日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG52] 変動帯ダイナミクス

2022年5月29日(日) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (20) (Ch.20)

コンビーナ:深畑 幸俊(京都大学防災研究所)、コンビーナ:岩森 光(東京大学・地震研究所)、大橋 聖和(山口大学大学院創成科学研究科)、座長:深畑 幸俊(京都大学防災研究所)、岩森 光(東京大学・地震研究所)、大橋 聖和(山口大学大学院創成科学研究科)

11:00 〜 13:00

[SCG52-P07] 山陰ひずみ集中帯に分布する小断層の摩擦特性と地震活動との関係

*森 遥1大橋 聖和1岡崎 啓史2 (1.山口大学大学院創成科学研究科、2.海洋研究開発機構)

キーワード:2000年鳥取県西部地震、摩擦実験、断層ガウジ

【はじめに】
中国地方には日本海沿岸に沿って地震帯が存在しており(中尾ほか,1991,京大防災研年報),そこでの最大主圧縮軸の方位は,中国地方全体のほぼE-Wに対し,約30°時計回りに回転している(Kawanishi et al., 2009, JGR).これは,地震帯直下の下部地殻が右横ずれをしているためと考えられており,この回転量を定量的に再現するには,上部地殻の差応力を小さくする必要がある.しかしながら,差応力低下の要因として一般的に想定される高間隙流体圧を示唆する証拠は本地域では見出されていない(Iio et al., 2018, Tectonophysics).このことから,山陰地域の上部地殻を弱化させる原因として,高間隙流体圧以外のものが存在すると考えられている(飯尾, 2019, 日本地質学会講演要旨).
森(2020,卒論)では,2000年鳥取県西部地震余震域に産する断層ガウジを用いた摩擦実験を行い,粘土鉱物が上部地殻の弱化の一因であることを示した.しかし,上部地殻の弱化はひずみ集中帯全体で起きていると考えられるため,その要因を粘土鉱物に求めるためには,他の地域の摩擦係数も決定する必要がある.また,森(2020,卒論)では,断層ガウジの摩擦の速度依存性はすべて正であることを報告しているが,当該地域では深さ3 km程度から余震が発生しており,断層中の物質は速度弱化を示す可能性がある.また,測地観測から2000年鳥取県西部地震の余震分布や破壊過程に地域性があることがわかっている(岩田・関口,2002,月刊地球号外).これらのことを踏まえると,余震域に産する断層ガウジはより深い条件では速度弱化を示す可能性があると考えられ,地震の発生とも関連していると考えられる.
以上のことから,本研究では山陰ひずみ集中帯に産する小断層中の断層ガウジを用いた摩擦実験に基づき,粘土鉱物が上部地殻の浅部(4 km以浅)の強度に与える影響及び地震活動との関連性について検討する.
【実験手法】
試料は鳥取県西部を北部,中部,南部の3カ所に分け,北部から1つ,中部から3つ,南部から1つ採取した.また,鳥取県中部の鎌田露頭から1つ,鳥取県東部の鹿野断層,岩坪断層の主断層とリニアメント沿いの佐谷露頭から1つずつ採取した.鳥取県西部のガウジの姿勢はいずれも北西〜北北西走向,ほぼ鉛直であり,幅は5 mm〜2 cm程度である.鳥取県中部のガウジの姿勢は北北西走向の中角傾斜,幅は1 cmである.鳥取県東部の鹿野,岩坪断層の姿勢はいずれも東西走向,ほぼ鉛直であり,幅は15~30 cmである.佐谷は北西走向の中角傾斜,幅は12~18 cmである.採取した試料は粉末X線回折法に基づく鉱物定量分析を行い,各地域の断層ガウジ試料の構成鉱物の量比を求めた.また,摩擦実験は(国研)海洋研究開発機構所有の三軸圧縮試験機を使用し,摩擦係数と速度依存性を求めた.実験条件は,地圧勾配26 MPa/km,地温勾配20 ℃/kmと仮定し,4 kmまでの深さ条件に合わせ,封圧26, 42, 58, 74 MPa, 間隙圧10 MPa一定,温度45, 65, 85, 105 ℃とした.
【結果】
鉱物定性分析により,スメクタイト,ハロイサイト,バーミキュライトなどの粘土鉱物が含まれていることが分かった.また,各試料に含まれる粘土鉱物の生成環境から,北部は浅く,低温な環境であったと考えられる.中部及び南部,鳥取県中部・東部は高温から低温へと遷移したと考えられる.粘土鉱物の生成環境から,作用する溶液も変化したと考えられる.また,母岩の違いがガウジ中の粘土鉱物に反映されていると考えられる.
各試料の鉱物定量分析から,粘土鉱物が35.5~83.8 %含まれていることが分かった.また,同一の断層ガウジ帯内に約1~30 %の鉱物量比の幅が認められた.
試料の定常摩擦係数は中部Sが0.12と最も低く,岩坪の0.32が最も高い値だった.試料中の粘土鉱物の割合が増加するにつれて摩擦係数が減少することが分かった.摩擦の速度依存性は,ほぼすべての試料で深さ条件が深くなるにつれて小さくなり,3~4 kmで負になることが分かった.また,北部は全ての深さ条件で摩擦の速度依存性は正を示した.本研究で得られた山陰ひずみ集中帯に産する小断層中の断層ガウジの摩擦強度は,一般的な岩石の摩擦係数(0.6〜0.85)よりも有意に低い.また,Yukutake et al. (2020,Tectonophysics) で地震観測データより求められている摩擦係数(≦0.2)と調和的である.本研究で得られた摩擦の速度依存性は,深部の高速すべりと浅部の余効すべりの関係を反映する結果と考えられる.また,鳥取県西部の北部では,特徴的に産するハロイサイトにより,全ての深さ条件で摩擦の速度依存性は正を示した.この摩擦特性は,地震時のすべりの伝播を抑えるバリアーとしての役割を果たしたと考えられる.