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[SCG56-10] プチスポット火山産マントル捕獲岩から推定する海洋リソスフェアの温度構造
キーワード:海洋リソスフェア、マントル捕獲岩、プチスポット火山、地質温度圧力計
地球表層を覆うプレートの相対運動は様々な地形をかたちづくり、火山や地震などの地質現象を引き起こす本質的役割を果たしている。地球のプレートはその内部構造や厚みから大陸プレートと海洋プレートに大別されるが、それぞれのプレートがどのような機構により形成し、進化を遂げたかについては未だ活発な議論が続いている。大陸プレートの岩石学的-化学的構造や温度構造はマントル捕獲岩を用いた解析から詳細な復元が試みられているが、海洋プレートにおいてはマントル捕獲岩の入手が困難であるため、物質的な制約がほとんどないのが現状である。2000年代初めに、日本海溝のアウターライズにおいて、年代140 Maの太平洋プレート上に新たな火山が発見された。この火山はプチスポット火山と呼ばれ、アルカリ玄武岩溶岩中に海洋リソスフェア由来のマントル捕獲岩が含まれていることが報告された。Yamamoto et al. (2014) では、マントル捕獲岩4試料について流体包有物の残留圧力から最低由来深度を推定し、プチスポット火山下の地温勾配が140Maの海洋プレートに期待される地温勾配より大幅に高温にシフトしていると報告した。本研究では、2021年5月に実施されたYK21-07S次航海で実施したプチスポット火山サイトBにおけるしんかい6500調査により新たに採取されたマントル捕獲岩5試料を解析し、記録された平衡温度圧力条件からプチスポット火山下の地温勾配を再検討することを目的とした。
本研究で対象とした5試料は、いずれも新鮮なかんらん石、直方輝石、単斜輝石を主要鉱物とするレールゾライトである。このうち、1試料には新鮮なざくろ石が含まれる、2試料にはスピネルが含まれる、残り2試料にはAl鉱物が含まれない、という鉱物組み合わせから、3グループに細分した。またFE-EPMA によって得られた各鉱物の定量分析値をもとに、Brey and Kohler (1990)による両輝石温度計を適用した結果、スピネルを含む2試料は低温 (low-T: <600 ℃), ざくろ石を含む1試料は中温 (mid-T: ~900 ℃), Al鉱物を含まない2試料は高温 (high-T: >1200 ℃)の平衡温度を記録しており、温度条件と鉱物組み合わせに対応関係があることが判明した。平衡圧力については、ざくろ石を含むレールゾライトではざくろ石-直方輝石のAl分配による圧力計 (Brey and Kohler, 1990) から1.9±0.1 GPa、high-Tグループについてはかんらん石-単斜輝石のCa分配による圧力計 (Kohler and Brey, 1990) から2.3–2.8 GPaと求められた。本研究により得られた地温勾配は、Yamamoto et al. (2014) により推定された高い地温勾配や、半無限冷却モデルから予測される低いプレート地温勾配とは一致せず、プレートモデルから予測される古い海洋プレートの地温勾配 (GDH1)とよく一致した。中温-中圧型のざくろ石レールゾライトの構成鉱物は非常に均質な鉱物組成であるが、高温-高圧型のhigh-Tグループでは鉱物組成累帯や岩石全体に及ぶ化学的不均質が認められるため、深部ではプチスポットマグマ生成に関与する熱的擾乱を経験した可能性がある。しかし、そのような組成不均質性を考慮しても半無限冷却モデルには整合しない。一方、低温型のスピネルレールゾライトに含まれる輝石には顕著な離溶組織が発達しており、単純冷却履歴を記録している。これらの観察事実は、(1) プチスポット火山のマグマが海洋リソスフェアに与える熱的擾乱はリソスフェア底部に限定される、(2) 古い海洋リソスフェアの地温勾配は半無限冷却モデルよりもむしろプレートモデルに整合的である、という2つの重要な示唆を与えている。
[1] Yamamoto et al. (2014) Chem. Geol. 268, 313-323 [2] Köhler and Brey (1990) GCA 54, 2375–2388 [3] Brey and Köhler (1990) J. Petrol. 31, 1353–1378.
本研究で対象とした5試料は、いずれも新鮮なかんらん石、直方輝石、単斜輝石を主要鉱物とするレールゾライトである。このうち、1試料には新鮮なざくろ石が含まれる、2試料にはスピネルが含まれる、残り2試料にはAl鉱物が含まれない、という鉱物組み合わせから、3グループに細分した。またFE-EPMA によって得られた各鉱物の定量分析値をもとに、Brey and Kohler (1990)による両輝石温度計を適用した結果、スピネルを含む2試料は低温 (low-T: <600 ℃), ざくろ石を含む1試料は中温 (mid-T: ~900 ℃), Al鉱物を含まない2試料は高温 (high-T: >1200 ℃)の平衡温度を記録しており、温度条件と鉱物組み合わせに対応関係があることが判明した。平衡圧力については、ざくろ石を含むレールゾライトではざくろ石-直方輝石のAl分配による圧力計 (Brey and Kohler, 1990) から1.9±0.1 GPa、high-Tグループについてはかんらん石-単斜輝石のCa分配による圧力計 (Kohler and Brey, 1990) から2.3–2.8 GPaと求められた。本研究により得られた地温勾配は、Yamamoto et al. (2014) により推定された高い地温勾配や、半無限冷却モデルから予測される低いプレート地温勾配とは一致せず、プレートモデルから予測される古い海洋プレートの地温勾配 (GDH1)とよく一致した。中温-中圧型のざくろ石レールゾライトの構成鉱物は非常に均質な鉱物組成であるが、高温-高圧型のhigh-Tグループでは鉱物組成累帯や岩石全体に及ぶ化学的不均質が認められるため、深部ではプチスポットマグマ生成に関与する熱的擾乱を経験した可能性がある。しかし、そのような組成不均質性を考慮しても半無限冷却モデルには整合しない。一方、低温型のスピネルレールゾライトに含まれる輝石には顕著な離溶組織が発達しており、単純冷却履歴を記録している。これらの観察事実は、(1) プチスポット火山のマグマが海洋リソスフェアに与える熱的擾乱はリソスフェア底部に限定される、(2) 古い海洋リソスフェアの地温勾配は半無限冷却モデルよりもむしろプレートモデルに整合的である、という2つの重要な示唆を与えている。
[1] Yamamoto et al. (2014) Chem. Geol. 268, 313-323 [2] Köhler and Brey (1990) GCA 54, 2375–2388 [3] Brey and Köhler (1990) J. Petrol. 31, 1353–1378.