15:45 〜 16:00
[SCG52-20] 低温領域の熱年代学に基づく長間(>106年)スケールにおける鉛直方向の変動の推定:島弧地域における現状と今後の展開
★招待講演
キーワード:熱年代学、島弧、鉛直歪、フィッション・トラック法、(U-Th)/He法、西南日本弧
地殻変動の理解には,測地学や地形学,地質学など多様な時間スケール・手法に基づいた歪速度の推定が鍵となる.近年,東北日本弧における変動場についての理解は,新学術領域研究:地殻ダイナミクスプロジェクトにおいて分野横断的なアプローチにより大きな進展を見せた(深畑ほか, 2019; 2020, 地学雑誌を参照のこと).筆者らが実施してきた熱年代学的研究については,最近30年における手法の高度化などによって,島弧における起伏の小さい山地についても隆起・削剥史の復元が可能となった(末岡ほか, 2015, 地球科学).これを受けて,閉鎖温度が低いフィッション・トラック法(FT法)や(U-Th)/He法(He法)といった熱年代法を島弧横断方向に適用することで,東北日本弧における100万年以上の地質時間スケールにおける熱史・削剥史の推定を試みてきた(Sueoka et al., 2017, EPS; Fukuda et al., 2019, JAES:X; 2020, EPS).その結果,島弧の構成単元(前弧―火山弧―背弧)間での熱史や削剥史には対照性が確認された一方で,同一の構成単元内では南北間で大きな差がなく,島弧平行方向では同様の熱史・削剥史の傾向が見られることが明らかになりつつある.世界に目を向けると,島弧の中でも東北日本弧は熱年代学的に最も研究が進んだ地域の一つであるが,AndesやCascadeなどの陸弧と比較すると圧倒的に研究例が少なく(福田ほか, 2021, RADIOISOTOPESを参照),島弧の詳細な隆起・削剥過程の描像については,今後の熱年代学的検討に基づく精力的な研究が期待される.
これらの東北日本弧での貢献や成果を踏まえて,2021年から新たに西南日本弧における熱年代学的研究に着手した.比較的シンプルな島弧地形を呈する東北日本弧とは対照的に,西南日本弧はプレートの斜め沈み込みや二列の隆起帯(中国山地・四国山地)の分布など,島弧としてのセッティングは比較的複雑である.加えて,河成段丘の分布に乏しい両山地では,山地の形成過程の復元を目的とした研究は限られており(例えば,田中・鈴木2021, Okayama Univ. Earth Sci. Rep.),隆起・削剥過程の定量的な理解は困難であった.そこで,東北日本弧で実施してきた同様の方法論として,島弧横断方向の測線に沿って基盤岩類である白亜紀~中新世花崗岩類にFT法・He法を適用し,中国山地および四国山地の地質学的スケールの熱史・削剥史の復元を進めている.本講演では東北日本弧で得られた成果の概要を紹介し,西南日本弧における研究計画および予察的データと熱年代学的解釈についても報告する.
以上のように,最近の熱年代学的研究によって,地質時間スケールにおける島弧の鉛直方向の変動は時間的・空間的にも制約されつつあり,東北日本弧での研究に引き続いて新たな展開が生まれつつある.また,現在実用化が進んでいる手法として,超低温(<50℃)の熱年代法である電子スピン共鳴(Electronic Spin Resonance: ESR)法(King et al., 2020, Geochron.)やモナザイトのFT法(Jones et al., 2019, Geochron.)など新しい熱年代の確立に向けた研究が進展しつつあり,国内外の一部の地域では既に予察的な応用結果が報告されている.これらの手法が実用化されれば,地殻最上部(1~2 km以浅)の変動を捉える手法として,日本のような若い変動帯における第四紀のテクトニクスの理解の進展に寄与できる可能性がある.熱年代学に携わる研究者として,手法開発と応用研究の両側面が今後も継続的に発展を遂げることを期待したい.
【謝辞】本研究は,JSPS科研費(若手B:課題番号21K14021,基盤C:課題番号21K03730)によって助成された.
これらの東北日本弧での貢献や成果を踏まえて,2021年から新たに西南日本弧における熱年代学的研究に着手した.比較的シンプルな島弧地形を呈する東北日本弧とは対照的に,西南日本弧はプレートの斜め沈み込みや二列の隆起帯(中国山地・四国山地)の分布など,島弧としてのセッティングは比較的複雑である.加えて,河成段丘の分布に乏しい両山地では,山地の形成過程の復元を目的とした研究は限られており(例えば,田中・鈴木2021, Okayama Univ. Earth Sci. Rep.),隆起・削剥過程の定量的な理解は困難であった.そこで,東北日本弧で実施してきた同様の方法論として,島弧横断方向の測線に沿って基盤岩類である白亜紀~中新世花崗岩類にFT法・He法を適用し,中国山地および四国山地の地質学的スケールの熱史・削剥史の復元を進めている.本講演では東北日本弧で得られた成果の概要を紹介し,西南日本弧における研究計画および予察的データと熱年代学的解釈についても報告する.
以上のように,最近の熱年代学的研究によって,地質時間スケールにおける島弧の鉛直方向の変動は時間的・空間的にも制約されつつあり,東北日本弧での研究に引き続いて新たな展開が生まれつつある.また,現在実用化が進んでいる手法として,超低温(<50℃)の熱年代法である電子スピン共鳴(Electronic Spin Resonance: ESR)法(King et al., 2020, Geochron.)やモナザイトのFT法(Jones et al., 2019, Geochron.)など新しい熱年代の確立に向けた研究が進展しつつあり,国内外の一部の地域では既に予察的な応用結果が報告されている.これらの手法が実用化されれば,地殻最上部(1~2 km以浅)の変動を捉える手法として,日本のような若い変動帯における第四紀のテクトニクスの理解の進展に寄与できる可能性がある.熱年代学に携わる研究者として,手法開発と応用研究の両側面が今後も継続的に発展を遂げることを期待したい.
【謝辞】本研究は,JSPS科研費(若手B:課題番号21K14021,基盤C:課題番号21K03730)によって助成された.