日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG51] 機械学習による固体地球科学の牽引

2022年5月30日(月) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (27) (Ch.27)

コンビーナ:久保 久彦(国立研究開発法人防災科学技術研究所)、コンビーナ:小寺 祐貴(気象庁気象研究所)、直井 誠(京都大学)、コンビーナ:矢野 恵佑(統計数理研究所)、座長:久保 久彦(国立研究開発法人防災科学技術研究所)、小寺 祐貴(気象庁気象研究所)、矢野 恵佑(統計数理研究所)

11:00 〜 13:00

[SCG51-P04] 海底水圧計データのべき乗則の回帰と多層パーセプトロンによる津波浸水予測

*上谷 政人1馬場 俊孝2 (1.徳島大学大学院創成科学研究科、2.徳島大学大学院産業理工学研究部)


キーワード:クラスタリング解析、ニューラルネットワーク、津波

日本では沖合を伝播する津波は海底水圧計やGPS波浪計で海岸に到達する前に観測可能である。エネルギー保存則より得られるグリーンの法則を用いれば、沖合津波高から沿岸津波高を簡単に推定できる。さらに発展した手法として、多数の津波シミュレーション結果に基づいて回帰するモデル(以降、回帰モデル)が知られている。回帰モデルはシンプルであるが実用的で、処理速度の割に高精度な予測が可能である。しかし、回帰モデルは海岸の任意の1点のみの高さを予測するだけで、最大浸水深分布のような面的な分布を求めるに至っていない。津波災害発災後の応急対応などを考えた場合、沿岸津波高だけでなく、浸水深分布も予測できることが望ましい。既存の回帰モデルで浸水深分布を求めるには、単純には空間上のすべての点について予測を実施すればよいわけだが、予測点が膨大となるため処理時間が長くなるという問題がある。解決策として、津波による浸水深が常に類似しているエリアを予めグループ化して予測点を減らす手法を提案する。本研究では浸水深の分布を高速に予測する手法の開発を目的とする。さらに、近年発展が目覚ましい機械学習を利用すればより予測精度が向上する可能性がある。そこで、回帰モデルに加えて多層パーセプトロン(MLP)による津波浸水予測も検討した。
 
解析対象地域は徳島県阿南市付近とした。クラスタリング解析を行う浸水深データとして、藤原ほか(2020)で提案された3480ケース波源断層シナリオから計算した津波浸水データベースを用いた。この津波浸水データベースのからランダムに選択した14シナリオの浸水深分布に対して、非階層的手法であるk-means法を適用し、浸水深がほぼ同じ領域を判別した。k-means法では解析者がクラスタ分割数を定義する必要がある為、クラスタ数を変化させた解析を複数回行い、クラスタ分けされたエリア内の浸水深データのばらつきを参考にしてクラスタ数を決めた。

個々のクラスタ化した領域において、津波浸水データベースの浸水深データの特徴量(平均値と標準偏差)を抽出し、抽出した特徴量を目的変数、DONET観測点51地点における基準からの水圧変化の絶対値を説明変数として、べき乗則による回帰モデルを共役勾配法(CG法)により構築した。また、MLPによる津波浸水予測式も構築した。構築したべき乗則による回帰モデルとMLPの2通りの予測モデルを使って、テストデータの内閣府モデル11ケースによる津波浸水を予測し、フォワード津波計算による真値と比較した。

解析対象地域へ大津波が襲来する内閣府南海トラフ地震シナリオ3、4、5について、CG法の予測誤差はRMSEで1.29m、1.83m、1.76mであり、MLPは0.45m、0.93m、1.08mであった。MLP法のCG法に対する予測精度向上率は65%、49%、39%であった。MLPがCG法の予測精度を上回った。