見られた。付近の地震のメカニズムの傾斜角(20〜40°程度)がプレートの平均的な傾き(10°程度)よりも急であることから、横ずれ断層で議論されることの多い雁行構造(Sibson, 1986)が断面方向にも存在することが示唆される。こうした粗いプレート境界は、先行研究とも整合的である(Zhan et al., 2012; Boneh, 2019)。さらに、深さ100〜200kmでのプレート境界は、数10kmスケールで階段状になるが、この領域では地震数も限られ、入力層の一つを深さとしていることに起因して、誤った傾向の学習をしている可能性も否定できない。
本研究ように、震源メカニズム情報に対してニューラルネットワークを適用することにより、力学的プレート境界の客観的な推定が可能である。また、応力インバージョンとしての応用も可能であり、沈み込みダイナミクスの理解への貢献も期待される。
そこで本研究では、震源メカニズムのデータをもとに、近年地球科学での発展が目覚ましい機械学習(Asim et al., 2017; Mousavi et al., 2019)の中でもニューラルネットワークの手法を活用し、力学的なプレート境界の客観的な推定方法を提案する。具体的には、位置情報から震源メカニズムを推定するニューラルネットワークを作成した。震源メカニズムについては、P軸・N軸・T軸それぞれのプランジ角の正弦の二乗値を用いた。これは、Frohlich(1992)の三角ダイヤグラム上での位置に対応する。震源データは、1997年10月から2018年12月までの気象庁の初動発震機構解を用いた。データのうち無作為に抽出した80%を学習データとし、残りの20%は検証データとした。損失関数には平均二乗誤差を用い、最適化手法にはAdamを採用した。ネットワーク構造は、Optunaによって最適化し、4つの隠れ層がそれぞれ428のノードを持つものを選択した。
ニューラルネットワークによるモデリングの利点は、地震のデータを適切に内挿する形で、任意の点において、震源タイプやその背景にある応力状態を推定できることである。そこで、はじめに、このニューラルネットワークを用いて地表付近のメカニズムを推定し、地表断層調査(地震調査研究推進本部)による断層タイプと整合的であることを確かめた。ただし、異なる断層タイプが混在している場所では、予測性能が低く、これは最終的なモデル残差の一因であると考えられる。
つぎに、東北から北海道地域の太平洋プレートの沈み込み断面について、震源タイプを推定した。先行研究によるプレート境界から30km以深までのうち、逆断層成分が最も卓越する深度を力学的プレート境界として推定した。その結果、深さ50km付近でのプレート境界は、力学的プレート境界は先行研究よりも5〜10kmほど深い位置に求まった。先行研究によるプレート境界が物質学的なプレート境界だと仮定すると、本研究の結果は太平洋プレート上面での底付け作用を示唆する。ただし、元のデータに潜む震源決定精度についてはさらなる検証が必要である。
また、この深度での力学的プレート境界には、kmスケールでの凹凸が見られた。付近の地震のメカニズムの傾斜角(20〜40°程度)がプレートの平均的な傾き(10°程度)よりも急であることから、横ずれ断層で議論されることの多い雁行構造(Sibson, 1986)が断面方向にも存在することが示唆される。こうした粗いプレート境界は、先行研究とも整合的である(Zhan et al., 2012; Boneh, 2019)。さらに、深さ100〜200kmでのプレート境界は、数10kmスケールで階段状になるが、この領域では地震数も限られ、入力層の一つを深さとしていることに起因して、誤った傾向の学習をしている可能性も否定できない。
本研究ように、震源メカニズム情報に対してニューラルネットワークを適用することにより、力学的プレート境界の客観的な推定が可能である。また、応力インバージョンとしての応用も可能であり、沈み込みダイナミクスの理解への貢献も期待される。