11:00 〜 13:00
[SCG53-P01] 琵琶湖の深部湖底湧水について
キーワード:琵琶湖、湖底湧水、環境
1 はじめに
琵琶湖に流入する水の10-20%が,湖底からの湧水によるとされていて(滋賀県,2018),それは琵琶湖環境に無視出来ない影響を与えていると考えられる.しかし,深部湖底湧水の実態は明らかになっていない.琵琶湖では,一般に,春~秋に湖水が成層構造を形成し,冬に全層循環が起きてその成層構造が解消される.したがって,湖底深部で湧水があれば,春~秋の時期に深部湖底環境は大きく影響されることになる.加えて,2019年と2020年の冬は,暖冬のため全層循環が発生しなかった.地球温暖化も考慮すると,湖底環境保全のため,琵琶湖の深部湖底湧水を研究することが重要である.
Kumagai et al.(2021)は,2009年にAUVを用いて,琵琶湖深部湖底にガスを伴う湧水があることを発見した(Fig.1).彼らは,また,2009年から2012年にかけて,底生ベント(湖底湧水とガスの噴出孔)の数が増加しているとし,琵琶湖の湖底環境への影響を危惧している.さらに,深部湖底湧水は通常の地下水ではないとし,この底性ベントの増加を地殻活動と関係しているとしているが,その根拠は十分とは言えない.また,琵琶湖の深部湖底湧水については,2013年以降は十分な調査はおこなわれていない(Kumagai et al.,2021).以上を考慮して,我々は,このような深部湖底湧水の実態を明らかにすることを目的として,科学研究費補助金「20H01974: 琵琶湖深部湖底湧水の地下構造との関係解明および湖底環境への影響評価」によってこの研究を行った.
2 方法
音波探査・湖底の温度勾配測定・水中カメラでの湖底の観測・CTD測定・湖水の同位体比測定をY1とT1付近で2020~2021年に数回行った(Fig.1).深部湖底湧水由来の泡による音響異常が安定して検出される場所がY1であり,T1は,Y1と比較するための点で滋賀県立大学の定期観測点である.T1とY1の水深は約90mである.
3 結果
音波探査では,深部湖底湧水由来のガスが原因と考えられる音響異常をY1で常に検出した.一方で,我々が調査した範囲では(Fig.1),Y1以外では音響異常は検出されなかった.湖底の温度勾配測定では,Y1の近傍では高い温度勾配を複数検出したが、それ以外ではほとんど高い温度勾配は検出されなかった.水中カメラによる撮影では,Y1の湖底で数十cmのサイズの多くの白い変色域を検出した.Kumagai et al.(2021)が過去に音響異常を検出した他の場所でも白い変色域が検出された.しかし,Y1の白い変色域でのみガスが発生していた.CTD測定を行った結果,深さ20m以深では,水温・電気伝導度・溶存酸素濃度・クロロフィル濃度の鉛直分布にT1とY1とであまり差はなかった.湖水の酸素・水素同位体比も,T1とY1で大きな差は見られなかった.
4 考察
音波探査の結果、底生ベントは、2009年から2012年にKumagai et al.(2021)によって発見されたものよりも少ないように見え,それは,深部湖底湧水の流量が減少していることを示していると考えられる.一方,Y1近傍では常に湖底湧水が湧出していると考えられる.湖底の白い変色域は,現在および過去の湖底深部湧水によって形成されたと推定できる.したがって,深部湖底湧水と通常の湖水とは水質が異なると考えられる.しかし,CTD測定と酸素および水素同位体比の結果は、T1とY1の湖底水の間にほとんど違いがないことを示している.したがって、深層湧水の湧出量は、湖底水の特性を大きく変えるには不十分であるように思われる。Y1以外で深部湖底深湧水はほとんど検出されなかったことを考えると、深層湧水の量は深部湖底環境を変えるには不十分と思われる。
発表時には,底生ベントの数が,2010年8月から2010年12月にかけて急増した理由についても考察する予定である.
謝辞
熊谷道夫立命館大学教授には,琵琶湖湖底地形や底生ベントの位置について貴重なデータを頂いた.記して感謝します.
Fig.1 Kumagai et al.(2021)による底生ベントの位置(X),深部湖底湧水が安定して検出されるY1と参照点T1.灰色の線は,湖面を0mとした等深度線(単位:m).赤線で囲んだところは,我々が,2021年に音波探査を主に行った場所.
琵琶湖に流入する水の10-20%が,湖底からの湧水によるとされていて(滋賀県,2018),それは琵琶湖環境に無視出来ない影響を与えていると考えられる.しかし,深部湖底湧水の実態は明らかになっていない.琵琶湖では,一般に,春~秋に湖水が成層構造を形成し,冬に全層循環が起きてその成層構造が解消される.したがって,湖底深部で湧水があれば,春~秋の時期に深部湖底環境は大きく影響されることになる.加えて,2019年と2020年の冬は,暖冬のため全層循環が発生しなかった.地球温暖化も考慮すると,湖底環境保全のため,琵琶湖の深部湖底湧水を研究することが重要である.
Kumagai et al.(2021)は,2009年にAUVを用いて,琵琶湖深部湖底にガスを伴う湧水があることを発見した(Fig.1).彼らは,また,2009年から2012年にかけて,底生ベント(湖底湧水とガスの噴出孔)の数が増加しているとし,琵琶湖の湖底環境への影響を危惧している.さらに,深部湖底湧水は通常の地下水ではないとし,この底性ベントの増加を地殻活動と関係しているとしているが,その根拠は十分とは言えない.また,琵琶湖の深部湖底湧水については,2013年以降は十分な調査はおこなわれていない(Kumagai et al.,2021).以上を考慮して,我々は,このような深部湖底湧水の実態を明らかにすることを目的として,科学研究費補助金「20H01974: 琵琶湖深部湖底湧水の地下構造との関係解明および湖底環境への影響評価」によってこの研究を行った.
2 方法
音波探査・湖底の温度勾配測定・水中カメラでの湖底の観測・CTD測定・湖水の同位体比測定をY1とT1付近で2020~2021年に数回行った(Fig.1).深部湖底湧水由来の泡による音響異常が安定して検出される場所がY1であり,T1は,Y1と比較するための点で滋賀県立大学の定期観測点である.T1とY1の水深は約90mである.
3 結果
音波探査では,深部湖底湧水由来のガスが原因と考えられる音響異常をY1で常に検出した.一方で,我々が調査した範囲では(Fig.1),Y1以外では音響異常は検出されなかった.湖底の温度勾配測定では,Y1の近傍では高い温度勾配を複数検出したが、それ以外ではほとんど高い温度勾配は検出されなかった.水中カメラによる撮影では,Y1の湖底で数十cmのサイズの多くの白い変色域を検出した.Kumagai et al.(2021)が過去に音響異常を検出した他の場所でも白い変色域が検出された.しかし,Y1の白い変色域でのみガスが発生していた.CTD測定を行った結果,深さ20m以深では,水温・電気伝導度・溶存酸素濃度・クロロフィル濃度の鉛直分布にT1とY1とであまり差はなかった.湖水の酸素・水素同位体比も,T1とY1で大きな差は見られなかった.
4 考察
音波探査の結果、底生ベントは、2009年から2012年にKumagai et al.(2021)によって発見されたものよりも少ないように見え,それは,深部湖底湧水の流量が減少していることを示していると考えられる.一方,Y1近傍では常に湖底湧水が湧出していると考えられる.湖底の白い変色域は,現在および過去の湖底深部湧水によって形成されたと推定できる.したがって,深部湖底湧水と通常の湖水とは水質が異なると考えられる.しかし,CTD測定と酸素および水素同位体比の結果は、T1とY1の湖底水の間にほとんど違いがないことを示している.したがって、深層湧水の湧出量は、湖底水の特性を大きく変えるには不十分であるように思われる。Y1以外で深部湖底深湧水はほとんど検出されなかったことを考えると、深層湧水の量は深部湖底環境を変えるには不十分と思われる。
発表時には,底生ベントの数が,2010年8月から2010年12月にかけて急増した理由についても考察する予定である.
謝辞
熊谷道夫立命館大学教授には,琵琶湖湖底地形や底生ベントの位置について貴重なデータを頂いた.記して感謝します.
Fig.1 Kumagai et al.(2021)による底生ベントの位置(X),深部湖底湧水が安定して検出されるY1と参照点T1.灰色の線は,湖面を0mとした等深度線(単位:m).赤線で囲んだところは,我々が,2021年に音波探査を主に行った場所.