11:00 〜 13:00
[SCG52-P04] 地震の破壊過程の複雑性の決定要因:繰り返し地震と他の地震の比較からの示唆
キーワード:破壊過程の複雑性、断層成熟度、繰り返し地震、アスペリティ分布
地震は同じ場所で繰り返し発生することがある。プレート境界の様々な観測事実をよく説明するアスペリティ・モデル (Lay & Kanamori, 1980)では、地震が断層の限られた場所 (地震性パッチ)でのみ発生すること、断層のそれ以外の場所では基本的には非地震性滑りが生じていることが考えられている。一般の地震の場合には、一回の地震時に複数のパッチが連動して破壊することがあり、繰り返しごとに破壊域が同じとは限らない。一方、繰り返し地震と呼ばれる地震群は、毎回の繰り返しで基本的に同一の領域を破壊していると考えられている。地震性パッチが孤立しているために、パッチ間の相互作用が生じにくいことを反映していると解釈されている。その特徴から、繰り返し地震は、断層上の非地震性滑り量をモニターするために使われてきており、その有用性が示されてきている (e.g., Schaff et al., 1998; Uchida et al., 2004)。
地震波形を用いた滑りインバージョンからも、繰り返し地震が孤立した地震性パッチを破壊しているという描像は確かめられている (Dreger, 2007; Shimamura et al., 2011; Kim et al., 2017) 。一方、破壊過程まで詳細に調べられている繰り返し地震は、全体のうちのごく一部である。また、平時には安定的な振る舞いを示している繰り返し地震も、大地震の発生後には、その特徴を大きく変化させることがあることも示されている (Uchida et al., 2015)。
本研究では、東日本周辺で発生している繰り返し地震の破壊過程を系統的に調べた。そのために、個々の繰り返し地震の震源時間関数を推定し、その形状を用いて破壊の複雑性を調べた。比較のために一般のプレート境界地震、地殻内地震、スラブ内地震についての震源時間関数も推定し、それらの複雑性の傾向も調べた。
解析対象としたのは、2003年から 2021年の間に東日本で発生した地震のうち、F-netモーメントテンソルカタログに記載されている Mw3.5-5.5の地震である。最初に、Asano et al. (2011)の方法を用いて、メカニズム解とセントロイド位置に基づき地震を 3種類に分類した: (1) プレート境界地震、(2) 地殻内地震、(3) スラブ内地震。解析対象域は、プレート境界地震が陸域直下で発生しており観測網で囲まれている日本列島直下とプレート境界地震の発生数が多い日本海溝沿いの 2つとした。 吉田・金森 (2021)と同様に、各地震に対して地震波形の deconvolutionを行い (Yoshida, 2019)、震源時間関数を推定した。そして震源時間関数に基づくパラメータ REEF (Ye et al., 2018)により破壊の複雑性を評価した。。REEFがおよそ5を上回る地震は震源時間関数に複数のピークを持つ傾向が多く、複数の地震性パッチを破壊させたことが示唆される。破壊継続時間が深さとともに減少する傾向が見られたため (吉田・金森,2021)、Deconvolution時に用いる low-pass filterの cut-off周波数は、深さとともに増加するように設定した。
解析したプレート境界型地震中の繰り返し地震の割合はおよそ 6割程度であった。繰り返し地震の REEFは 中央値の 95%信頼範囲が 2.7-2.9で、他のプレート境界型地震の場合 (3.2-3.7)に比べて小さい傾向があった。このことは、繰り返し地震が、通常の地震に比べてシンプルな破壊過程を持つという考えと調和的である。その一方で、繰り返し地震の中には、その震源時間関数が複数のピークを持つものも見られた。それらの中には、繰り返しの度に、同じ組み合わせのパッチを同様に破壊しているように見えるものも見られる一方で、異なる数のパッチを破壊しているようにみられるものもあった。
REEFを異なるテクトニクス間で比較すると、プレート境界型地震に比べて、地殻内地震 (4.0-4.3)、スラブ内地震 (3.6-4.1)の値の方が大きい傾向が得られた。プレート境界型地震の破壊過程の複雑性が、他のテクトニクス下で発生する地震のそれよりも小さい傾向があることを示す。このことは、プレート境界断層に比べて地殻内断層の地震性パッチの孤立度が小さいという震源分布に基づく推定とも調和的である (Yoshida & Hasegawa, 2018, Tectonophysics; 池田,2022, 東北大修士論文)。断層上の地震性パッチの分布,割合は断層の成熟度とも関係する可能性がある。地震の破壊過程や震源分布に基づき、断層成熟度の情報を抽出できる可能性が示唆される。
地震波形を用いた滑りインバージョンからも、繰り返し地震が孤立した地震性パッチを破壊しているという描像は確かめられている (Dreger, 2007; Shimamura et al., 2011; Kim et al., 2017) 。一方、破壊過程まで詳細に調べられている繰り返し地震は、全体のうちのごく一部である。また、平時には安定的な振る舞いを示している繰り返し地震も、大地震の発生後には、その特徴を大きく変化させることがあることも示されている (Uchida et al., 2015)。
本研究では、東日本周辺で発生している繰り返し地震の破壊過程を系統的に調べた。そのために、個々の繰り返し地震の震源時間関数を推定し、その形状を用いて破壊の複雑性を調べた。比較のために一般のプレート境界地震、地殻内地震、スラブ内地震についての震源時間関数も推定し、それらの複雑性の傾向も調べた。
解析対象としたのは、2003年から 2021年の間に東日本で発生した地震のうち、F-netモーメントテンソルカタログに記載されている Mw3.5-5.5の地震である。最初に、Asano et al. (2011)の方法を用いて、メカニズム解とセントロイド位置に基づき地震を 3種類に分類した: (1) プレート境界地震、(2) 地殻内地震、(3) スラブ内地震。解析対象域は、プレート境界地震が陸域直下で発生しており観測網で囲まれている日本列島直下とプレート境界地震の発生数が多い日本海溝沿いの 2つとした。 吉田・金森 (2021)と同様に、各地震に対して地震波形の deconvolutionを行い (Yoshida, 2019)、震源時間関数を推定した。そして震源時間関数に基づくパラメータ REEF (Ye et al., 2018)により破壊の複雑性を評価した。。REEFがおよそ5を上回る地震は震源時間関数に複数のピークを持つ傾向が多く、複数の地震性パッチを破壊させたことが示唆される。破壊継続時間が深さとともに減少する傾向が見られたため (吉田・金森,2021)、Deconvolution時に用いる low-pass filterの cut-off周波数は、深さとともに増加するように設定した。
解析したプレート境界型地震中の繰り返し地震の割合はおよそ 6割程度であった。繰り返し地震の REEFは 中央値の 95%信頼範囲が 2.7-2.9で、他のプレート境界型地震の場合 (3.2-3.7)に比べて小さい傾向があった。このことは、繰り返し地震が、通常の地震に比べてシンプルな破壊過程を持つという考えと調和的である。その一方で、繰り返し地震の中には、その震源時間関数が複数のピークを持つものも見られた。それらの中には、繰り返しの度に、同じ組み合わせのパッチを同様に破壊しているように見えるものも見られる一方で、異なる数のパッチを破壊しているようにみられるものもあった。
REEFを異なるテクトニクス間で比較すると、プレート境界型地震に比べて、地殻内地震 (4.0-4.3)、スラブ内地震 (3.6-4.1)の値の方が大きい傾向が得られた。プレート境界型地震の破壊過程の複雑性が、他のテクトニクス下で発生する地震のそれよりも小さい傾向があることを示す。このことは、プレート境界断層に比べて地殻内断層の地震性パッチの孤立度が小さいという震源分布に基づく推定とも調和的である (Yoshida & Hasegawa, 2018, Tectonophysics; 池田,2022, 東北大修士論文)。断層上の地震性パッチの分布,割合は断層の成熟度とも関係する可能性がある。地震の破壊過程や震源分布に基づき、断層成熟度の情報を抽出できる可能性が示唆される。