日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG51] 機械学習による固体地球科学の牽引

2022年5月30日(月) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (27) (Ch.27)

コンビーナ:久保 久彦(国立研究開発法人防災科学技術研究所)、コンビーナ:小寺 祐貴(気象庁気象研究所)、直井 誠(京都大学)、コンビーナ:矢野 恵佑(統計数理研究所)、座長:久保 久彦(国立研究開発法人防災科学技術研究所)、小寺 祐貴(気象庁気象研究所)、矢野 恵佑(統計数理研究所)

11:00 〜 13:00

[SCG51-P03] 走時の確率トレースを利用した深層学習による震源決定

*直井 誠1 (1.京都大学)

キーワード:深層学習、走時検測、震源決定

連続波形データから地震イベントのカタログを作成するには,イベント検出,走時検測,Event Association,震源決定という複数のプロセスを踏むことが多い.古典的には長時間平均-短時間平均比を用いるイベント検出・走時検測方法(Allen 1978),AR-AICモデルを用いる走時検測手法(Takanami and Kitagawa, 1998),グリッドサーチによるEvent Association手法(Zhang et al. 2019)等を行った後,得られる検測結果から最小二乗法等により震源を推定するという手順でカタログを構築する.近年は,それぞれのプロセスにおいて深層学習を始めとした機械学習手法が適用され,成果を挙げている(Zhu and Beroza, 2019; Mousavi et al. 2020).

一方,深層学習は有効な特徴量を大量の学習データから自動で発見する仕組みであり,学習データが十分に用意できるならば,多くのプロセスに分割するよりも,End-to-endでの処理を行うほうが良い結果が得られると考えられる.地震カタログ作成の例では,連続波形データから直接震源を推定するネットワークを作成することに対応し,実際,1観測点のデータのみからでも,波形の特徴を手がかりにある程度震源を決められることが報告されている(Perol et al. 2018).その一方,観測波形を用いて波形から直接震源決定を行う場合には,過去に地震が起こっていない場所の地震は震源を推定できなくなるという問題が生じる.理論波形を用いることでこの問題を解決する手法も提案されているが(坪井・杉山2019),モデリングの難しい高周波成分を効果的に使うことが困難で,自動化による恩恵が大きい大量の小さな地震を処理する能力の向上が難しいと考えられる.

そこで本研究では,できるだけ少ないステップで深層学習を用いて連続波形から地震カタログを作成するため,1)観測波形から走時の確率トレースを計算する,2)多数の観測点の走時確率トレースから震源座標と発震時刻を推定する,という2つのプロセスを深層学習ネットワークで処理する仕組みを考案した.解析は,Naoi et al. (2020),Tanaka et al. (2021)が実施した室内水圧破砕実験と同じく,65 x 65 x130 mmの直方体計上の供試体内で発生したAEイベントを想定し,1)のネットワークの学習には同実験で得られた波形データを2)の学習には多数の仮想震源から数値的に作成した確率トレースを用いた.

走時検測においてはZhu and Beroza (2019)が実体波の走時検測に用いたものと類似したUnet型(Ronneberger et al. 2015)のアーキテクチャを採用した.10 MHz samplingで収録されたP波走時前後1024サンプルの波形をネットワークへの入力とし,波形の各ポイントに対して,そのサンプルがP波走時である確率値を模したパルスを出力するよう,同ネットワークを訓練した.訓練には,先行研究において自動処理で得られた震源のうち,よく震源が求まったものに対応する波形を教師データとして用いた

次に,16個のAEセンサに対する走時確率トレースを入力として,震源座標3成分,発震時刻1成分の合計4成分を出力する深層学習ネットワークを構築した.訓練に用いる走時確率トレースは,乱数を使って供試体内に設定した仮想震源から生成した.理論走時のタイミングに片幅10サンプルの三角形パルスを設定して得られる理論確率トレースに,乱数を用いてダミーパルスを追加,あるいは削除の処理を行ったものを生成した.震源20万個に対応する訓練データ,震源2万個分の検証データ,1万個分のテストデータを生成して,ネットワークの訓練と性能評価を行った.こうして訓練したネットワークを用い,0.5μsの標準偏差をもつ正規分布で理論走時に誤差を与え,上記と同じ手順で擾乱を与えた確率トレースに対して震源決定をおこなったところ,数mmの精度で震源が求められることがわかった.