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[SEM15-10] 美濃帯犬山セクションの層状チャートに貫入する岩脈の古地磁気
キーワード:古地磁気、岩石磁気、岩脈、犬山セクション、美濃帯
美濃帯犬山セクションの層状チャートに貫入する岩脈の古地磁気
はじめに 美濃帯犬山セクションの三畳紀層状チャートには火山岩岩脈が複数貫入しており,この地域に発達する坂祝シンフォームと呼ばれる向斜状構造の両翼(南翼と北翼)に露出している.この地域では層状チャートの古地磁気が詳しく研究され,初生磁化と推定される低伏角の残留磁化成分の他に複数の二次磁化成分が含まれることが判明している(例えば,Shibuya and Sasajima, 1986).そこで筆者らは,チャートの二次磁化成分の獲得が火山岩岩脈を形成したマグマ活動と関連していた可能性を検証するために,岩脈とその周辺のチャートの残留磁化を調査した.
地質,先行研究,試料採取 岩脈は玄武岩である(木村・貴治, 1993; Safonova et al., 2016).木村・貴治(1993)は岩脈の2試料から90.1±4.5 Maと84.3±4.2 Maの全岩K-Ar年代を報告している.一方,Shibuya and Sasajima (1986)は赤色チャートから4つの磁化成分を分離し,低温成分から順にA, B, C, D成分と名付け,A~C成分を二次磁化,D成分を初生磁化と判断した.二次磁化の獲得時期は,A成分が中期中新世以降,B成分が後期白亜紀~古第三紀初期,C成分が白亜紀中期と考えられている (Oda and Suzuki, 2000; Ando et al., 2001; Uno et al., 2012).
岩脈とチャートの試料を坂祝シンフォームの両翼から採取した.岩脈試料は北翼の11サイト,南翼の1サイトから採取した.熱接触テストを行うために,複数のサイトで母岩のチャート試料を貫入面近傍及び岩脈から数cm~数m離れた場所から採取した.
残留磁化と熱接触テスト 段階消磁実験によって,多くのサイトの岩脈からほぼ北向き正帯磁の,地心軸双極子磁場方位と類似する特徴磁化成分が分離された.一方,チャートの残留磁化には貫入面近傍と岩脈から離れた場所との間で成分数や磁化強度などに違いが認められた.岩脈から数十cm以上離れたチャートからは複数の残留磁化成分が分離されたが,岩脈近傍のチャートは単一の磁化成分を示し,その方位は岩脈の特徴磁化方位とほぼ同じであった.チャートの自然残留磁化は岩脈に近い試料ほど強度が高い傾向が見られた.以上の結果は,岩脈(マグマ)の熱は貫入面近傍のチャートを再磁化させたが(熱残留磁化),数十cm以上離れたチャートには磁気的な影響をほとんど及さなかったと考えれば説明可能である.
岩脈の貫入時期 上述の熱接触テストの結果から、岩脈の北向き正帯磁の特徴磁化成分は初生磁化と考えられる.これを前提に岩脈の貫入時期を推定する.まず,両翼の岩脈が類似の残留磁化方位を示したことから,貫入は坂祝シンフォームの形成後で,古第三紀初期よりも後である可能性が考えられる.次に,この地域が古第三紀初期以降で北向き方位を持つ年代となると,日本海拡大に伴う西南日本の回転運動終了後の16 Ma以降と考えられる.したがって,残留磁化方位の観点からは,岩脈は16 Ma以降に貫入した可能性があると言えそうである.しかし,この古地磁気学的な年代推定は後期白亜紀のK–Ar年代と整合しない.この地域の岩脈の年代については今後再検討する必要があると考えられる.
引用文献 木村克己・貴治康夫 (1993) 地質雑, 99 (3), 205–208; Safonova, I. et al. (2016) Gond. Res., 33, 92–114; Shibuya, H. and Sasajima, S. (1986) JGR, 91 (B14), 14105–14116; Oda, H & Suzuki, H. (2000) JGR, 105 (B11), 25743–25767; Ando, A. et al. (2001) JGR, 106 (B2), 1973–1986; Uno, K. et al. (2012) Geophys. J. Int., 189 (3), 1383–1398.
はじめに 美濃帯犬山セクションの三畳紀層状チャートには火山岩岩脈が複数貫入しており,この地域に発達する坂祝シンフォームと呼ばれる向斜状構造の両翼(南翼と北翼)に露出している.この地域では層状チャートの古地磁気が詳しく研究され,初生磁化と推定される低伏角の残留磁化成分の他に複数の二次磁化成分が含まれることが判明している(例えば,Shibuya and Sasajima, 1986).そこで筆者らは,チャートの二次磁化成分の獲得が火山岩岩脈を形成したマグマ活動と関連していた可能性を検証するために,岩脈とその周辺のチャートの残留磁化を調査した.
地質,先行研究,試料採取 岩脈は玄武岩である(木村・貴治, 1993; Safonova et al., 2016).木村・貴治(1993)は岩脈の2試料から90.1±4.5 Maと84.3±4.2 Maの全岩K-Ar年代を報告している.一方,Shibuya and Sasajima (1986)は赤色チャートから4つの磁化成分を分離し,低温成分から順にA, B, C, D成分と名付け,A~C成分を二次磁化,D成分を初生磁化と判断した.二次磁化の獲得時期は,A成分が中期中新世以降,B成分が後期白亜紀~古第三紀初期,C成分が白亜紀中期と考えられている (Oda and Suzuki, 2000; Ando et al., 2001; Uno et al., 2012).
岩脈とチャートの試料を坂祝シンフォームの両翼から採取した.岩脈試料は北翼の11サイト,南翼の1サイトから採取した.熱接触テストを行うために,複数のサイトで母岩のチャート試料を貫入面近傍及び岩脈から数cm~数m離れた場所から採取した.
残留磁化と熱接触テスト 段階消磁実験によって,多くのサイトの岩脈からほぼ北向き正帯磁の,地心軸双極子磁場方位と類似する特徴磁化成分が分離された.一方,チャートの残留磁化には貫入面近傍と岩脈から離れた場所との間で成分数や磁化強度などに違いが認められた.岩脈から数十cm以上離れたチャートからは複数の残留磁化成分が分離されたが,岩脈近傍のチャートは単一の磁化成分を示し,その方位は岩脈の特徴磁化方位とほぼ同じであった.チャートの自然残留磁化は岩脈に近い試料ほど強度が高い傾向が見られた.以上の結果は,岩脈(マグマ)の熱は貫入面近傍のチャートを再磁化させたが(熱残留磁化),数十cm以上離れたチャートには磁気的な影響をほとんど及さなかったと考えれば説明可能である.
岩脈の貫入時期 上述の熱接触テストの結果から、岩脈の北向き正帯磁の特徴磁化成分は初生磁化と考えられる.これを前提に岩脈の貫入時期を推定する.まず,両翼の岩脈が類似の残留磁化方位を示したことから,貫入は坂祝シンフォームの形成後で,古第三紀初期よりも後である可能性が考えられる.次に,この地域が古第三紀初期以降で北向き方位を持つ年代となると,日本海拡大に伴う西南日本の回転運動終了後の16 Ma以降と考えられる.したがって,残留磁化方位の観点からは,岩脈は16 Ma以降に貫入した可能性があると言えそうである.しかし,この古地磁気学的な年代推定は後期白亜紀のK–Ar年代と整合しない.この地域の岩脈の年代については今後再検討する必要があると考えられる.
引用文献 木村克己・貴治康夫 (1993) 地質雑, 99 (3), 205–208; Safonova, I. et al. (2016) Gond. Res., 33, 92–114; Shibuya, H. and Sasajima, S. (1986) JGR, 91 (B14), 14105–14116; Oda, H & Suzuki, H. (2000) JGR, 105 (B11), 25743–25767; Ando, A. et al. (2001) JGR, 106 (B2), 1973–1986; Uno, K. et al. (2012) Geophys. J. Int., 189 (3), 1383–1398.