日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG57] New perspectives of subduction zone earthquake dynamics through experiments across-scales

2022年5月25日(水) 15:30 〜 17:00 102 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:木下 正高(東京大学地震研究所)、コンビーナ:荒木 英一郎(海洋研究開発機構)、河野 義生(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)、コンビーナ:橋本 善孝(高知大学)、座長:木下 正高(東京大学地震研究所)、神谷 奈々(京都大学大学院工学研究科)、向江 知也(山口大学大学院)

15:30 〜 15:45

[SCG57-01] 海洋GNSSブイを用いた津波観測の高機能化と海底地殻変動連続観測への挑戦~レビューと今後の課題~

*加藤 照之1寺田 幸博2田所 敬一3二村 彰4 (1.大正大学地域構想研究所、2.高知工業高等専門学校、3.名古屋大学環境科学研究科、4.弓削商船高等専門学校)

キーワード:GNSSブイ、防災、津波、海底地殻変動

我々は2016~2020年の5年間に亘り,科研費基盤研究(S)によって標題を課題名とする新たなGNSSブイシステムの開発を行った.本発表ではこの研究開発の経緯と成果,及び残された課題や今後の可能性について述べる.2011年東北沖地震における教訓をもとに,海岸からより遠く離れた遠洋での運用を可能とするための改良を行い,同時に,GNSS―音響システムを用いた海底地殻変動の連続観測に挑戦しようとするものであった.また,GNSSブイを遠洋に設置できればGNSSデータから得られる可降水量(PWV)や電離層の総電子数(TEC)を用いることで気象学や電離層研究など応用できる領域が格段に広く及ぶ.これらの目的を実現するため, 精密単独測位方式PPP-ARを導入し,測位解析がブイ上で可能な受信機を用い,解析に必要な精密暦と得られた測位結果を双方向とも衛星通信で送信することとした.衛星通信には商用衛星であるThurayaを用いた.また,海底地殻変動連続観測のため,海底位置と水中音速構造を同時に推定する新たな解析アルゴリズムを開発して適用した.ブイは高知県が運用する海洋牧場ブイのうち足摺岬沖約40㎞にあるブイを借用することとした.実験は足掛け4年以上に及び,一定の成果を挙げることができた.測位手法として導入したPPP-ARは信号がFixされている限りはブイの位置を数cm程度の精度で推定でき,短周期の変動に用いられるPoint-Variance-Detection (PVD)法とあわせて長周期と短周期の海面変動を分離してリアルタイムに監視できることを明らかにした.また,GNSSデータから得られた大気の可降水量や電離層の総電子数がそれぞれの分野で有効に活用できることも示唆された.また,ブイの揺動による衛星通信のデータ欠測率の増加についてそれを克服するための基礎的な資料を取得することができ,将来期待される多数のブイからの衛星通信に関する新たな効率的な伝送方式が提示された.一方で多くの課題も見出された.ブイ上の電源不足等による機器の停止やデータ断などがたびたび発生した.海底地殻変動連続観測についてははじめての連続的な海底測位の成果を得ることができた.一方,ブイが大きく振れ回らないと海底アレイの位置推定と水中の音速構造パラメータの分離が難しいなどの課題が残った.これらの課題について検討し,改良を重ねて問題を克服し,遠洋においてGNSSブイが長期に安定的に運用できれば,海洋のブイアレイを構築することにより単に津波早期検知だけでなく様々な防災応用や新たな地球科学の展開ができると期待される.