日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-EM 固体地球電磁気学

[S-EM15] 地磁気・古地磁気・岩石磁気

2022年5月30日(月) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (19) (Ch.19)

コンビーナ:佐藤 哲郎(東京大学地震研究所)、コンビーナ:吉村 由多加(九州大学大学院比較社会文化研究院)、座長:佐藤 哲郎(東京大学地震研究所)、吉村 由多加(九州大学大学院比較社会文化研究院)

11:00 〜 13:00

[SEM15-P04] 堆積物形成初期に磁性細菌Magnetospirillum magntotacticum MS-1が獲得する残留磁化の検討―NRM獲得効率を低下させた系

*政岡 浩平1諸野 祐樹2富岡 尚敬2浦本 豪一郎3山本 裕二3大野 正夫1 (1.九州大学、2.海洋研究開発機構高知コア研究所、3.高知大学)


海底堆積物には自然残留磁化(NRM)として,過去の地磁気の変動がほぼ連続的に記録されている.このNRMは,陸域から運搬され,堆積した磁性鉱物のみが担うものではない.細菌に由来する生物源の磁性鉱物がその20–30%を担うものもあり,量的重要性が指摘されている(e.g. Yamazaki, 2012; Yamazaki and Ikehara, 2012).しかし,堆積物が獲得するNRMの性質について,培養細胞を用いて検討している例はPaterson et al. (2013)に限られる.我々は,これまでに,培養した磁性細菌Magnetospirillum magnetotacticum MS-1(以下MS-1)の細胞群を用いて,「堆積物形成初期」に生物源マグネタイトが獲得するNRMの性質について検討してきた(政岡ほか, 2018JpGU, 2018SGEPSS, 2019JpGU, 2019SGEPSS, 2020JpGU, 2021JpGU, 2021SGEPSS).NRM獲得の過程は,50℃に恒温保持した寒天融解液に7 cm3当たり数十億のMS-1の細胞を混合し,地球磁場を模した人工磁場の下,自然空冷して固結させることで模擬した.しかし,50℃から磁場を印加して試料を作製すると, MS-1の細胞群が非常に効率的に配向し,実際の堆積物を十分に模擬することができなかった.配向度を抑制するため,磁場印加開始時の寒天温度を系統的に変化させた試料群を作製した結果,寒天の温度低下に伴う固結の進行によって,試料のARM異方性が低下し,実際の堆積物にみられるNRM/ARM比・NRM/IRM比との差を数倍~数十倍程度まで縮めることができた.
 今回は,さらに,MS-1の細胞群の配向を抑制した条件下で獲得するNRMと印加磁場強度の関係について検討するため,磁場印加開始時の温度を50℃・44℃・40℃の3条件とし,さらに,印加磁場強度を0–90 μTの範囲で変化させた試料群を作製した.印加磁場方位は偏角0°・伏角0°で,各試料は一定の細胞数3×109 cells/ 7 cm3を含有する.寒天温度は磁場印加開始の直前まで恒温保持装置で調節し,熱電対でその温度を測定した.
 NRM方位について,50℃・44℃の試料群は印加磁場方位とよく一致したが,40℃の試料群は偏角20.4°・伏角48.5°以下の範囲でばらついた.また,印加磁場強度の増加に対し,50℃・44℃の試料群のNRM強度の増加は ,双曲線正接関数(tanh関数)に従って非直線的であったが,40℃の試料群では90 μTまで直線的であった.90 μTで作製した試料について,50℃のNRM強度は2.17×10-9 Am2であったが,44℃ではその61%,40℃では40%に留まった.印加磁場強度の増加に対するNRM/IRM比の増加はNRMと同様で,90 μTで作製した試料の値はそれぞれ50℃; 0.89, 44℃; 0.67, 40℃; 0.47であった.NRM強度およびNRM/IRM 比は,磁場印加開始時の寒天温度低下に伴って減少し,印加磁場強度の増加に対する応答が直線に近づいていることがわかる.これは,磁場印加前にMS-1の細胞群の一部がランダムな配向状態で寒天に取り込まれた後,ブロックとして印加磁場に対して配向した結果,全体としてMS-1の細胞群の配向が抑制され,NRM獲得効率が低下したためであると考えられる.堆積物のNRM獲得過程を寒天で模擬する場合,まず,寒天の部分的固結によって堆積物の物理的環境を再現し,その後,磁場を印加して試料を作製することで,実際の堆積物と比較できる可能性があることを示唆している.