日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG57] New perspectives of subduction zone earthquake dynamics through experiments across-scales

2022年5月25日(水) 15:30 〜 17:00 102 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:木下 正高(東京大学地震研究所)、コンビーナ:荒木 英一郎(海洋研究開発機構)、河野 義生(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)、コンビーナ:橋本 善孝(高知大学)、座長:木下 正高(東京大学地震研究所)、神谷 奈々(京都大学大学院工学研究科)、向江 知也(山口大学大学院)

15:45 〜 16:00

[SCG57-02] 高圧高温処理したアンチゴライト蛇紋岩の高圧下弾性波速度測定

*河野 義生1、森田 淳也1近藤 望1平内 健一2 (1.愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター、2.静岡大学)

沈み込み帯における地震波速度低速度異常の存在は、蛇紋岩もしくは蛇紋岩の脱水分解により放出された水の存在を示していると推測されている。そのため、そのような地震波速度低速度異常の実態を理解するためには、沈み込み帯深部に相当する高圧下における蛇紋岩の弾性波速度の理解が必要である。しかしながら、過去に報告されている高圧下(>1 GPa)における蛇紋岩の弾性波速度測定結果には10%以上もの大きな差があり(Bezacier et al., 2013; Wang et al., 2019)、いまだ蛇紋岩の弾性波速度はよく理解されていない。我々は、長崎変成岩類から採取された天然のアンチゴライト蛇紋岩試料について、圧力最大約10 GPaの高圧下における弾性波速度測定を行った結果、Bezacier et al. (2013)の報告と調和的な比較的高いP波、S波速度結果が得られた。一方、Wang et al. (2019)ではBezacier et al. (2013)と我々の結果よりも10%以上も低いP波、S波速度値が報告されており、その原因の理解は蛇紋岩の弾性波速度の理解に重要である。本研究では、Wang et al. (2019)では圧力3GPa、温度500℃で焼結合成された試料を用いていることに着目し、我々の実験で使用している天然の蛇紋岩試料についても高圧高温処理を行い、弾性波速度の変化を検証した。
 蛇紋岩の高圧高温処理実験は,Wang et al. (2019)と同じ圧力3GPa、温度500℃条件に加えて、温度を600℃、650℃に変化させた実験も行った。温度650℃の実験では、アンチゴライトが分解し、かんらん石の生成が確認された。一方、温度500℃、600℃の実験回収試料のSEM観察では、アンチゴライトの分解などの明らかな変化は見られなかった。一方、温度500℃、600℃試料のアンチゴライトのSEM-EDSによる組成分析結果では、出発試料のアンチゴライトと比べてトータル欠損が小さい結果が得られた。また、ラマン測定を行ったところ、波数1350 cm-1と1600 cm-1に新たなピークの出現が観察された。水のラマン測定によると、H-O-Hの変角振動のピークが1600 cm-1に現れることが知られており、温度500℃、600℃試料においてはアンチゴライトから水が一部放出されている可能性が考えられる。この温度500℃、600℃処理試料について、室温高圧下での弾性波速度測定を行った結果、もとの天然試料に比べて約4%程度低いP波、S波速度結果が得られた。これはアンチゴライト中の水の量の変化、もしくは部分的に放出された水の影響を見ている可能性がある。しかしながら、Wang et al. (2019)では10%以上低いP波、S波速度結果が報告されており、その違いは高圧高温処理では説明ができない。そのため、Wang et al. (2019)で報告された非常に低いアンチゴライトのP波、S波速度結果は、焼結状況などの別の要因の可能性が予想されるが、その原因は不明である。一方、本研究により、高圧高温処理した蛇紋岩においても比較的高いP波、S波速度結果が得られており、Bezacier et al. (2013)の結果と調和的である。