日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG52] 変動帯ダイナミクス

2022年5月27日(金) 13:45 〜 15:15 301A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:深畑 幸俊(京都大学防災研究所)、コンビーナ:岩森 光(東京大学・地震研究所)、大橋 聖和(山口大学大学院創成科学研究科)、座長:深畑 幸俊(京都大学防災研究所)、宮川 歩夢(独立行政法人 産業技術総合研究所 地質情報研究部門)

14:00 〜 14:15

[SCG52-14] 地質学的データにもとづく関東下の応力蓄積のモデル化:首都直下地震の発生メカニズムの解明に向けて

★招待講演

*橋間 昭徳1 (1.海洋研究開発機構)

キーワード:応力蓄積、プレート沈み込み、プレート内地震、関東盆地、海成段丘

関東地方で今後数十年スケールで危惧されるM7級の首都直下地震は、1923年関東地震のようなプレート境界地震よりは、むしろ、プレートまたはスラブの内部で起こるプレート内地震が主であり、その発生メカニズムの解明は急を要する。一般に、地震とは、震源域とその周辺領域に蓄積された応力を断層破壊によって解放する現象である。そのため、地震発生の力学的要因を解明するためには、第一義的には、解放されるべき応力がどのようなメカニズムによって蓄積されてきたのかを明らかにし、定量化すべきである。プレート境界地震の場合は、プレート相対運動という運動学的条件により比較的容易に応力計算が行える。一方、プレート内地震(いわゆる活断層地震を含む)への応力蓄積過程については、依然定性的な説明にとどまっている。本研究の目的は関東地方下の上盤プレート、沈み込みプレート内部への長期的応力蓄積プロセスのモデル化であり、それにより関東下のプレート内地震の発生可能性の定量的な評価を目指す。
本研究はMatsu’ura & Sato (1989)の定常的プレート沈み込みモデルにもとづき、フィリピン海と太平洋プレートの沈み込みによるプレート内の応力蓄積をモデル化した。関東地方下の物性構造としては弾性-粘弾性2層構造を仮定した。通常、プレート沈み込み速度は、剛体プレート運動モデルにより求められるが、関東では伊豆・小笠原弧の衝突によって内部変形が生じているため直接の適用ができない。また、GNSSデータも関東地震震源域の固着の影響を強く受けており、長期的な変動を反映していない。そこで、関東平野と周辺山地にわたる熱年代学、地質学、変動地形学による変動データを用い沈み込み速度(またはすべり速度欠損)の分布を推定した。このモデルにより、関東周辺域の長期的上下変動変化のパターンを満たす定常固着域の範囲を定めた。推定した沈み込み速度分布を用いて、プレート沈み込みモデルによりプレート内の応力蓄積速度を計算した。
計算した応力蓄積パターンは関東平野、房総半島下では、ユーラシア/フィリピン海プレート境界の上下ともに水平伸張を示す。南方のフィリピン海プレート内では横ずれ的、伊豆半島の島弧衝突域では北西-南東圧縮となった。この応力蓄積速度を用い、観測された地震メカニズムの節面においてクーロン破壊関数(ΔCFF)を計算した。ΔCFFは関東平野、房総半島下、南方のフィリピン海プレート内、伊豆半島の島弧衝突域、房総半島北東部のクラスターなどの周辺の地震発生域においてもΔCFFは正となった。このことは、太平洋、フィリピン海両プレートの沈み込みによってプレート内に形成された応力を解放するように地震が発生しているということを示し、本研究の応力形成モデルの妥当性を示している。
以上のモデルは、弾性-粘弾性2層構造モデルに基づき、関東下の深さ40 km以浅の地震活動に対し有効であった。一方、これまでに発生したM7級の首都直下地震はより深部のスラブ内で発生したと考えられているので、これらの地震を考慮できるようにモデル構築が今後の課題である。今後、太平洋・フィリピン海の両スラブもモデルに取り入れた三次元有限要素モデルを構築することにより、想定した首都直下地震における応力蓄積も計算できることが可能となる。