15:30 〜 15:45
[SCG52-19] 東北地方太平洋沖地震以降に実施された地形・地質研究に基づく三陸海岸の10万年前以降の地殻変動
★招待講演
キーワード:地殻変動、三陸海岸、完新世堆積物、更新世段丘、東北地方太平洋沖地震
1.はじめに
東北地方太平洋岸に位置する三陸海岸では,2011年に発生した東北地方太平洋沖地震時の沈降(Ozawa et al., 2011)および,2011年地震以前の数10~100年間における沈降傾向が観測されている(Kato, 1983)。一方,当該海岸に分布する平坦面を更新世海成段丘と解釈することで示唆される105年スケールの隆起傾向は, 日本海溝沿いの超巨大地震の繰り返しと地殻変動の関係を説明するモデルの制約条件とされてきた(池田ほか,2012)。
しかし, 三陸海岸における地形・地質研究は,1980年代以降,2011年地震時まで,十分な進展がなく,上記モデルの制約条件の妥当性は検証されていない。本発表では,2011年地震以降に実施された地形・地質研究から再考される,三陸海岸の地殻変動像を提示する。
2.最近数千~1万年間の地殻変動
2011年地震以降に三陸海岸で実施された沖積層研究によって,河口~浅海堆積物の分布や年代の情報が蓄積されてきた。同海岸中~南部(津軽石以南)では,潮汐堆積物や潮間帯の示相化石から認定される完新世初期~中期の潮間帯堆積物が,地殻変動を含まない相対的海水準よりも低位に分布することに基づいて,最近数千~1万年間における沈降傾向が示唆される(e.g., Ishimura and Miyauchi, 2017; Niwa et al., 2017)。
一方,三陸海岸北部の小本や久慈では,最近9000~6000年前の浅海堆積物の分布高度から推定される海面高度の下限が,三陸海岸中部における同時期の海面高度の上限よりも高いことから,三陸海岸中~南部に対する相対的な隆起傾向が示唆される (Niwa et al., 2019; Niwa and Sugai, 2020)。さらに北の八戸では,最近数千年間の沈降域における埋積傾向とは対照的な,沖積平野の段丘化が認められることから,沈降域ではないことが推定される(Niwa and Sugai, 2021)。
3.最近10万年間の地殻変動
宮内ほか(2013)によって実施された高精度数値標高モデルを使用した地形判読に基づくと,三陸海岸で12.5万年前の海成段丘が地形学的に確実度高く認められるのは,八戸から久慈の区間のみである。当該区間では,その後の段丘構成層やそれを覆うテフラの詳細な研究によって,最近10万年間の隆起速度(0.1~0.2 mm/y)が南側へ減少していく傾向が認められている(宮崎・石村,2018)。気仙沼南部の岩井崎では,10万年前頃の海成段丘とされてきた平坦面(Matsu’ura et al., 2009)の形成年代が,その後得られた編年データに基づいて約20万年前頃に再解釈されている(村上ほか,2013)ことから,10数万年前頃までは隆起傾向にあったが,その後は沈降に転じたと解釈可能である。
4.10万年前以降の地殻変動様式
以上から,三陸海岸における最近数千~1万年間の地殻変動は,北部で相対的隆起,中~南部で沈降と考えられる。最近10万年間の地殻変動は,段丘の編年データが得られている場所が限定されるため,不確実性は伴うものの,北部では隆起しており,その南への隆起速度減少傾向を中~南部に外挿すると沈降していると考えることも可能である。このように,異なる2期間の地殻変動の空間分布が一致し得ることから,三陸海岸では少なくとも最近10万年間は北部で隆起,中~南部で沈降という地殻変動様式が継続している可能性が考えられる。
文献:池田ほか(2012) 地質学雑誌,118,294–312.Ishimura and Miyauchi (2017) Marine Geology, 386, 126–139. Kato (1983) Tectonophysics, 97, 183–200. 宮崎・石村(2018) 地学雑誌,735–757.村上ほか (2013) JpGU2019要旨,HQR24–P03.宮内ほか(2013) 東北地方太平洋沖で発生する地震・津波の観測調査 平成24年度 成果報告書 99–118.Niwa and Sugai (2020) Marine Geology, 424, 106165. Niwa and Sugai (2021) Geomorphology, 389, 107835. Niwa et al. (2017) Quaternary International, 456, 1-16. Niwa et al. (2019) Quaternary International, 519, 10-24. Ozawa et al.. (2011) Nature, 475, 373–377.
東北地方太平洋岸に位置する三陸海岸では,2011年に発生した東北地方太平洋沖地震時の沈降(Ozawa et al., 2011)および,2011年地震以前の数10~100年間における沈降傾向が観測されている(Kato, 1983)。一方,当該海岸に分布する平坦面を更新世海成段丘と解釈することで示唆される105年スケールの隆起傾向は, 日本海溝沿いの超巨大地震の繰り返しと地殻変動の関係を説明するモデルの制約条件とされてきた(池田ほか,2012)。
しかし, 三陸海岸における地形・地質研究は,1980年代以降,2011年地震時まで,十分な進展がなく,上記モデルの制約条件の妥当性は検証されていない。本発表では,2011年地震以降に実施された地形・地質研究から再考される,三陸海岸の地殻変動像を提示する。
2.最近数千~1万年間の地殻変動
2011年地震以降に三陸海岸で実施された沖積層研究によって,河口~浅海堆積物の分布や年代の情報が蓄積されてきた。同海岸中~南部(津軽石以南)では,潮汐堆積物や潮間帯の示相化石から認定される完新世初期~中期の潮間帯堆積物が,地殻変動を含まない相対的海水準よりも低位に分布することに基づいて,最近数千~1万年間における沈降傾向が示唆される(e.g., Ishimura and Miyauchi, 2017; Niwa et al., 2017)。
一方,三陸海岸北部の小本や久慈では,最近9000~6000年前の浅海堆積物の分布高度から推定される海面高度の下限が,三陸海岸中部における同時期の海面高度の上限よりも高いことから,三陸海岸中~南部に対する相対的な隆起傾向が示唆される (Niwa et al., 2019; Niwa and Sugai, 2020)。さらに北の八戸では,最近数千年間の沈降域における埋積傾向とは対照的な,沖積平野の段丘化が認められることから,沈降域ではないことが推定される(Niwa and Sugai, 2021)。
3.最近10万年間の地殻変動
宮内ほか(2013)によって実施された高精度数値標高モデルを使用した地形判読に基づくと,三陸海岸で12.5万年前の海成段丘が地形学的に確実度高く認められるのは,八戸から久慈の区間のみである。当該区間では,その後の段丘構成層やそれを覆うテフラの詳細な研究によって,最近10万年間の隆起速度(0.1~0.2 mm/y)が南側へ減少していく傾向が認められている(宮崎・石村,2018)。気仙沼南部の岩井崎では,10万年前頃の海成段丘とされてきた平坦面(Matsu’ura et al., 2009)の形成年代が,その後得られた編年データに基づいて約20万年前頃に再解釈されている(村上ほか,2013)ことから,10数万年前頃までは隆起傾向にあったが,その後は沈降に転じたと解釈可能である。
4.10万年前以降の地殻変動様式
以上から,三陸海岸における最近数千~1万年間の地殻変動は,北部で相対的隆起,中~南部で沈降と考えられる。最近10万年間の地殻変動は,段丘の編年データが得られている場所が限定されるため,不確実性は伴うものの,北部では隆起しており,その南への隆起速度減少傾向を中~南部に外挿すると沈降していると考えることも可能である。このように,異なる2期間の地殻変動の空間分布が一致し得ることから,三陸海岸では少なくとも最近10万年間は北部で隆起,中~南部で沈降という地殻変動様式が継続している可能性が考えられる。
文献:池田ほか(2012) 地質学雑誌,118,294–312.Ishimura and Miyauchi (2017) Marine Geology, 386, 126–139. Kato (1983) Tectonophysics, 97, 183–200. 宮崎・石村(2018) 地学雑誌,735–757.村上ほか (2013) JpGU2019要旨,HQR24–P03.宮内ほか(2013) 東北地方太平洋沖で発生する地震・津波の観測調査 平成24年度 成果報告書 99–118.Niwa and Sugai (2020) Marine Geology, 424, 106165. Niwa and Sugai (2021) Geomorphology, 389, 107835. Niwa et al. (2017) Quaternary International, 456, 1-16. Niwa et al. (2019) Quaternary International, 519, 10-24. Ozawa et al.. (2011) Nature, 475, 373–377.